第43話 待ちに待った日
日向さんの家までお見舞いに行った日の夜、日向さんからメッセージが届いた。以下、やり取りである。
『拝啓、日に日に強くなる日差しの中にも涼しげな風に涼を感じるこの頃、先輩におかれましては健やかにお過ごしのことと存じます。本日はお見舞い、本当にありがとうございました。先輩も熱中症にはくれぐれもご注意ください。敬具』
『お手紙かな?』
『やっぱり硬すぎましたか? きちんとお礼をしなくちゃと思ったんですけど、マナーって難しいですね!』
『お礼なら帰る時に言ってくれたし、それに俺がやりたくてやったことだから、気にしないで』
『先輩って、文字でもそんな恥ずかしいことを平然と言うんですね』
『恥ずかしいことを言ったつもりはないよ』
『まったくもう! 先輩は!』
メッセージでも怒られた。メッセージでは怒っているけど、実際はどんな表情で入力しているんだろう。
またもや月曜日がやってきた。先週と同じく週末に楽しみがあるため、俺の仕事のモチベーションはすでにMAXに到達している。
そういえば先週は金曜日の午後に如月から、ずっとニヤニヤして気持ち悪かったって言われたんだっけ。それならば今週は、表情筋を引き締めて頑張ろう。
すると如月から今度は、「今週ずっと不機嫌だったけど、どうしたの?」と心配されてしまった。俺ってそんなにも顔に出るんだろうか。そして如月はやっぱり優しい。でも金曜日の午後になってから言うのは止めてくれねえかな。
日向さんのお見舞いから帰る時に日向さんが立てた、「もし先輩が寝込んだら、次は私が看病に行きますね!」というフラグをバキバキに折るため、俺はもの凄く体調管理に気を配った。
その結果、無事に約束の日を迎えることができた。ショッピングモールで昼過ぎに待ち合わせをしている。日向さんと二人で出かけるのは、今日で三回目だ。
一回目は俺が異世界帰りだと日向さんにバレた日に、日向さんからの誘いで食事と映画に行った。二回目は俺から夏祭りに誘った。
なので、まだそこまで趣味・嗜好を知っているわけではない。どんな物に興味があるのか、どんなファッションを好むのか、どんな食べ物が好きなのか、自分の価値観とどれくらい近いのか、などまだ知らないことがたくさんある。
それに日向さんとは一度、本屋でラノベについてじっくりと語り合いをしてみたかった、ということもある。
ショッピングモールというのは、それらを知るにはピッタリの場所だ。
そして何より俺は今日、日向さんに告白をするつもりだ。
夏祭りの時と同様に、今日も今日とて約束の一時間前に到着した俺である。会社は遅刻しても、約束に遅刻するわけにはいかない。
……ちゃんと会社にも間に合うように行ってます。
俺にはWeb小説という心強い味方がいる。一時間くらいすぐだ。俺は『日向さんの作品』を読み直した。
三十分後、作者がやって来た。白いワンピースに黒いサンダルという、女の子らしい服装をしている。黒のストレートロングの髪も一段ときれいに見えており、実に映えている。
「ごめんなさい、遅れました」
「俺が早く来すぎなだけだからね。やっぱり日向さんはスーツ以外もよく似合っていて可愛いね」
「ありがとうございます! 褒められちゃった!」
俺ってこんなセリフをサラッと言えるような奴だっけ?
「先輩、早速ですけどラノベを見に行きませんか? 今なら荷物が無いので、手に取って選ぶことができますからね」
「新刊が出てるんだっけ」
「そうですよ! 電子書籍もいいですけど、紙の本は本棚に並べる楽しさがあって、私は好きなんです」
「分かるなあ。まだまだ紙の本には頑張ってほしいな」
日向さんと本屋へ入り、二人揃ってラノベコーナーへと無駄のない動きで到着した。
二人並んで棚にあるラノベのタイトルに目を通していく。日向さんは俺の右側にいる。
「先輩、見てください。ラノベがこんなにありますよ」
「いい眺めだなー」
「どれを買おうか迷っちゃいますよね!」
そうなんだよ。それが正しい反応だと思うんだ俺は。如月は「それなら全部買えばいいじゃない」なんて言ったんだから。
もしかして異世界の宝でもこっそり持ち帰って、どこかに売ってるんじゃないだろうな。
見てるだけでも楽しいが、日向さんと二人きりだということが、俺のテンションをさらに爆上げさせている。
「あれー? また会いましたねー?」
妙に間延びした声をかけられ、左を向くと見覚えのある人物がいる。
如月 結瑠璃。如月の妹で、如月と結瑠璃ちゃんの三人で遊園地に行った時、観覧車をドタキャンして、俺と如月の二人きりで乗せることを本当に実行した、行動力お化けだ。
その行動力は見習いたいが、日向さんと結瑠璃ちゃんの組み合わせなんて、全く想像できない。
(嫌な予感しかしない。少しだけ話して、さっさと切り上げよう)




