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俺が異世界帰りだと会社の後輩にバレた後の話  作者: 猫野 ジム


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第24話 夏祭り

 夏祭り花火大会に日向(ひなた)さんを誘ったらOKがもらえた。女の子をデートに誘ったのはずいぶんと久しぶりだ。


 高校は共学でクラスの半分は女子だったけど、女子と話したことあったっけ? 


 では大学生の時はどうだったか。何回かグループで遊んだりして割と仲良くなって、いい感じだと思った女の子に告白したら、「そういうふうに見られていたとは思っていなかった」とフラれてしまった。


 元々脈が無かったのかタイミングを間違えたのかは分からない。女の子も思わせぶりじゃなかったし、ハッキリと断ってくれたから悪い子ではなかったはず。



 そんなことを思い出しているうちに日向さんとの待ち合わせ場所に着いた。約束の1時間前だ。


(さすがに早く着きすぎたか)


 混雑を予想してかなり早めに出発した。確かに混雑していたが、電車が混雑してるからって到着時刻は変わらない。


 こういう時に活躍するのがWeb小説だ。ホントにいい娯楽だよな。


 俺がページを開いた作品名は『嫌われ令嬢は魔王を倒して完璧王子と結婚したい』。

 作者は日向さん。これも俺と日向さんしか知らない『二人だけの秘密』だ。


 Web小説作者と会うなんて経験、普通はできないだろう。俺が高評価ボタンを押すと、ちょうど作者がやって来た。


「先輩、遅れてごめんなさい!」


「俺が早く着きすぎただけで、約束の時間に間に合ってるから遅刻じゃないよ」


 日向さんは浴衣姿だ。水色に朝顔の柄がある浴衣に黄色の帯を結んでいる。なんとも涼しげで、黒い髪と白い肌に本当によく似合っていてかわいい。


 髪型は普段のストレートロングではなく後ろでまとめており、うなじが見えるだろうということが正面から見ても分かる。


 浴衣姿のうなじはセクシーだというが本当だろうか? 後ろに回り込んでみようかと考えたが、そんなことしなくても普通に横に並べば見えるだろうと、思いとどまった。


「浴衣、似合ってるよ」


「ありがとうございます。先輩、喜んでくれるかなって」


「うん、嬉しい」


 俺がそう伝えると、日向さんは黙って俺の右側に並んだ。『やっぱり右側なんだ』と俺はなんだか微笑ましくなる。

 それでもいつもと違うのは、肩が触れそうなほどに近いということだった。人は多いけど、身動きできない程ではないのに。


 それから俺達は花火会場まで並んで歩き出した。日向さんのうなじが見える。……いい。


 真夏の夕方は明るい。花火会場までの道にはたくさんの屋台が並んでいる。俺が誘った時、日向さんは食べ物をたくさん買うと言ってたっけ。


 早速、焼きそばの屋台を発見した。りんご飴やかき氷と違って、焼きそばは立派な『夕食』だ。わりと腹いっぱいになるだろう。


「何か食べたい物はある?」


「りんご飴が食べたいです!」


 りんご飴と書かれている屋台を探すとすぐに見つかった。だけどすでに行列ができている。花火まではまだ時間があるので、俺達は並ぶことにした。


(困ったな。会話大丈夫か、俺)


 初めて日向さんと食事した時は異世界の話が山ほどあったから、ネタ切れせず楽しんでもらえたけど、そもそも俺のコミュ力は高くない。


 俺は何か話題を探した。そうだ、ちょうどいいのがあるじゃないか。


「さっき待ってる間に『嫌婚(きらこん)』を読んだよ」


「『きらこん』ってなんですか?」


「『()われ令嬢は魔王を倒して完璧王子と結()したい』というWeb小説だね」


「……私の作品じゃないですか! 作品名を略されるなんて、なんだか人気作みたいです」


「でも俺的にはその略称がイマイチかなって。日向さん、何かいい略称ある?」


 すると日向さんは口に手を当てて少しした後、こう話した。


「『令嬢魔王完璧王子と結婚』、ですね」


……略称とはなんなのか。『令嬢魔王』が『完璧王子』と結婚する。それはもはや別作品だ。


「……うん、『日向さんの作品』と呼ぶことにしよう」


「そ、そうしましょう」


 作者公認の呼び方が誕生した。


「それで最新話なんだけど、ついに魔王城に辿り着いたよね。でも、アイテムが一つ足りなくて入れないとは思わなくてさ。俺、何か見落としたっけ? と思って。帰ったら過去の話を読み返すつもりなんだ」


「フフッ、実はそれまでに伏線があったんですよ。先輩には特別にヒント教えちゃいます。魔王城に行く前に立ち寄った街にですね、宿屋がありましたよね。そこにいる人が重要なことを話してまして——」


 少し早口で楽しそうに話し始めた日向さん。どうやらこの話題で正解だったようだ。

 俺も話を聞いているだけでも楽しい。そして気がつくといつの間にか先頭になっていた。

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