8.喧嘩?
「おいおいラミ、ちょっと怒りすぎだろ……。」
「何でそんなに平然としていられるの!?レス馬鹿にされたんだよ!?」
「だって俺が悪いし……。」
ラミに無理矢理引っ張られ、俺達は村の端に来ていた。家からはもう遠く離れ、長年ここに住んでいる俺ですらあまり知らない場所だ。
「何が悪いの!?もっと言い返してよ!」
目の前ではラミが、村全体に響きそうな程の大声を荒げている。
「スキルが駄目だったんだ……。だからあんな目に。」
「だからって、あんなに馬鹿にされる筋合いは無い!」
「そんなに怒らなくても良いだろ……。俺の(元)親友だぞ。」
「だってレスが馬鹿にされたんだよ!?怒るに決まってるじゃない!親友とか関係ないし!」
「何でそんなに……。」
もうあんな事はどうでも良いと続けた俺の姿を見て、ラミは呆れた様子で腕を組んでそっぽを向いてしまった。
……まずい、嫌われたか……?
少し経って、ラミは顔を赤ながら告げた。
「……だって、レスのこと好きなんだもん。」
「えっ?」
思わず俺は聞き返す。
「だーかーらー!レスのこと好きなの!一目惚れってやつ!ほらこれで納得したでしょ、早く妹ちゃんのところ連れて行ってよ!」
「えっ、いや……。」
「早く!!」
〜〜〜〜
……と言う訳で、何故か怒っているラミと一緒に俺は実家に到着した。三回ノックすると、聞き慣れた明るい声の数秒後には妹が姿を現す。
「お帰りお兄ちゃん!……って、どなた?」
「ただいま。ああ、こいつはラミ。王都に行った時に知り合ったんだ。アリナに会いたいって言うから、連れて来た。」
「初めまして。私はラミ。ラミ・アージェント。貴女が妹ちゃんね?」
「……ああ、はい。アリナです、初めまして。」
二人の間に稲妻が走っている様な気がするのは勘違いだろうか?二人とも笑顔だが、何だか底知れぬ恐怖を感じる。
「まあとりあえず入って下さい、お茶を用意するので。」
ティーカップに入れられた熱いお茶、良い匂いがするショートケーキ……。“たまたまあった”とアリナが言った割には、とても豪華な品物が机の上に並ぶ。
しかし、俺は違和感を覚えていた。
「へぇ……?美味しそうなお菓子だこと。」
ラミに出されたショートケーキの上に、苺が乗っていなかったからだ。
お店で買った物だとしたらそれは店側に文句を言うべきだし、アリナが……いや、俺の妹がそんな事をする訳がない!
「たまたま苺落としちゃって〜?ごめんなさい、ラミさん。」
ああ落としただけか、良かった。……良くないけど。
「それなら、俺のと交換するか?」
「「えっ!?」」
二人の声が揃う。
「昨日果物は十分食べたし、俺とラミのを交換しよう。」
「レス……!」
「お兄ちゃん……!」
一瞬だけ、アリナが何かを呟いた気がした。
「で、もう単刀直入に話すわね。」
交換したケーキを頬張りながら、ラミは話し始める。
「私、レスと冒険に出ようと思ってるの。でも貴女がいるからって断られちゃって。」
「ああ、アリナを一人にしておけない。」
「冒険……!?それって、ダンジョンとかに行くってこと?魔物とかに会うの!?」
「当たり前でしょ、じゃなきゃダンジョンじゃないし。」
机をバン!と勢い良く叩いて、アリナは突然立ち上がった。
「そんなの駄目!お兄ちゃんに何かあったら責任取れるの!?」
「じゃあ、妹……アリナちゃんはこのままレスが馬鹿にされ続けても良い訳?」
「それは……。」
「ダンジョンに潜って成果を上げれば、ある程度の地位は手に入れられる。そうすれば、もしかしたら彼も馬鹿にされなくなるかもしれない。」
しばらくの間沈黙が走って、何となく気不味い空気になった。
耐えられず俺もケーキを食べたところで、ぐすっと正面から泣きじゃくる声が聞こえる。
「アリナ!?」
「……お、お兄ちゃんと離れ離れになるなんて……嫌だよお……。」