22.ラミの作戦
「ん、ここは……。」
目を覚ますと、俺は木で出来た椅子に座っていた。
腕は後ろに回され、ロープで縛られている。足も同じく縛られていて、身動きが取れない。
辺りを見渡すと、そこには木が立っていた。ここがダンジョン内である事は想像に難しくない。
「アリナ!ラミ!」
叫ぶが、二人の姿は見当たらない。
「ラミ!アリナ!いないのか!?」
もう一度叫ぶが、返事はない。
「無駄ですよ。あのお二方なら今頃、私の仲間達と仲良くしているでしょうからねえ。」
声のする方を見ると、そこにはドワーフが立っていた。
「お前……俺達をどうするつもりだ!」
「さあてねえ。私はただ、美味しい餌を捕まえてこいと言われただけでしてねえ。」
餌……さっきの紅茶に睡眠薬でも入っていたのか?
「まあ、あのお二人は良い値で売れるでしょうなあ。」
「お前!二人に手出ししたら許さないからな!」
俺はドワーフに向かって叫んだが、ドワーフはへっと鼻で笑った。
「人間風情に何が出来ますかい?それに、その縄は魔法も通さない特別製です。あなた一人では何も出来やしませんよ。」
そう言って、ドワーフは姿を消した。
「クソ……どうしたら……。」
俺一人では何も出来ない。ドワーフの言う通り、今の状態では縄を解けない上に攻撃も出来ない。ラミ達を助けられないのに、このまま時間が過ぎていくしかないなんて……。
「……そうだ。」
このダンジョンで、俺と同じ価値の物は無いだろうか。
例えばドワーフ。
一か八かだ、やってみるしかない!
「【トレード】!」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ひひひ、このお嬢ちゃんは良いな。いい体をしているし、俺の好みだ。」
「嫌っ!やめて!お兄ちゃんの所に返して!」
「そいつぁ出来ねえな。ほら、動かなければ痛くしないから。」
「嫌ーっ!!」
「赤髪の姉ちゃんはどうした?」
「馬鹿言うな、別室に運んだだろ。そんな事言ってないで早くこの子を__」
バン!
俺が交換したのは、自分自身と宝箱、そして縄とリンゴだ。
「な、何でお前さんがここに!?」
「うおぉぉおおお!!」
呆気に取られるドワーフに向かって体当たりをし、奴が持っている弓を拾って辺りの数体を撃破する。
「アリナ!大丈夫か?」
「お兄ちゃん……ううっ……怖かったよぉ……。」
泣きじゃくるアリナは俺と同じように縄で縛られていて、服も少し裂かれている。
「大丈夫、大丈夫だ……怖かったな。」
縄を解いて抱き締めると、俺の腕の中でぷるぷると震え始める。
「ラミはどこだ?」
「分からない……気が付いたらここにいて。」
その時だった。
バーーーン!!と、隣の部屋から大きな爆発音が聞こえてきた。
まさか……
「ラミ!!」
この爆発に巻き込まれたのか……!?だとしたらまずい、早く助けないと!
向かおうとした瞬間、ガチャっと、俺達のいる部屋の扉が開く。
「はぁ……やっぱりドワーフってこんなんばっかりね。」
「ラミ!無事だったのか!」
扉を開けたのは何ともない様子のラミ。俺は思わず彼女の方へと向かい、抱き締める。
「なっ……馬鹿にしないで、こんなダンジョンで私が倒れるわけじゃないでしょ!」
が、恥ずかしがっているのかすぐに突き放されてしまった。
「そうだったな、ごめんごめん。」
「ところで、宝箱はどこ?」
「宝箱?」
「ええ。だってここはダンジョンの最奥でしょ?だったらどこかにあると思うんだけど。」
「それなら……さっき俺とトレードしちゃったな。」
「ええ!?どこにあるか分かる?」
「ああ、なんとなく。」
それからものの数分で宝箱を発見し、俺達はその中身を見た。
中身は……
「ああ、ドワーフの首飾りね。」
勾玉のような形をしたネックレスだった。
「何か効果はあるのか?」
「まあ……“性格が変わる”とか?」
「何だそれ。」
「ドワーフって個体によって性格が全然違うの。今回みたいに死ぬ程性格が悪い奴もいれば、人間と協力して生活を営んでいる奴もいる、ダンジョンの場合は大抵前者ね。」
となると……
「もしかして、それだから俺達に何も教えてくれなかったのか!?」
「察しが良いわね。そう、このダンジョンの最奥に到達する為には面倒な仕掛けをいくつも解く必要がある。でも気さえ失えばドワーフが勝手に運んでくれるから、今回はわざと罠に引っ掛かったって訳。」
「教えてくれれば良かったのに。」
きっ、とアリナがラミを睨みつける。
「演技力と経験が必要だから。ああ、別に二人に無いって言ってる訳じゃないけど、今回は一応。」
「……性格悪……。」
「ま、まあ!こうして無事だったんだし良かったじゃないか!……キングオークには出会えなかったけど……。」
「あれが特殊例なだけ。さ、行きましょ。」
そうして、俺達は二つ目のダンジョンを攻略した。