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俺が異世界帰りだと会社の後輩にバレた後の話  作者: 猫野 ジム


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第25話 二人で見上げる花火

 りんご飴を買うため行列に並んでいる間に、日向(ひなた)さんが投稿しているWeb小説の話をした。


 タイトルは『嫌われ令嬢は魔王を倒して完璧王子と結婚したい』だけど、略称が決まらないため、『日向さんの作品』と呼ぶことで作者の公認を得た。


 パッと見、『完璧()()』が『完璧()()』に見えてしまうことは黙っておくことにした。完璧玉子ってなんだろう。

 だって『璧』の字に『玉』が含まれているんだから仕方ない。ごめんよ日向さん、これは不可抗力なんだ。


 日向さんの作品の話をしているうちに列の先頭になったので、りんご飴をふたつ買い日向さんにひとつ手渡した。


 りんご飴。食べるのは小学生以来か。真っ赤に染まったそれを見ると、家族で来た思い出が甦る。その時は小さいサイズを食べるのが精一杯だったけど、今は普通サイズでちょうどいい。俺も大人になったんだな。


「先輩、美味しいですね!」


「美味いね!」


 会話のキャッチボールが一往復で終わった。今までの俺なら沈黙を避けるため無理にでも話を引き延ばそうとした挙句、中身の無い会話になることも多かった。


 でも今は違う。話を無理に引き延ばそうとは思わない。「飴をガリガリ噛んだ後に、林檎のシャキシャキ感とジューシーさが同時にやってきて絶妙なハーモニーを——」などと食リポするのもいいのかもしれない。

 だけど一言交わすだけでも心地よく、沈黙が苦にならない関係というのが俺の理想だ。


 果たして日向さんはどう思っているのだろう。一緒にいてもつまらないと思われていないだろうか。


「花火までまだ時間あるね。次は何を食べようか?」


「たこ焼きはどうですか!」


「いいね!」


 俺がいいねボタンでも代用できそうな返事をすると、日向さんが「あっちに屋台が見えます」と言って足を早めた。俺にはそのくらいの速度でちょうどいい。


 日向さんは浴衣に合わせて下駄を履いている。歩くたびにカラコロと鳴って風情があり、とてもいい。

 それと同時に心配でもある。『ラブコメの夏祭りで、女の子が履いている下駄の鼻緒が切れるか、もしくは鼻緒ずれで女の子が歩けなくなりがち』。俺もマンガやアニメでは大好きなシチュエーションだ。


 ただ、現実で起きるとどうだろう。もの凄く困るに違いない。今すぐ日向さんの下駄を総点検したいくらいだ。

 でも何も起きてないのに、「下駄脱いで見せて」と言って観察を始めたら、今まで築き上げたものが一瞬で崩れそうだから止めた。


 たこ焼きの屋台へ着いた俺達は少し待ってから、日向さんと並んで注文した。


「ひとつ下さい」


(にい)ちゃん、彼女の分はいいのかい?」


 40代くらいの男性店主にそう聞かれた。本当にこんなこと言われることってあるんだな。

 ただ、わざわざ「彼女じゃないです!」と否定する意味は無いと考えた俺は、訂正をしなかった。


「二人で分けるって話になりまして」


 俺はたこ焼きが入った舟皿を受け取ると、日向さんに差し出した。


「あ……、ありがとうございます。とっても美味しそうですね」


 日向さんはつまようじを持つと、たこ焼きを口へ運び「おいひいれふ(おいしいです)!」と、飲み込んでからでいいのに感想をくれた。

 

 その後もゆっくりと屋台をまわり、花火の時間が近づいてきたので会場へと足を運ぶ。


 混雑ぶりが凄い。屋台通りの比じゃないだろう。他人との距離が何とか一人分あるかないかといった具合だ。

 俺と日向さんはその狭さのせいで、いつもより近い距離で進むことになった。


 会場へ到着し花火の時間になった。耳の奥に響くような轟音とともに、彩りのある光が夜空に現れる。いつ見ても壮観だ。俺と日向さんも無言で夜空を見上げた。


 そして様々な花火が打ち上がるわずかな合間に、日向さんが(つぶや)いた。


「先輩と来られてよかったです」


 すぐさま「俺も日向さんと来られてよかった」と返したが、花火の音と重なったため日向さんに届いたのかは分からない。


 少しすると右手に何かが触れた。見なくても分かる。きっとさっきの俺の言葉が届いていたんだ。俺と日向さんは手を繋いで夜空に輝く光を見上げていた。

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