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エクスカリバー壊れがち

 山田一郎は王国の裏方で働く平凡なサーバントだ。自分の仕事をさっさと片付けて、暇を持て余して、王宮をぶらぶらする内に広間の片隅の神器を見つけてしまった。聖剣エクスカリバーである。


「わー、本物のエクスカリバーだ」山田はそう呟くと、あたりを伺って、そっと手に取った。伝説の聖剣は華奢な見た目以上にずっしりと重かった。そして、すごいパワーが刀身から伝わった。「うおー、すげー!」


 山田は調子に乗って、エクスカリバーをぶんぶん振り回した。騎士の動きを見様見真似で再現する。これが必殺の回転切りだ!


 しかしながら、ド素人の読みは完全に外れて、刃はかっこよく空を切らず、切っ先が柱に「がきーん!」と直撃した。


「あ、やってもうた……」山田は冷や汗を掻いて、台座にエクスカリバーを戻そうとした。


 その瞬間、城主が入ってきた。当然のごとくアーサー王である。


「山田、何でおまえがここにいる?」アーサーは怪訝に言った。「あと、何か変な物音がしたぞ?」


「あ、あの、陛下! この剣を見つけちゃって、ちょっと試しに振ってみたら…...」山田はへどもどした。


「試しに? あー、おまえはエクスカリバーを試し振りして壊したのか!?」アーサーは傷に気付いた。


「すみません、すみません」山田は涙目で訴えた。


「あーあ、おれの聖剣が台無しだ」王はがっかりした。「修理しろ! 鍛冶屋を呼べ!」


「はい!」


 まもなく王国の鍛冶屋がやって来た。王国随一の職人だ。一瞬で聖剣の傷を修理して、さらにぴかぴかに磨き上げた。


「心配するな。大した傷じゃない。そもそもぴかぴかの武器というものは丘サーファーのようなビミョーな存在だ」鍛冶屋は優しく言った。


「ありがとう……ほんとに助かった……」


「誰が丘サーファーだ」アーサー王は不満顔で言った。「とにかく、もう二度とするなよ」


「もう二度と触りません!」山田は高らかに誓って、王の寛大さと鍛冶屋の腕前に歓喜した。


 その数週間後、山田はまたもや早めに仕事を終えた。彼の仕事ぶりは優秀だった。しかし、好奇心が人より旺盛だった。そんな彼の目にふとエクスカリバーが入ってしまった。


「待てよ、山田一郎。この前の悲劇を思い出せ。仏の顔も三度までだ。王侯のおおらかさを当てにするな」


 しかし、目の前のその伝説の剣はあまりに魅力的だった。あと、きれい好きな山田の目には剣の埃と曇りが気になった。そして、イエローカードはまだ一枚だけだ。


「聖剣が埃まみれだ。アーサーさまは意外とずぼらだな」山田はあたりを確かめ、それをそっと手に取った。またしても、その重厚なる手応えと凄いパワーが見習いを伝説の勇者のような心地にさせた。


 その時、背後から声が響いた。


「こら、山田一郎!」


「えっ、陛下!?」山田は突然のアーサーの声に驚いて、エクスカリバーを床に落としてしまった。聖剣がばしゃんと音を立てて、ひび割れた。


「うわぁぁぁ! ダメだ!」


「うおー、またやりやがった!」アーサー王は大慌てした。


 その瞬間、またあの鍛冶屋が登場して、即座に剣を修理した。


「すいません、すいません」山田は言った。


「おれに謝るな。王に謝れ」鍛冶屋は答えた。


「アーサーさま、たびたびの失態をお許しください。埃を拭こうと思って……」


「ふむ、そうか。次は減給処分だぞ」王は鷹揚に言った。


「お情けに恐れ入ります!」


 数年後、王国に突如として魔物の群れが襲来した。くしくも王や騎士たちは不在だ。しかし、魔物たちの狙いは城主でなく、エクスカリバーだ。


「おれがこの剣を守る!」山田は剣の前で言った。


「ケケケ、生意気な人間だな。八つ裂きにしてやる!」魔物たちは四方からじりじり迫った。


「くそ! アーサーさま、お許しを!」覚悟を決めた山田はエクスカリバーを掴んで、ぶんぶん振り回した。「おれは丘サーファーじゃない!」


「ぐわー!」魔物たちは聖剣の凄いパワーの前になすすべなく消滅した。


「うおー、すごい力だ。さすがはエクスカリバーだ」山田は言って、剣を見た。その途端、剣の柄部分がぽっきり折れた。「ぎゃー!」


 そして、この期に優しい鍛冶屋は現れなかった。山田は錯乱しながら、広間を駆けずり回り、出窓のスペースにガムテープとボンドを見つけた。困窮したサーバントの目にはそれが魔法の道具に見えた。


「えーい、ままよ!」山田は柄の断面にボンドを塗りたくり、次にガムテープでぐるぐる巻きにした。見た目は完全に変てこだったが、手応えとパワーは元通りになった。エクスカリバーは違うぜ!


 後日、アーサー王が帰還して、ボンドでガムテと修理されたエクスカリバーに驚いた。


「山田ぁ!」


「申し訳ございません」山田は減給を覚悟しつつ、モンスター襲来と撃退の顛末を語った。


「ならば、仕方ない。むしろ、褒美をやらねばな」アーサー王は名君らしくそう言った。


「じゃあ、新しいサーフボードをください」


「え、おまえはガチのサーファーだったの?」


「はい、湘南生まれです」


 この従者の勇気と忠誠の証としてガムテープとボンドで直されたエクスカリバーは長らくそこに展示され続けた。

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