第22把:死神の涙。
先ほどから、件の魂は同じところを回り続けている。
具体的には魔方陣の中心付近を、だ。
「お、おい。どういうことなんだ? あれが例の魂なのか?」
「……否ですわ」
やんわりと、しかし確実に否定する。
「あれは、私たちが追っている――ソテツが必要としている魂とはまた別物。はずれ、ですわ」
「そ、そうか……」
無意識のうちに落胆した声を上げてしまっていたことに公開する。少なくとも、俺は一度死んでいる存在だ。多少の未練はあれど、もはや執着はない。でも、コイツは違う。
パートナーである俺が生き延びることを望んでいるのだ。
「ま、まあ、外れるのは仕方がないだろ。魂なんてこの世に腐るくらいあるんだ。一回や二回外れることくらいあるだろ」
できるだけ明るい声で励まそうとする。
「……いいえ」
だから
「……もう、チャンスなんてありませんわ。失敗……ただ、それだけ」
彼女の言葉が自分の予想を上回って震え、怯えを含んでいたことにただただあっけにとられるしかなかった。
「ソテツも見ていたように、この魔方陣はルカさんが描いてくれたものですわ。私なんかが作るのと比べれば、その効力も精度も比べ物になりません」
地面に手をつき、トト自身の能力によって今尚ぼんやりと明かりが灯る曲線に触れる。
「最後のスイッチを入れたのは私ですが、それでもほとんど結果が変わることはありえませんの。……これは、そういうものですから」
「…………」
「この魔方陣を構成する要素は二つ。特定の魂を引き寄せる力。特定の魂以外を近づかせない力。二律背反。アンビヴァレンツ。二種類の異なる能力の併用で、さらに精度を上げていますの。まったく同じ思考を持ち、まったく同じ嗜好を持ち、まったく同じ生き方をして、まったく同じ死に方をして、まったく同じ想いで地上に留まっている魂なら……、それもあることかもしれません。でも……、そんなこと……」
まるで歩きながら夢でも見ているかのようにふらふらとした足取りで円の中心に向かう。
悲しんでいるなら、慰めることもできただろう。
泣いているなら、励ますこともできただろう。
でも、彼女の心は空虚。
空っぽで、虚ろな見えない奈落。
俺に、彼女の心を支えてあげるようなことはできなかった。
「ここに在るのは……間違いなく私たちが呼び寄せた魂。例の事件で死んだ男性のものですわ」
そういって、空を走る魂に手を寄せる。すると、まるで衛星が引力に惹かれたかのように彼女の手のひらへと滑り込んだ。
「残念ですわ……本当に、残念です。……私たちの予想が間違っていたなんて」
彼女の胸の前で手を離すと、その場で魂は静止する。
そして、どこから取り出したのか死神の象徴――大鎌――を手に、印を切り、ソレを悼む。
まるで踊るように。
まるで嘆くように。
まるで笑うように。
まるで意味もないように。
ただただ、悲しい踊りは続けられた。
その瞳には、涙が浮かんでいたようにも見える。
やがて彼女の抱く光は空に霧散し、最後まで残った小さな光もぼんやりと闇に消えた。
「……ソテツ」
こちらを向いた彼女の瞳には、一粒のかがやきが在った。
――ごめんなさい。
小さなつぶやき。
その言葉と共に、一筋の涙が地に落ちた。
あ、人のこといってられない。自分もスランプ気味。
って、いつものことか。ならよしwwww
そして、いつの間にか3000アクセス突破してました!
え、おそい? いや、まあ更新が遅いから仕方ないでしょ?
気合入れて次とか、次の次くらいにはひと段落させたいと思います。
感想で猫の話すると更新が早まるかもよwww