第21話:死神の魔法。
目を閉じ、そっと囁くように言葉を紡ぐ。
紡ぐのは、光。
紡ぐのは、心。
紡ぐのは、魂。
紡ぐのは……、あなた。
紡ぐ言葉は光となってあたりを包む。
溢れる光は宙に跳ね、地に浮かぶ。
私の心は光に乗って、空に届く。地に届く。
握る刃は傷つけるためのものではない。
翻る銀の煌きは絶望させるためのものではない。
ただ、想うために。
ただ、祈るために。
今を。明日を。昨日を。過去を。未来を。
ただ、誓うために。
ただ、あの日の約束のために。
振るう。
振るう。
振るう。
銀の軌跡は光とともに。
銀の調べは風とともに。
銀の風たる私とともに。
地を走り、宙を翔る。
地に広がる印は銀の光で満たされる。
宙に拡がる想いはその輝きにさらに光を強める。
疾く、彼のために。
疾く、私のために。
『其の望み。我が望み。生きる想いがその背に乗りて。道を歩むは苦が如し。解き放ちたもう、其のために。我が力が其を叶う。其れが想いが其を叶う。
さあ、その苦しみ、我が解き放ちたもう。さあ、来るがよい、我の下へ!!!!!!!』
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それはまさに幻想だった。
幻想的とか、そういう類のものじゃない。幻想そのもの。
もはやこの世に存在する全てのものよりも美しく、力強かった。
彼女の紡いだ言葉が光になって、それが空間を満たす。
地面に描かれた魔法陣だけではない。それ以外の地面、空中にも光は浮かび、また複雑な模様を浮かび上がらせる。
それにあわせて舞う彼女もまたひどく美しく、俺は一瞬我を忘れてひたすら見入ってしまっていた。
それから数分――とは言っても、実際に体験してみるとそれは数時間にも及んだようにも思えたが――彼女の最後の呪文の後、唐突にそれは終わった。
「……ソテツ」
トトが不安そうにこちらを見る。
「終わったのか?」
無言で頷く。
準備は終わった。
あとは待つだけ。
さっきまで彼女がしていたことは、魂を呼び寄せるための空気を作るためのものだ。
その対象について深い情報を知っていればいるほどその効力を強めることができる。昼間の間にたずねた遺族からできる限りのことは聞き出している。
あとは、トトの能力と時の運。
ゆっくりと、しかし確実に時間は過ぎていく。
空気がじっとりと肌に絡みつく。
いつのことか、どこかの森でさまよったことを思い出す。たしか、雨の降る直前だったか。無性に蒸し暑く、雨季特有のじめっとした空気と暑さから来る汗でシャツが張り付いていた。あの時は、しばらくして通りかかった人に助けてもらったんだっけか……。
そのときの光景が目の前の景色と混ざる。
どこか寂しそうな瞳をしていた、名前も知らないあの子の顔が浮かぶ。
「また……会いたいな」
そんな一言が思わず口をついて出る。
トトが不思議そうにこっちを見ていた。
「……いや、なんでもない。ちょっと昔を思い出してた」
「そうですの? ……ふふ。私もですわ」
「え?」
「なんですの、その意外そうな顔は」
トトがじと目で俺を睨みつける。
「死神といえど、昔を思い出すことくらいあるんですのよ? ……こんな、人生を左右するような状況ならなおさらですわ」
そういって、何故かそっぽを向いて俺を足を踏みつける。
「ちょ、痛っ。何、俺何か悪いことしたか!?」
「なんでもありませんわっ」
そのままつま先に執拗に攻撃を加え続ける。
身長差はそれなりにあるが、痛いものは痛い。とりあえずトトの攻撃の及ばないところに避難する。
そのまま追ってくることはなく、必然的に攻撃もやむ。
そしてそのまままたもとのような静寂があたりを包む。
トトも不安なのだろうか。
もう俺はこいつのパートナーだ。俺の意思はもはや関係ない。少なくとも、トトはそう思ってるはずだ。
……死ぬわけにはいかないな。そう思う。
ふと、視界の端に映る光がある。
ゆらゆらと、ふわふわと、まるで波間に漂うくらげのように空中を漂っていた。
「……っておい!? あれ!!!」
「なんですの? 私はいま忙しいんですの」
「違うって、あれみろ! あれ、早く!!」
「だから私は今忙しいって――」
振り返ったトトが動きを止める。
俺たちの目の前を横切るのは……
「魂……だよな?」
まさしく、それは魂だったと思う。
「いや……、でも、そんな……」
トトはうろたえる。
「なんだ、どうしたんだよ一体?」
俺は戸惑う。
そして、魔方陣の中心にその魂は引き寄せられて、その場でくるくる回りだした。
いよいよ物語(とはいっても一章)もクライマックスです。
ソテツくんは生き残れるのか。どうなのか!?
所詮プロでない私にはハッピーエンドなどというルールに縛られることもないのです。
てゆーか、悟空は間違いなく死んでますしね。そういう続け方もあるってことですよ。
とりあえず、元気は回復しましたがいかんせん筆が進みません。
だいたいストーリーは考えてるんだけどなー・・・。とか、言い訳してみましたが、まあ全力でがんばりますよ。
次回「第22話:十一台の自転車と13人の死神。みんなで目的地に行くにはどうしたら!?」の巻。
嘘ですが。