光のかけら
僕と君が出会ったのは、町の外れの小さな中華料理店だった。
僕は料理を作るのが仕事だった。
油にまみれて鍋を振った。
君の担当は接客係。
近所のおじさん達から絶大な人気を誇った。
僕はいつも寡黙だった。
それが男なんだと時代遅れも甚だしかった。
引っ込み思案の自分に対する言い訳だ。
君はいつでも明るく笑っていた。
活発な今時の女の子だった。
休憩時間に下手くそな絵を描いて、店長を笑わせていた。
君と僕とはほとんど多くを話さなかった。
君からいつも声をかけてくれるのに、気の利く返事もおぼつかない。
僕が四つも年上なのに、どうしようもない先輩だ。
それでも仕事はとてもスムーズだった。
君が僕に注文を伝え、僕が君にその完成を伝えた。
君の送り出しの声を聞き、僕も厨房から声を張った。
ある日店長が休み、僕たち二人だけで店を回した。
くたくたになった営業後、二人で僕の作ったチャーハンを食べた。
その時、君から失恋した事を聞いた。
彼氏には夢の方が大事だったんですと、いつも陽気な君の横顔がひどく悲し気だった。
その日は快晴だった。
僕はいつもより早く店に入った。
いつも通りに君は来た。
最大の勇気を振り絞り君をデートに誘った。
君は太陽の様に笑って頷いた。
約束の休日、僕はバス停で帰りのバスを待っていた。
結局現れなかった君への花束を手にして。
知らない老婆が僕の隣にやって来た。
「今日は少し寒いわねえ」
確かに僕には寒かった。
「これ、良かったらどうぞ」
花束を贈られた老婆は
「あら、ありがとう」
と、少女の様に微笑んでいた。
それから君は店を去った。
店長から預かった手紙には、東京に行くと書いてあった。
夢追い人の彼氏を追って。
手紙をポケットにしまう。
僕はコックコートに着替え、厨房に入った。
そして思い出し、一人笑った。
手紙の裏に描かれた、チャーハンを食べる二人の絵。
とても下手くそで、太陽の様に明るい絵だった。