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騎士

 騎士とは民の力となる者の名だ。

 幼いカイルは父の話したその言葉に憧れた。騎士になることを許される立場の自分は、なんて幸福なんだ。そういう希望を彼は抱いた。

 十歳の頃だ。カイルがその希望に蝕まれ始めたのは。

 父や家族の中に、カイルの憧れた騎士が誰一人いないことに彼は気づいてしまった。

 家族への疑念を抱くようになった。

 特に信頼していた父への疑念は、カイルをひどく悩ませた。

 そんな時期に、だったか。彼は、一人の少女に出会った。

 知らない子だ。ただ、笑顔がとても眩しい女の子だった。

 カイルと彼女の性格は随分違ったが、不思議と馬が合い、二人は一日で随分仲良くなった。

 家のことなど忘れて外を走り回り、暗くなったら火の起こし方を教えてもらった。

 火を挟んで、カイルは悩みを打ち明けた。すると少女は、あっさりとこう言った。

「カイルの中に何を置くかは、カイルが決めなきゃダメなんだよ」

 幼いカイルには少し難しい言葉だったが、それでも確かに、救われた気がした。

 十歳のカイルは顔を上げた。

 ライラによく似た少女の笑顔が、オレンジ色に照らされていた。

 そしてその後、次の日から今に至るまで、カイルがその少女の姿を見ることは一度もなかった。

「そっか、だから……」

 呪いが効かないわけだ。とライラは思った。

 既にこの顔への好感があるのだから。

「てことは、昔好きだった子に似てるからワタシに協力したってことか」

「言い方悪いな。……好きだったなんて言ってないだろ」

「どうしてワタシにその話を?」

 以前に話した旅の動機が嘘でないのなら、別に構わないのではないか。 と、そう言っているようにカイルは捉えた。

「己が行動する理由もはっきりしないようじゃ、一流の騎士にはなれないからな」

「そうなんだ」

「そうだ」

「話したら、はっきりしたの?」

 二秒考える。

「まあ、最初と変わらない。あの子が何者だったのか、それも含めて僕は自分で確かめる。ライラとの旅の先で何かわかるかもしれない」

「騎士って、大変だね」

「確かにな。けど大変だからこそ憧れることができる」

「ふうん」

 そこからは書くに及ばないようなくだらない話に花が咲いた。

 しかし長くは保たず、野宿に慣れないカイルですらすぐに寝た。

 ライラによく似た顔の人間。ライラは今まで一度も見たことがない。

 カイルにとっても十数年前にたった一日だけ関わった少女だ。彼の話の中だけではイメージがかなり断片的で、はっきりしない。

 とはいえ混在の呪いが誤作動を起こすほど似ているならば、ライラも一度会ってみたいと思った。

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