第30話 女子高生と会社員
「お待たせしました! 如月 結瑠璃、高校三年生です!」
如月の妹は待ち合わせ場所である、カフェの席の前でそう言った。制服姿だ。白い半袖スクールシャツに青いリボン、ひざが見え隠れする長さの水色チェックスカート。
長身で黒いミディアムヘアによく似合っている。妹さんもかわいい。
そしてショルダーバッグを斜めにかけている。それを見て初めて気がついた。妹さんも如月同様に『デカい』。なのにショルダーバッグを斜めがけ。なぜ斜めがけするのか。実にけしからん! 見ないことは不可能だ。
俺は妹さんが席に座ってから確認した。
「お姉ちゃんはあとどのくらいで着きそう?」
俺がそう聞くと妹さんは不思議そうな表情で答えた。
「お姉ちゃんは来ませんよ?」
「えっ?」
「えっ?」
お互いに不思議そうな表情で見つめ合う。
「三人で話し合いするんじゃなかったの?」
「私、三人でとは言ってないはずですよ?」
「言ってはないけど、何かあったらお姉ちゃんに連絡してと言ってたから、てっきり三人なんだと思ってたよ」
「実はお姉ちゃんにはナイショなんです」
「それならお姉ちゃんを連絡役にしたらダメでしょ」
俺がそう言うと目の前の女子高生は、斜め上に視線を向け、右手の人差し指を頬に当てて考え始めた。
「勘違いさせちゃった。ごめんなさい」
おそらく素なんだろうなあ。見る限り本当に申し訳ないと思っているのだと俺は思う。
「俺が勝手に勘違いしただけだから、気にしないで」
「ありがとうございます。でも、連絡取れないと次から不便ですよね」
「それはそうかもしれないね。……次から?」
「それなら今、連絡先を交換しましょうよ」
俺の返答を待たずにスマホを準備している。俺の「次から?」という質問は無かったことになったようだ。断る理由も無いので、連絡先を交換した。
「これで女子高生の連絡先ゲットですね! なかなかのテクニックです」
「怪しい言い方をするんじゃない! それに君の提案だからね」
「うーん、普段から君って呼ばれ方されないので、別の呼び方にしてもらえませんか?」
「了解、如月さん」
「うーん、お姉ちゃんも如月ですよ?」
「結瑠璃さん、でいいかな」
「もう少し!」
「結瑠璃ちゃん」
「はい! 如月 結瑠璃、高校三年生です!」
「高校三年生は言わなくていいよね!」
相手のコミュ力が高いとこんなことになるのか。でも、ちゃん付けなんて大丈夫だろうか。今の時代結構アウト判定をくらいそうだけど。
「連絡先を交換できましたし、そろそろ本題に入りましょう」
「俺、本題が何か知らないし、そもそも何のために呼び出されたの?」
「それはですね、お姉ちゃんに彼氏を作ってもらうためです」
「どうやって?」
「彼氏になってあげてください」
「ストレートすぎない?」
「そうですか?」
「段階というものがあるよね?」
「無くてもいいと思いませんか?」
やべえ、これは会話なのか? 俺なんて質問4連打だぞ。しかもそのうち2つは質問で返される始末。
「高校生までならそれでもいいかもしれないけど、なんの脈絡も無しにってのはお姉ちゃんも嫌なんじゃないかな」
「そんなことはありませんよ」
「凄い自信だね」
「ずっと一緒だったから分かるんです」
「結瑠璃ちゃんはお姉ちゃんのことが大好きなんだね」
「はい! 明るくてかっこよくて優しくて自慢の姉です!」
なんだかんだで如月は人から好かれるタイプなんだよな。
「それには俺も同意だね。彼氏がいてもおかしくはないと思うけど」
確か前にスキンケア用品を如月と買って夕食を一緒にとった日に、彼氏いないと言ってたな。
「彼氏どころか、男友達の話すら聞いたこと無いんですよ。それにあんなに慌てたりするお姉ちゃん見たこと無いです」
「そう? 俺は慌てる如月をよく見るよ」
「他の人には見せない姿、それがもう特別なんですよ」
「もしそうなら、俺にだけ当たりが強いことも特別ってことかな。女の子はそういうこと結構あるの?」
「分かりません!」
「えっ?」
「えっ?」
「いや、結瑠璃ちゃん詳しそうだなと思って」
「私自身は彼氏いたこと無いですよ」
高校三年生だとそういうこともあるか。
「もしかして、彼女がいたりします?」
そう聞かれて俺は少し間を空けてから答えた。
「彼女はいないけど、彼女にしたい人ならいるよ」
「そうなんですか。分かりました」
如月も本当に魅力的だし楽しいから好きだ。でも彼女として好きかと聞かれたら——。
「それならデートしましょう!」
「俺の話聞いてる?」




