DAY4
放課後部室に行くと大槻さんがいつも太宰さんが座っている窓際の席に座って僕のことを待っていた。大槻さんは僕が部屋に入ってくるのを見るとニヤっと笑って話し始めた。
「来たネ…じゃあ昨日の約束通り何でも聞いてくれていいからネ」
僕は彼女に近づいてまず最初にこの部室について聞いてみることにした。
「この部室、呪われているって向井さんに聞いたんですけどどういうことなんですか?趣味を開放していなければいけないって…」
「あぁそのことから聞いてくるのカ、趣味を開放なんて言われると混乱するのも仕方ないネ」
そういって大槻さんは正面の席に座った僕の顔を凝視しながら話をつづけた。
「この部屋は要するに嘘をつくことができない部屋なんだヨ、この部屋にいる間は自分がしたいことや自分の好きなことを偽ることができない…そんな部屋なんだヨ、だから本好きな部長は頭に自分で作ったしおりのようなものをつけているし、副部長は自分の作ったオリジナルのキャラクターになりきっている…だからこの部屋にとどまっていることができるんだネ」
ここまで聞いてやっと僕は少しこの部屋についての理解が固まってきたような気がした。僕がなるほどと言って納得しているようなそぶりをしていると大槻さんはそれを見ながら話しの話題を僕の方に移し始めた。
「しかし君はなんでこの部屋で普通の格好をして普通に座っていられるのか不思議でしょうがないヨ、でも今少し試してみたいことを思いついたカラ、少し君の持ち物を確認させてもらってもいいカ?」
この時の僕は今思い返してみると少し不思議なくらい落ち着いていたような気がする。なぜならこの時僕の鞄の中には教科書に紛れてこの日記や自作の詩を書いているノートを入れてきていたから、普段だったら鞄を渡すことに躊躇しそうなものだったが、この時はなぜだか落ち着いた気持ちで鞄を渡していた。まるで見られてもなんとも思わないような心持だった。
「どれどれ何が入っているのカナ?ふむ、教科書とノート以外何も持ってきていないんだネ…ン?これは自由帳カ、見てもいいカ?」
「はぁ…別にみても困るようなことは書いてないと思いますよ」
嘘だ!ありえない…今こうして今日の僕の行動を振り返ってみるとあまりにも不自然な気がする。いやそれよりも大槻さんと話している間ずっとおかしかったような…なんだかあまりにも落ち着いて話しているみたいな、たとえて言うならもう一人の自分に話をしていたようなそんなくらいに変にリラックスした気持だった気がしてきた。
部活動の話に戻そう。僕のノートを真顔で読んでいた大槻さんは急に腹をよじって大爆笑しだした。読んでいたページはちょうどこの部活動の手記を書いている部分だった。
「ハハハハ!なにこの手記!いや手記っていうか日記ダネ!タイトルも口調もめちゃくちゃだし…いや面白い、まぁよくこの部活動について記録できてると思うケド…フフフ…こんな面白いものを鞄に入れて持ってきてるから僕に会っても平気でいられるのカナ?」
「はぁ?どういう意味ですか?」
「いずれわかるかもネ、僕はそろそろ帰るヨ、またね太郎君!」
そういって大槻さんは窓のところに立てかけていたアンテナをとって部室を出た。大槻さんが部室を出てから少しして僕も部室を出た。部室を出て入り口のところに太宰さんがいることに気が付いた。僕は声をかけたがこの時の太宰さんは変なことを言って僕を怖がった。
「太郎君…なんでだれもいない部室で一人ごとをずっと言っていたの…?やっぱりこの部屋では趣味を隠している人は普通でいられなくなってしまうのね…」
それだけ言って早足にどこかに行ってしまった。
結局今日一日部室で大槻さんと話したことも改めて記録してみるとわかったことはそんなになかった気がする。
今日の夜も大槻さんは家に訪ねてくるかと思ったが今日は来なかった。