21.最初のダンジョン
ミーラの家を出てから、適当に歩いて一時間。王都を抜け、俺達は森の中へと入って行った。
「この間も、森でダンジョンを見つけましたよね?」
「ええ。森にはダンジョンが多いの、色んな魔物の棲家になっているから。」
「でも、それだと冒険者に襲撃されないか?」
「そう。だからここは初心者冒険者の練習場になっている。」
その時、俺の頭に一つの疑問が浮かんだ。
「それだと、もうこの辺りのダンジョンは攻略され尽くしていないか?」
それに対し、ラミはふふんと自慢気に笑う。
「だと思うでしょ、でも違うの。攻略されたダンジョンは、ある程度時間が経てばまだ元の状態に戻る。“ダンジョンマスター”の手によって。」
俺とアリナは声を揃えて言った。
「「ダンジョンマスター?」」
「この世界のどこかに存在すると言われている、全ての魔物とダンジョンを統べる魔物。いつでも好きな時間に、好きな場所にダンジョンや魔物を召喚する事が出来る。でも、まだ誰も本当の姿を見た事がない。」
「本当の姿って、どういう事だ?」
「普段、ダンジョンマスターは人間に擬態していると言われているの。しかも色々な人間に。」
「じゃあ、知り合いが突然ダンジョンマスターになったり……って事が!?」
「そんな馬鹿な事はしないと思うけどね。まあ、ギルドも冒険者も基本的にはそいつを倒す事を目的としているって訳。」
「ふーん……。」
「さっきの魔物だって、暇だったダンジョンマスターが作ったんでしょうね。」
そうして歩いていると、【ドワーフの家 ★1】と看板が立てられたダンジョンに到着した。
「お兄ちゃん、ドワーフって何?」
「人間より少しだけ背が小さい男の妖精だ。敵対しているイメージは無いんだが……。」
「それは入ってからのお楽しみってやつ。油断はしないで、行くわよ!」
ラミはそう言って、ダンジョンへと入って行った。俺達も後に続く。
中に広がっていたのは、森とほとんど変わらない景色だった。
俺より高い木が立ち、地面には土があり、草も生えている。この間のダンジョンとはまるで違う雰囲気だった。
「森みたい……。」
「ダンジョンによって全然違うからね。普通はその魔物に適応した環境になるわ。」
そんな会話をしていると、前方から何かの影がこちらに向かって歩いてきた。
「もしかして、冒険者の方ですかい?」
俺達より一回り小さい身長、狩人のような服装にずんぐりとした体型。間違いない、ドワーフだ。
「こんな森奥のダンジョンによくぞおいで下さいました!ささ、こちらへどうぞ。疲れたでしょうから、お茶を出しますよ。」
ダンジョンの中にお茶がある事に驚きつつも、俺達は案内されるままついて行く事にした。
少し歩くと、木で作られた椅子と机があった。机の上にはご丁寧にもうお茶が用意されている。
「ドワーフ特製、苺とブルーベリーの紅茶です!是非召し上がってくだせえ。」
「ありがとう。」
紅茶は甘さと酸味のバランスが丁度よく、とても美味しかった。隣のアリナも「美味しい」と言いながら次々と飲んでいる。
しかし、ラミは一口すすったところでやめたらしい。
口に合わなかったのか?
「いやあ、しかし嬉しいです。人間なんて滅多に来なくって。」
「俺達もダンジョンの中でこんなに良い人……人じゃないか、こんなに良い魔物に出会えると思ってなかった。」
「本当ですか!それはお互い様ですな。」
がっはっはと笑うドワーフに釣られ笑いをすると、突然まぶたが重くなる。
「本当に、良い獲物ですよ。」
そんな言葉を最後に、俺の意識は落ちた。