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第6話 18時

 昼休みに俺はフォローしているWeb小説を読むことにした。作品のタイトルは、


『異世界転移したけど、すでにハーレムができあがっていて最高だった! だけど全員が俺の命を狙ってくる件』


 である。タイトルの時点でハッキリと好き嫌いが分かれるに違いない。おそらく作者さんは読者層を男性に絞って書いているのだろう。

 書籍化もされているので買っているし、Web上でもまだ公開してくれている。


 だが内容は単なるハーレムものではない。現実では人生の目標も無く、家と職場の往復でなんとなく毎日を過ごしているだけの彼女なし30代の男が、突如異世界に転移させられることから話が始まる。


 タイトルの通り数人の女の子から好意を向けられ最初は至れり尽くせりだったが、やがてその女の子たち全員から命を狙われていると知った主人公。女の子達はそのために主人公に近づいていたに過ぎなかった。


 主人公には転移する時に女神様からもらったチート能力があるため、負けることはない。

 主人公がバトルに勝った後、女の子が襲ってきた理由がそれぞれ明らかになる。


 それぞれにやむを得ない事情があり、主人公はその手助けをすることを誓う。改めて主人公と接するうちに女の子たちは本当に主人公のことを好きになる。という話。


 テンプレ展開(ありきたりな話)といえばそうかもしれないが、主人公が転移させられた理由・女の子達が主人公の命を狙っていた理由・キャラクターの心理描写・予想を裏切る展開・緻密なバトルなど、しっかりと練られていると思う。そして女の子達がかわいい。


 俺がWeb小説投稿サイトで見つけた時点で既に高評価であり、かなりの人が読んでいることが分かっていた。コメントも批判的なものは数えるほどで、ほとんどが応援やここが良かったという称賛だった。中には女性が書いたであろうコメントもある。


 異世界ファンタジーなのでもちろんフィクションだが、俺が実体験したことがある。


 異世界転移(召喚)だ。もっとも俺の場合は近くにいたのが女の子じゃなくて、魔王を倒さない限り元の世界に戻る方法が無いことが分かっているにも関わらず、片っ端から勇者候補を召喚しまくっている倫理観ぶっ壊れた異世界王のおっさんだったけどな!


 魔王を倒したいけど無理。それならば帰る方法は無いけど異世界から勇者召喚。でも誰も倒せない。さらに勇者召喚。元の世界(現代)に帰れない人達が増え続ける。という地獄の無限ループが出来上がっていたのだ。


 もしかすると召喚した人々を早く帰らせてあげたいという気持ちから、勇者召喚を止めなかったのかもしれない。いや、あの王はそんなこと考えないか。


 昨日の日向(ひなた)さんとの夕食中に、どんなラノベを読むのか聞かれた時この作品名を伝えるべきか迷ったが、タイトルだけではドン引きされる可能性があるため言えなかった。


(しまった、日向さんはどんなラノベを読むのか聞いておけばよかったな)


 俺は最新話を読んで応援コメントを投稿してから仕事を再開することにした。



 俺が昼休みを終えて席に戻ると、すでに日向さんが仕事を再開していた。日向さんの方が先に昼休みに入ったので当然ではあるんだけど。


「先輩、お疲れ様です!」


「お疲れ様」


「今日のお昼はどこで過ごしましたか?」


「休憩スペースだよ」


「お一人でですか?」


「そうだよ」


「ごめんなさい。今日も先輩とご一緒したかったんですけど、同期の子達と過ごすのも楽しくって」


「日向さんが謝ることじゃないよ。それに俺は一人で過ごす方が——」


 俺はそう言いかけたが咄嗟(とっさ)にストップをかけた。「一人で過ごす方が楽」なんて、食事にまで誘ってくれた日向さんに言うべきじゃない。もしかしたら日向さんに余計な気を使わせるかもしれない。


「大丈夫だって。一人でもできることはあるし、いつも一人なわけじゃないからね」


「それならよかったです。あの、テレポートで帰ったりはしないんですか?」


 さっきよりも小さい声で聞かれたので、俺も合わせて小声で答える。


「あくまで魔法は異能であって、使いすぎると怠け癖がついてしまいそうだから、ここぞという時にしか使わないようにしてるんだ」


「だったら昨日、私を送ってくれた後に使ったテレポートも『ここぞ』って時だったんですか?」


「うん、そうだね」


 俺がそう言うと日向さんは嬉しそうな表情になった。マンガ風に言うと「えへへ」という感じだ。



 18時になり定時を過ぎたが、今日中に入力しないといけないデータがあるため今日は残業だ。


「先輩、今日は残業なんですね」


「そうなんだよ。サボってたわけじゃないんだけどね」


「ごめんなさい。今日は友達と約束があるのでお先に失礼します」


「いやいや、日向さんが謝ることなんて全然無いよ!」


 そう言って俺は休憩スペースに行きスマホを見るなどして小休憩をとった。


 自分の席に戻ると、デスクの上に何かが置いてある。近くで確認すると炭酸飲料だった。そしてその下に小さなメッセージカードがあり、丸みを帯びた文字でこう書かれていた。


『ぬるくなったら魔法で冷やしてくださいね』


 誰が書いたかは明らかだ。それにしても俺が夏に飲むキンキンに冷えた炭酸飲料が好きだなんて、いつ話したっけ? 俺ですら覚えてないのに。


 日向さん、こんなかわいいことをするんだな。

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