29.見知らぬ人物②
「お兄ちゃん?」
「……え?」
霧の中から現れたのは、紛れもないアリナだった。
「アリナ!?」
「大丈夫だった?ラミさんも。」
「アタシは平気……。」
怪我一つもなければ慌てた様子もない。連れ去られる前と全く同じ様子で、アリナは俺達に話しかけてくる。
「今までどこにいたんだ!?」
「どこって、すみっこだよ。二人とも戦っていたから、隠れていて……。」
と、ダンジョンの隅を指差す。
何か変だ。
「アリナ。」
「どうしたの?」
「俺達はどんな戦いをしていた?」
「えーっと、ラミさんが魔法を使っていたよね?お兄ちゃんがそれに加勢して……そんな感じじゃない?」
「ちなみにその前は?」
「クラゲのダンジョンだよね。あのクラゲ、電気効果があるから抜け出せなくて困ったよ。」
彼女の言っていることに矛盾点はどこにもない。
しかし、聞いていて何か違和感がある。
口調か?態度か?それとも別の何かだろうか
「ねえレス、どうしたの?そんなに聞くことないでしょう。」
「そうだよ、お兄ちゃん。もしかして、私のこと疑っているの?」
「……いや、少し不安になって。」
「不安って!もう、お兄ちゃんは心配症だなぁ。昔からそうなんだから!」
「……え?」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
昔、俺たちはよく村の広場で遊んでいた。
『ふぇえん!お兄ちゃん、転んじゃったぁ……。』
『アリナ、大丈夫か?』
『痛いよお……お兄ちゃん、おぶってぇ。』
『全く、しょうがないな……。』
膝を擦りむいたアリナをおぶって、俺は家まで帰っていった。
『ほら、着いたぞ。』
『ありがとう!さすがお兄ちゃん!やっぱりお兄ちゃんは最強だね!』
『言い過ぎだぞ。』
『でも、お兄ちゃんは最強だもん!』
『全く……。』
アリナは昔から俺を頼ってくれていて、何か困ったことがあったらすぐ俺に相談してくれた。
転んだ時、勉強が分からない時、何だか上手くいかない時。
そんな風に頼ってくれるのが嬉しくて、俺は強いお兄ちゃんになった。
『お兄ちゃんは最強!』
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「お前は……俺の妹じゃない……。」
アリナの肩を持つ手が震える。
「え?どういうこと?私はアリナだよ。」
「嘘を吐くな!ダンジョンマスター!」