23.平和な日常
ある最難関ダンジョンの最奥、“神聖たる神の使徒”は、ギルドから受けたSランクの依頼を受けていた。
リーダーは【剣聖】を授かったリーブル・クリスタル、副リーダーは【大戦士】を授かったレーベン。
パーティには他に、【聖女】のアピュディ、【回復術師」のルゥナ、鍛冶師の【モーラン】がいる。
全員が上級職であるSランク冒険者だ。
「このダンジョンに出現する“神狼”はA級モンスターでかなり手強いが、俺達なら余裕だ」
リーブルはそう豪語する。
「そうね、私達なら大丈夫」
「ああ。」
「よし、じゃあ行くぜ!」
神狼の群れに突撃するリーブル達。
だが、神狼達はそんな彼らをあざ笑うかのように返り討ちにしたのだった。
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「うん、これ美味いな。」
ダンジョンから無事帰還した俺達は、そこら辺の木に生えているリンゴやら何やらと飯をトレードして、みんなで森の中で食べていた。
「お兄ちゃん、そのお肉一口ちょうだい。」
「良いぞ、はい。」
「ほんと仲良いのね。」
「当たり前じゃないですか!だってずっと昔から一緒なんだし!」
「まあ、悪くないことね。」
そう言うラミの顔はどこか悲しそうに見えた。
「ラミ、何かあったのか?」
「え?……そんな訳ないでしょ、勘違いしないで。」
「それなら良いんだが。」
すると、アリナがラミのカバンをじっと見ながら言った。
「そう言えば、さっきのネックレスは?」
「私が持ってるわよ、どうしたの?」
「折角だから付けてみたいなぁって。ほら、性格が変わるって話だったから。」
「ああ……いや、おすすめしないわよ?どう変わるか分かったもんじゃないんだし。」
「えー……。」
「そうだぞアリナ。さっきのドワーフ、酷かっただろ?」
「それはそうだけど……ええ、気になるなぁ。」
「せめて能力が開花してから、勝手に付けたりしないでね。」
「はいはーい。」
少し経って食事を終えると、俺達は再び森の中を歩き始めた。
「いい加減レスの武器を買わないとね。」
「武器?でも、トレードで何とかなるんじゃないか?」
「毎回毎回それじゃ大変でしょ、剣の一本くらい買ってたって損はない。確か郊外に良い武器屋があったと思うから、そこに行ってみない?」
「分かった、行ってみよう。」
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そうして郊外の武器屋に到着した俺達は、スキンヘッドの店主に見守られながら武器を選んでいた。ありがたいことに武器代はラミが負担してくれるようで、ついでにアリナも買えと言ってもらえた。
「決まった?」
「ああ、俺はこの大剣にする。」
「私は銃にします!」
「分かった。それとアリナは剣、レスは銃を持っておきなさい。」
「どうしてだ?」
「どうしてですか?」
「色んな攻撃に対応できないでしょ。剣だけだと遠距離がダメだし、銃だけはその逆。」
ラミの適切な言葉にアリナは少し納得がいってなさそうに頬を膨らませると、隠されていた金色の短剣を持ってきた。
「これでお願いします!」
見るからに高そうな剣だ。全面が金色だし、装飾も派手。一体いくらするのか分かったもんじゃない。それはラミも分かったようで、明らかに嫌そうな顔をする。
「それ……いくらするの?」
「分かりません!でもこれが良いです!」
「壊したらどうするの?」
「その時はまた新しい剣を買います!」
「いやそういう話じゃなくて……とにかく!それはやめておきなさい!」
「どうしてですか!?剣を選べって言ったのはそっちなのに!」
「だからってそんな剣選ぶ奴がどこにいるの!」
そんな口論をしていると、店主が俺達を睨んできた。
「ま、まあまあ!良いじゃないかラミ、俺も出すから。」
「とても負担できるとは思えないけど……。」
「頼むよ、店主がさっきから睨んできてるんだ。」
「…………今回だけよ。悪いけど、レスの銃は買えないから。」
店主に買う物を差し出すと、めちゃくちゃ驚かれた顔をされた。
「合わせて300万ローフだ。」
「はい、これで足りますか?」
「……ああ、丁度だな。毎度あり。」
店から出ると、喜んで俺に擦り寄ってくるアリナとは対象的に、ラミは大きな溜息を吐いた。
「こんな買い物をしたのはいつ振りよ……。」
「……本当に申し訳ない。」
「その代わり働いてもらうからね。レスが過保護なのは分かるけど、こんなに良い買い物をしたんだからちゃんと動いてもらわないと。」
「ああ……。」
俺も同じように溜息を吐いたが、それはアリナの声にかき消された。