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5.悩み

「あ、お兄ちゃん!」


 ラミと分かれて食料を買い、また時間を掛けて家に戻った早々、アリナが慌てた様子で俺に駆け寄って来た。


夕焼け空は家に着く頃にはすっかり黒く染まっており、夕日の名残りは星々にしか残っていない。


「アリナ、そんなに慌ててどうしたんだ?」

「いや、今日王都で不思議な事件が多発したらしくてさ……。お兄ちゃんが巻き込まれてないか、不安だったの。」

「不思議な事件?」


 鞄の中身を机の上に出しながら、俺はアリナに訊く。


「うん。確か……ポケットとか、バックの中に急に椅子とか林檎とか木とかが現れちゃったんだって!怪我人も出たらしいよ。」

「へえ……。」


そんな不可解な事件が起きていたとは。

今日はずっとラミと一緒にいたから、全く気が付かなかった。


「それで……あ、ごめん。先にご飯だね。」


 机においた野菜を取って、アリナはキッチンに向かう。


「ちょっと待っててね!すぐ作るから。」



「はい、お待たせー!」

「おお!」


 少し待って、机の上には料理が並ぶ。

バスケットに入れられたパン、野菜一杯のクリームスープ、可愛く切られた果物。


どれも凄く美味しそうで、空腹感が一気に押し寄せてきた。


「「いただきまーす!」」


スープを一口すする。程よい塩味とミルクの甘さが丁度よく、舌が温まる。

パンを一つ取ってスープに付け頬張ると、食感が追加され更に美味しくなった。


「……で、さっきの事件のことなんだけどね。」


 噛んでいる最中、スープをすすっていたアリナが神妙な面持ちで話し掛けてきた。


「今日昼頃王都に行った人から聞いたんだけどとにかく色んな物が急にポケットの中とかに出てきたんだって。」

「木や椅子……だったか。」

「そうそう。当然そんな物中に入る訳ないから、洋服が壊れたり、怪我をしちゃった人もいたらしいよ。」

「それは大変だったな……。」

「ほんとだよ!お兄ちゃんが被害に遭わなくて良かった。」


 頬をぷくっと可愛らしく膨らませて、アリナは声を荒げる。その後すぐにしゅんと悲しげな顔になって、気まずそうに俺を見つめてきた。


「……そういえば、今日大丈夫だった?」

「何がだ?」


何を訊いているのか分からず、俺は首を傾げながら聞き返す。その反応を見て、アリナはまた静かに言った。


「だってほら、能力が……。」

「ああ……。」

『ただの哀れみ、かな?交換なんかその辺りの子供でも出来るのに、それを能力として持ってしまった君が可哀想で仕方なくて。』


 リーブルに言われた言葉を思い出す。

あいつは偶然良いスキルを貰っただけだ。それなのにも関わらず、わざわざ俺の所まで来てあんなに偉ぶって……。


『でも表だけは良いから誰に言っても信じてもらえなくて。他のパーティメンバーにも密告するよう打診したんだけど、みんな意気消沈しちゃってずっとあいつに従ってるの。』


 しかも暴言暴力は当たり前、ましてや自分のパーティメンバーを襲おうとした。

そう考えると、あの時はただ残念がっただけに終わったものの、段々と怒りが込み上げてくる。


「……お兄ちゃん?」


 しかし、妹にその苛立ちを見せては兄としての威厳がまるで立たない。


「……いや!何でもない。今日は何も無かった。」

「本当に?それなら良いんだけど……。」

「ああ、心配しないでくれ。」

〜〜〜〜


「はあ……。」


 食事を終えて風呂に入り、ベットに寝転がったところで俺の口は無意識のうちに溜息を吐いていた。


リーブル・クリスタル。


俺の手を粉砕した件とラミの話を合わせて、あいつの印象は最悪だ。今この瞬間も、俺以外に被害に遭っている人がいるかもしれないと考えると腑が煮えくりかえる。


 しかしながら、俺の能力ではあいつに対抗できる手段がまるで見当たらない。


【トレード】


今日ラミと一緒に様々な物を交換したが、やはり本に書いてあること以上の効果は見込めない。

明日もう一度だけ王都に行ってみるか?


しかし今日の件もある。


「一体これからどうしたら良いんだ……。」


 そんなことを考えていると、突如部屋の扉が開かれる。


「ね、お兄ちゃん……。」


 そこにいたのは、アリナだった。


「アリナ!?どうしたんだ、こんな夜中に。」


アリナは俺のベットまでちょこちょこと駆け寄り、赤くなった顔を隠すように下を向きながら言った。


「一緒に……寝てくれないかな?」


 数秒間反応出来ずに、俺は目を点々とさせる。


「ご、ごめんね急に!ほら、今日の事件もあったし、なんか怖くなっちゃって。」

「なるほど、そういう……。」

「だ、だめ……かな?」


 俺は布団を捲り、シーツを二回トントンと叩く。


「嫌なんて言う訳ないだろ。」

「ほんとに!?やったぁ!」


 それまでの謙虚な様子を一気に吹き飛ばし、アリナは俺の布団にダイブしてくる。

甘い匂いが鼻をくすぐり、密着したことで体温が少しだけ上がった。


「……おやすみ、お兄ちゃん。」

「ああ、おやすみ。」


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