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「禁忌を犯そうとしてるから」

「……禁忌?」カイルの眉間にシワが寄る。「禁忌って、どんな」

「原書の解読」

「なんの原書だよ」説明の足りなさに鬱陶しくなってくる。

「聖典」

「は? 聖典? 聖典の原書?」

「そう」

「なんだ、それ……」

 それはカイルには衝撃すぎた。聖典に原書があること、そしてその解読が禁忌であること。そんなことカイルは知らない。どちらもだ。仮にライラの言うことが事実だとすれば、意図的に隠されているということになる。なぜ存在を隠し、解読を禁じるのか。嫌な予感しかない。

 しかしそれは今考えても仕方のないことだ。今はライラという存在について知るのが目的である。

「なんのために原書の解読を?」

「おねえちゃんたちのために」

「オネエチャン……たち?」あまりに説明が足りない。

「一番上のおねえちゃんが書いたものだから」

「君、一体何者だ……?」

 結局一番最初に話した時と同じ質問をするカイル。鐘塔教会が設立されたのは少なくとも千年以上前だったはずだ。原書が書かれたのはさらに前ということになる。

「えっと、ただの凄い魔術師」

 カイルの顔がひきつる。

 突拍子もないが今までの話からして信じないわけにもいかない。偉大な姉が描いた書物の存在を知り、禁忌だとわかっていながら一人で旅をしている少女。それに混在の呪い。

 凄腕の魔術師でなければ説明は不可能だ。

「随分長生きなんだな」

 ライラは頷いた。もう長寿くらいでは驚かないカイルだった。

「ごめん」とライラは言った。

「なんのことだ?」

「ワタシのせいで厄介なことに」

 ライラは真顔のままだが、雰囲気みたいなものは明らかに沈んでいた。ライラの持つ慈愛の対象に、自分自身は一切含まれていない。

「君のせいじゃないだろ」

 女上司がライラを認識した時、きっかけを作ってしまったのはカイルだ。カイル自身もそれを自覚していた。

 ただ、それだけではない。

「いずれこうなっていたさ」

「……え?」

 カイルはまるで遊牧民が太陽の位置を探すみたいに、部屋の天井を見上げた。

「僕は騎士団の仲間からよく疎まれていた。多分、性格のせいだろうな。上司からも、何も知らない若造だとかなんとか、散々言われてきた。でも僕は今日、見て見ぬ振りをするくらいなら生意気な若造のままでいるって、決めたんだ。だから遅かれ早かれこうなっていたはずだ」

 ライラは何も言わなかった。カイルが全く気にしていないという様子ではなかったから。

「本当に、君は気にしなくていいことだ。むしろ君に協力できてよかったと思ってる」

「……協力?」

 不思議そうに問い返すライラ。カイルは説明をすっ飛ばしていたことに気がついた。

「一緒に原書を探そう。ライラ」

 立ち上がってそう言った。窓から差し込む夕日が、生意気な若造の顔によく映えた。

「いいの?」それは訝しげな問いだった。

「本当は法を犯したくない。けどこれは、僕の正義のためだ」カイルはテーブルの剣を掴み、腰のベルトに繋げた。「騎士団には魔術師を追跡するとか言えばいい。厄介者の僕が出ていくのを止める奴はいないし、君が横にいたって誰もわからないんだから。それに、もうさっきみたいなヘマはしない」

 まるで計算で証明するように、淡々とそう言った。ライラに協力する理由はそれだけではなかったが、そのことをカイル自身が自覚しているかというと微妙なところなので、少なくとも隠しているわけではない。

 ライラは窓の外を見た。沈みゆく太陽と、騒ぐ人だかりがよく見えた。

「ワタシは……別にいいけど」

 ぐう、とライラのお腹が鳴る。まるで重大なことを思い出したみたいな、大きな音だった。

 続いて部屋の扉が音を立てる。ノックの音が三回だ。そして、なにやらいい匂いも漂ってくる。

 あまりのタイミングの良さにカイルは吹き出し、無邪気な笑顔を見せた。

「とりあえず飯にしよう」

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