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2.英雄がまさか…!?

「行ってらっしゃい、お兄ちゃん!」

「ああ、留守番は頼んだ。」


 翌日、俺は食料を確保する為に早朝から家を出た。俺が住んでいる所は小さな農村だから、早めに出発して王都に向かわなければならない。


そうでもしないと、もしかしたら誰かに買い尽くされてしまうかもしれないからだ。


 朝日が全身に当たって、凄く心地が良い。

……だが、そんな俺の気持ちを削るように、遠くからクスクスと笑い声が聞こえた。


「レス君、可哀想ねぇ。」「ウチの子じゃなくて良かった。」


昨日の今日で俺の外れスキルの噂は広まってしまったらしい。


【トレード】ーそれが外れスキルだと知ったのは、あの後村の図書館で調べたからだ。

これはどうやら、“価値が完璧に同じ物同士を交換出来る”という能力らしい。

つまり、昨日トレードした偽物の延べ棒と俺達がずっと使ってきた皿は、同じ価値という事だ。


偶然発見したのは嬉しいが、何だか悲しくなる。


 そもそも価値が完璧に同じ物同士なんて、存在するのだろうか?


いやきっと存在しない、或いは存在してもごく僅かだから外れスキルだと言われているのだろう。

ただ交換が出来るだけの力。

妹を守ることが出来ない力。

……最悪だ。

 両耳を塞いで、俺は王都へと向かうのだった。



「やっと着いた……!」


 結局早朝に出たにも関わらず、王都__アシアビルに着いたのは正午を過ぎてからの事だった。

俺の住んでる村とは違い、やはり農村は繁栄している。

しかし__


「ああ、あの子が例の……。」「可哀想だよね……。」

 何故か着いた時から聞こえるヒソヒソ声に、俺は悩まされていた。


あんな辺鄙(へんぴ)な村の俺の噂が、この一日で王都にまで広まってしまっている。


そういえば、以前【剣聖】のスキルを獲得した青年も、俺と同じく農村出身だったという噂を聞いたことがある。

今回も__悪い意味で、それと同じだ。


「リーブル様だー!」


 そんな陰口達を掻き消したのは、ある少年の天真爛漫な大声だった。


少年が指差した方を見ると、赤い髪を(なび)かせて歩く綺麗な顔立ちの青年が見えた。

リーブル……リーブル・クリスタル。例の【剣聖】のスキルを数年前に受け取った人間だ。


美しい顔立ちと優しい人格、そして何より強い。

彼の人気は瞬く間に広がり、街を歩けばそこら中から黄色い歓声が聞こえてくる。


 実際に見たのは以前王都に来た以来だが、にも関わらずその地位は陥落していないらしい。


 一度立ち止まって彼をじいと眺めていると、ふと目が合った。彼はそのまま俺の方へ真っ直ぐに向かってくる。


「レス君だっけ、初めまして。」


人の良い笑顔を浮かべながら、彼は俺に手を差し出した。


「あ、ああ……初めまして。」


困惑しながらその手を握ると、不意に右手に痛みが走る。思わず顔を歪めると、リーブルは嫌な笑顔を浮かべていた。


「い……たっ……!?」

「噂は聞いたよ、()()()()()。とーっても可哀想だから、声掛けちゃった。」


誰にも聞こえないようにする為か、彼は耳元で囁いてくる。

こいつ……こんなやつだったのか!?


「俺はお前に何もしてないはずだ……なのにどうして。」

「ただの哀れみ、かな?交換なんかその辺りの子供でも出来るのに、それを能力として持ってしまった君が可哀想で仕方なくて。」


 不気味に小さく声を上げながら微笑み、彼は俺の手を離す。


「とりあえず頑張ってね!応援してるよ。」


痛みに痺れた俺の手に反し、彼は大きく手を振って俺の下から去っていった。

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