31.後悔
「クソっ、俺がもっと早くに気付けていれば……。」
結局なす術もなかった俺達は、ダンジョンを脱出した後近くの村の宿屋に訪れていた。
もう外はすっかり暗くなってしまったため、今日の行動は無理そうだ。
俺はそんな中で後悔していた。__なぜもっと早く、アイツが偽物だと気付けなかったのだと。
俺はアリナとずっと一緒にいたはずだ。それなのに、どうして気付けなかったんだ。
「仕方ないわ、アイツの変装はとても高度だったから。」
そんな俺をラミは慰めてくれるが、正直それをされたからと言ってこの後悔が消える訳ではない。
「でも……はあ……。」
「それに、アリナはどこかのダンジョンにはいるんでしょ?きっと大丈夫、すぐ見つかるから。」
「……一つ聞くが、ダンジョンってのはどのくらいあるんだ?」
「…………数えきれないくらい。」
「その中からアリナを探せって……。」
アリナの救出以外何も考えられなくなった俺に、ラミが少しの間の後に「ねえ」と話しかけてくる。
「さっき言おうとした、レスの能力についてなんだけど……。」
「ああ、そんな話もあったな……どうしたんだ?」
「実は、ちょっと図書館で調べてみたんだけどね。本来、その【トレード】って言う能力は、同じ価値の物同士を交換できる能力なの。」
「ああ……それは知っている。」
「でも……それ以外にもう一つ。その能力は、“自分で制御する事ができない”。」
「どう言う事だ?」
「つまり、何と何かを交換するかは自分じゃ決められないの。でもレスは、何を交換するかって言うのが分かるでしょ。」
「でも、俺はあの日【トレード】と言われたんだぞ?神のお告げに間違いがある筈が……。」
「それはそうだと思うの。だから……ハッカーが言っていた通り、やっぱりレスには他の人とは違う何かがあるんじゃないかって。」
ラミの言葉に、俺は何も返すことが出来なかった。
素質がある__アイツはそう言っていた。だけど、そうだとすれば、俺の素質とは一体何だ?
「例えば、気が付かないうちに覚醒していたとか。」
「覚醒!?」
覚醒とは、あることをきっかけを自分の力が大幅に上昇する現象だ。例えば、大切な人の死、住んでいる村が焼き尽くされた時、それで復讐に燃えたとき……。
様々な要因があるにせよ、とにかく並大抵のことでは覚醒なんて出来ない。
「俺が覚醒する理由が思いつかない。ダンジョンの中で何か危険があった訳でもないだろ?」
その言葉に、ラミは呆れたように溜息を吐いた。
「私とアリナが襲われそうになった事を忘れたの?」
「いや!それは……悪い、語弊があった。じゃあ、まさかその時に……?でも、俺は覚醒したなんて実感はなかったぞ?」
「可能性の話、本当かどうかは分からない。とにかく、今は妹探しが最優先でしょ?姫様の宝石も探さないといけないけど。」
「ああ。もしかしたら、アリナを探しているときに宝石も見つかるかもしれないしな。」
アリナ探しと宝石探し、全く俺も大変な事に巻き込まれてしまった。
元々は、ただ自分の能力が何かを確かめるためにラミと冒険をするだけだったのに……
「こうなったら仕方ない。改めてよろしくな、ラミ。」
「ええ、レス。」
俺たちは互いの手を握り合った。