30.偽装
「……え?お兄ちゃん、何を言って……。」
「アリナが俺を心配性だなんて言う筈がない!お前は誰だ!」
俺はアリナの肩から手を離し、目の前の“ダンジョンマスター”に剣を向ける。
「ダンジョンマスター……って、そんなことある?」
しかしラミは俺の言っていることが信じられないといった様子でこちらを見つめてきており、武器を構える気配すらない。
「俺には分かるんだ……ずっと一緒にいたからこそ。アリナはずっと俺の事を頼ってくれていた。そんなアイツが、俺の事をそんな風に言う訳がない!」
「確かにずっと頼っていたイメージはあるけど……だからと言って、ここでダンジョンマスターが現れるなんてありえない!」
ラミは苦虫を噛み潰したような目で俺の事を見つめてくる。
でも……俺には分かる。こいつは俺の妹じゃない。
「……酷いよ、お兄ちゃん。」
__ほんっとうに、ひどいなあ!!
「何!?」
突如、アリナの体を巨大な竜巻が包み込む。
俺たちはその勢いに押されて、壁に激突してしまった。
「ぐっ……ラミ!大丈夫か!」
「大丈夫!」
竜巻が晴れて現れたのは、黒いフードを被った謎の人物。顔も、手足も、中の服も、何もかもが見えない。
「ダンジョンマスター!アリナをどこにやった!」
「残念だけど、僕はダンジョンマスター様じゃないよ。」
「何だって!?……様、って……。」
「そうだな、“ハッカー”とでも名乗っておこう。君の可愛い妹ちゃんだけど、別のダンジョンに預けさせてもらった。」
「どうしてそんな事を!」
「素質があるから……それだけの理由。君達兄妹は、何かトクベツな力がある。」
どう言う事だ?
俺の【トレード】は特に何に役にも立たない最弱能力なんじゃ……。
「まあ、君が知る必要はない。自分の事を不運と思っておく方が、より向上心が生まれるだろうから。」
__炎弾丸!
背後から、聞き馴染みのある技名が聞こえてくる。
いくつもの火の玉はハッカーの頭上へと降り注ぎ、奴を炎の海へ引き摺り込む。
「……全く、酷いなぁ。」
しかし、その全ても奴にとっては無意味だったようだ。
「効いていない……!?」
「残念だったね、ラミさん。僕は生半可な魔法は効かないんだ。」
「生半可……!」
「お前、ラミに向かってなんて事を!」
俺たちの怒号に、奴はケラケラと笑った。
「だって事実だし。ごめんね、嫌な思いにさせちゃったみたいで。」
その場を歩くように浮かんでいるハッカー。その様子こそ子供っぽいが、どうにもこいつは嫌だ。
「じゃあ、僕はそろそろ行くね。妹ちゃん探し、頑張って。」
「あっ、おい!」
俺の能力を発動する暇もなく、奴は暗闇に消えてしまった。