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DAY3

・DAY3

まず今日の出来事を書き起こしていく前に、頭の中を整理するためわかっていないことをまとめていこうと思う。まず一個目はこの部活動そのものの存在(そもそも活動内容が全然書道部じゃないし、活動内容なんてそもそもないけど)と、あと二つ目にあの新入部員の大槻さんのことである(夜の11時過ぎに急に初対面の人の家を訳もなく尋ねるのは普通に怖すぎる)。まあ二つとも部員に聞けば解決するような問題ではありそうなので、そこまで悩んでいる訳ではなかったのだが。

今日部活動に来ていたのは、向井さんだけであった。向井さんは前に会った時と同じ茶色い外套と、両目の周りを黒く塗りたくった不気味な格好で四つある机のうちの黒板側で窓側の、その机の端っこに座っていた。長く伸びたパーマの髪が窓から差し込む日光を受けて綺麗に光っているように見えた。シルエットだけ見れば普通の綺麗な女の子が座って本を読んでいるように見えた。向井さんは入ってきた僕を目視すると前に見せたのと同じように不気味に笑って挨拶をした。

「やぁタロフェル!久しいね」

「あっこんにちは」

相変わらずの大声に圧倒されてうまく挨拶ができなかった。

この後五、六分二人とも黙って本を読んでいたのだが、急に向井さんが叫びだした。なぜだがこの前実験と称して作っていたダイラタンシーらしきものに話しかけているように見えた。

「いやまったく!創作活動というものは難しくてかなわんなぁ!」

「ど、どうしたんですか急に…」

「俺は少し変わった学園コメディーのようなものを書いてみたかったのに、これじゃあまるで下手な怪奇小説じゃないか!まるで筋が通っていないぞ!」

向井さんはこちらの話に全く耳を傾けず、ものすごく激怒して向井さんの横に置いてあった透明なお盆に入っていたダイラタンシーらしきものに怒鳴りつけていた。ひとしきり言いたいことを言った後、急に落ち着いて僕の方に向き直り真顔で謝りだした。

「すまなかったな」

「い、いえ別に…」

何が怖かったって急に怒鳴りだしたことも怖かったのだが、問題は怒鳴っている間中ずっと顔があの不気味な笑顔のままだったことが一番恐ろしかった。その時初めて向井さんの真顔を見たけれどやっぱり普通にしていればかなりの美少女だと思った。

ほんの数秒たったあとまたいつもの笑顔に戻って話し始めた。

「君はこの部活に入ってから驚きっぱなしだろう、何か聞いときたいこととかないかい?」

僕はまだ急に向井さんが激怒したときのショックから立ち直れていなかったのだが、この部活についてまだわかっていないことが多すぎるので、動揺しながらも質問してみようという気になった。

「ええっと…まずこの部活って何する部活なんですか?まずこの部活書道部じゃないですよね?書道全然しないし」

「この部活は太宰から聞いてると思うけど元々は書道部だったのだ、だけど書道部の人気がないせいか去年の卒業生を最後に部員が全員いなくなったんだ」

そこまではなんとなく太宰さんから聞いたような聞かなかったような気がしていた。

「なぜ去年の卒業生で部員がいなくなったかというと、この部室には呪いがかかっているからなのだ」

ここからは初耳だったし呪いって胡散臭いにもほどがあるだろと思った。しかも太宰さんの言っていたことと食い違うし。だけど僕はそういった怪談系の話を聞くのが好きだったので全く信じてはいなかったけど、より詳しく聞いてみることに決めた。

「はぁ、じゃあ具体的にどういう呪いなんですか?」

「自分の趣味に正直にならないとこの部屋から追い出される呪いだよ」

なんとも地味な呪いだと思った。

「この呪いについて知っているのは私と太宰と太宰の父、すなわち校長の三人だけだ」

「え!太宰さんのお父さんって校長だったんですか」

「そう、君まだこの話全然信じてないだろ!」

そりゃそうだ、もしその話が本当だとしてなぜ書道部員がまったく集まらないのか、なぜ書道もしないのに書道部室を残しておくのかまったく説明がつかないじゃないか。

「いいか書道部っていうのは皆同じような字を書いて、文化祭なんかのイベントの時には団体作業をしなければならなかったりするんだ」

「はぁなるほど」

「書道部には別に好きだからという理由で入るようなやつばかりではないと思うんだ、例えば字を綺麗に書けるようになりたいから入部したっていうやつだっているわけで、この学校で書道を本気で好きだったやつがいたのは卒業した三年生以外にはいなかったわけだな!」

あまりにもめちゃくちゃな呪いだし、くそ地味な呪いだと思った。

「だからこの部活にいる間は趣味を開放しなければならない、私がこんな格好をして奇行をしているのはそれが趣味だからだ!」

どんな趣味だよと突っ込みたくなったが話を逸らしたらいけないような気がしたので質問を続けることにした。

「なんとなくわかりましたけど、じゃあなんで書道部のままにしておくんですか?意味なくないですか?」

「いやこんな不思議な部屋があったら実験したくなるだろ?わざと書道部の名前を残しておいて訪ねてきた人や入部した人の反応を観察しているのだ、この部屋についてわからないことが多すぎるのでな」

そうこう話しているうちになんだか向井さんの顔がまた怒りに満ち溢れてきていた。また隣にあるダイラタンシーを今度はわきに抱えて至近距離で怒鳴っていた。

「いや阿保か!これじゃあ益々コメディーじゃなくて怪奇小説になっていくではないか!何が呪いだ!新しい設定盛り込むの下手すぎかぁ!おい君!もう時間も遅いから先に帰りたまえ!」

いわれなくても帰りたくていてもたってもいられなかったので先に帰らせてもらった。

にしても今日は色々なことがあったようななかったような、とにかくこの部活に居れば何もしなくても面白い事件をたくさん見られるような気がして、今からもうワクワクしてくるような気がした。

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