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文章が稚拙なのでちょいちょい改稿します。
そう言うとアドリエンヌを正面から見つめる。
「アドリエンヌ、さっきも言ったが私は君に甘えていた。幼いころ君との婚約が決まり、それから私の隣に君がいることが当たり前になり、君が隣で努力し居心地のよい空間を作ってくれていたか気づいていなかった」
「アレクシ殿下……」
「私は情けないことに、君が私の隣からいなくなってからやっとその事に気づいた。そして、君を愛していることにも。だが気づくのが遅すぎた。当然の結果として、私は君から婚約の解消を言われた」
「そうでしたのね」
アレクシは苦笑する。
「私は君からもらうばかりで、なにも君に返していなかった。だがこれからは私が君を幸せにしたい。なにか与えられる存在になりたい」
アドリエンヌはアレクシにそんなことを言われどうしてよいか戸惑い、視線を合わせることができずに庭を見つめた。
その時、アレクシは懐から四つ折りにされた一枚の紙を取り出してアドリエンヌに差し出した。
「これは、なんですの?」
そう言ってその紙を受け取ると広げて、紙に書かれた内容を見る。なにか食材のメモ書きされているようだった。
「なにかのレシピですの? もしかしてこれってまさか?!」
アドリエンヌは驚いてアレクシの顔をまじまじと見つめる。アレクシもそんなアドリエンヌを見つめ返した。
「そうだ。ララの店の焼き菓子のレシピだ。手に入れるのに苦労した。ララは『あなたが誰であろうと、簡単にレシピを教えるつもりはない』と簡単には教えてくれなかったからね。少しばかり弟子入りした」
「アレクシ殿下が?! ララのところへ?!」
「まぁね。君になにかしたくて」
そう言ってはにかんだ。
「ありがとうございます。とても嬉しいですわ。今度なにかお礼をしますわね」
アドリエンヌはそこまでしてくれるアレクシの気持ちが嬉しくなり、アレクシをじっと見つめた。
「お礼なんて必要ない。ただ君を喜ばせたかった。それにもうすでに君からたくさんのものをもらっている」
「いいえ、そういう訳にはいきませんわ」
するとアレクシはアドリエンヌから視線を逸らし、しばらく黙ったあと意を決したようにアドリエンヌを見つめて言った。
「なら、一つだけいいか?」
「なんですの?」
そう言って不思議そうに見つめ返すアドリエンヌにアレクシはそっと口づけた。
この日からアレクシはアドリエンヌに対する気持ちを一切隠さなくなった。
人前であろうとなかろうと、いつでもアドリエンヌを独占しようとするので油断ができなかった。
学園は卒業してしまったので毎日は会えなくなると思っていたが、アドリエンヌは『フィリウスディ』として国政に関わることになり、毎日王宮へ通うこととなったのでほとんど一緒に過ごした。
ただ一つ、アドリエンヌは気になることがあった。シャウラのことだ。なぜあんなにも自分を恨んでいるのかさっぱりわからなかったし、なぜカミーユが三百年前にシャウラに会ったと言ったのかもわからなかった。
王宮の庭でお茶を飲みながら、アドリエンヌはアレクシならなにか知っているのではないかと思い尋ねる。
「アレクシ殿下、シャウラがなぜ私をあれだけ憎んでいたのか、それにカミーユ様がなぜシャウラに会ったと言ったのか、なにかご存知なのではありませんか?」
するとアレクシは少し考え込んだあと言った。
「君に話そうか迷ったんだが、実は先日やっとシャウラが今回の動機について真実を語りだした。聞きたいか?」
「是非お願いしますわ。気になりますもの」
「わかった」
そう言うと語り始める。
「五才の頃、王宮の庭で占い師によって私の婚約者に選ばれたあの日を君は覚えているか?」
この国では王太子殿下が五才になると婚約者を決めるために、同じく五才になった令嬢を王宮へ集め占い師に選ばせる。
アドリエンヌは当時、王妃になるということで払う代償や背負うべき責務などまるで考えずに、ただ王妃になることを夢見ていた。
希望を胸に緊張しながら占い師の前に立つと、占い師はアドリエンヌを選んだ。その瞬間をアドリエンヌは今でもしっかり覚えていた。
「もちろんですわ」
そう答えると、アレクシは微笑んだ。
「実は私もあの日のことを忘れたことはない。君が婚約者と決まったあの瞬間をね」
そう言ってしばらくアドリエンヌを見つめると、微笑んで話を続ける。
「アドリエンヌが私の婚約者に選ばれたあの日。シャウラはアドリエンヌの直前に占い師に見てもらっていたそうだ」
「シャウラが私の前に?」
「そうだ。当時から君の魔力量がずば抜けていたことは周知の事実だったから、当然周囲は君が選ばれるだろうと半ば予想はしていた。だが、シャウラは違った。自分が選ばれるに違いないと思い込んでいた」
アドリエンヌは知らないことだらけで面食らった。
「周知の事実でも、私自身はそんなこと知りませんでしたわ」
「それは、君のお父上がうまく隠していたからだろうな」
アドリエンヌは驚いたが、とりあえず話の先を促す。
「では、シャウラはその噂を知っていて私の前に並んでいたということですの?」
「そうだ、ライバル視していた君に自分が選ばれるところを見せつけたかったと」
それを聞いて、基本的に昔からシャウラの性格は変わらないのだとアドリエンヌはうんざりした。
アレクシも同じことを考えたのか、苦笑すると話を続ける。
「そうして彼女は絶対に自分が選ばれると確信して占い師の前に立った。だが占い師は一瞬ちらりとシャウラを見るとこう言った。『才能がないからお前では無理』とね」
「シャウラにしてみれば、信じられないことだったかもしれませんわね」
「そうだろうな。あれだけ自信に溢れているのだから。そうして、次に見てもらった君は……」
「『稀に見る逸材、婚約者はこの娘で決定だ』でしたわね」
「そうだ」
占い師にそう言われたアドリエンヌは無邪気に喜んだのを思い出した。その瞬間、それをシャウラが横で見ていたのだと気づく。
「では、喜ぶ私を見て、シャウラは逆恨みをしたということですの?」
アレクシは頷くとその問いに答える。
「シャウラはその時心に誓ったそうだ、『いつか見返してやる』と」
「だからあれほど私にこだわったんですのね」
それにしても五才の頃からアドリエンヌに見返すためだけに生きてきたのだと思うと、背筋がぞっとした。
「シャウラはその負の感情から瘴気を呼び寄せたのかもしれませんわね。そこから違う人生を歩むこともできたはずですのに」
「そういえばたしかシャウラは君が魔法を使えないとずっと勘違いしていたね。しかも、何度間違いを正しても君には魔法が使えないと信じた」
「そうでしたわ、授業中目の前で魔法を使って見せても信じませんでしたもの」
「あれは、才能があると言われた君に魔法が使えないと思い込みたかったのかもしれないな。もしくは願望か」
遡る前も、今回もアドリエンヌに必要に魔法が使えないことに言及して絡んできたのは、そういうことだったのかとアドリエンヌは妙に納得した。
その時、アレクシは思い出したかのように言った。
「そういえば、君は魔法が使えないかもしれないと入学前に学園の教師たちが気を揉んでいたことを知っていたか?」
能力のなさを入学前の審査で見抜かれていたのだろうか? そう思いながら質問する。
「いいえ、知りませんでしたわ。でもなぜ私には魔法が使えないと?」
「君の魔力が強大過ぎて、まだコントロールができないだろうと考えていたからだ。だから入学を遅らせる話も出ていた」
アドリエンヌは驚いてアレクシを見つめる。
以前アドリエンヌが魔法を使えなかったのはそういうことだったのだ。アドリエンヌは魔法を使えない自分を恥じることはなかったのだと気づいた。
「アレクシ殿下はいつそれを?」
「もちろん学園入学前に報告は受けていた。婚約者なのだから当然だろう」
それを聞いて、遡る前アレクシはアドリエンヌが魔法を使えないことに気づいていたのかもしれないと思った。
それでもアレクシはそれに気づかないふりをしてくれていたのだろう。
表現は下手くそだが、アレクシは昔から自分のことを想ってくれていたのかもしれない。
アドリエンヌがそう思いながら見つめていると、アレクシはアドリエンヌを見つめ返し優しく微笑んだ。
しばらくそうして見つめ合っていたが、アドリエンヌは急に恥ずかしくなり目を逸らす。
それを見てアレクシはフッと笑うと、そのまま話を続ける。
「ところで、シャウラの持っていた禁呪の書かれた書物だが」
「そうですわ、あの書物は一体どこの誰が書いたものなのでしょう」
「シャウラはあの書物についてはなにも話そうとしない。だからこちらで書物を鑑定したんだが、シャウラの筆跡と一致したが、書物自体は三百年前のものだった」
「どういうことですの?」
「シャウラの書斎には他にも禁呪の書かれた禁断の書が大量に保存されていた。だから彼女があれを書いたとも考えれるが……」
「そう言えばワーストについては? カミーユ様も三百年前に現れた魔女はシャウラだと言っていましたわ」
「確かに、あの書物には人間をあのような化け物に変える呪術も書かれていた。あの呪術をかけられた者は、大地から邪気を吸い、百年かけて溜め込みそれを結晶化させる。いわば巨大な瘴気結晶を作るための生き物に成り果てる。しかもその呪術は並大抵の人間では耐えられず、強靭な人間にしか耐えられないらしい」
「それでカミーユ様が狙われることになったのですわね。それにしても、人間をそんなものに変えてしまう呪術だなんて、本当に恐ろしいですわ。でも、シャウラはどうやってワーストを操ったのかしら?」
アレクシも不思議そうに言った。
「それがカミーユが言うには、シャウラの言うことにはしたがってしまうそうだ。書物にも、呪術をかけた者には従うと書いてあった」
「でも、シャウラは三百年前にはいませんわよね?」
「もちろんそのとおりだ。それに三百年前にそんな呪術師がいれば、どんな形にせよ必ず歴史になを残しているはずだろう」
「では、どういうことなのかしら?」
「わからない。私は君にならこれらがどういうことなのかわかると思ったのだが」
そう言われ、アドリエンヌは一つの可能性が思い浮かんだが、それを口にすることはなかった。
誤字脱字報告ありがとうございます。
※この作品フィクションであり、架空の世界のお話です。実在の人物や団体などとは関係ありません。また、階級などの詳細な点について、実際の歴史とは異なることがありますのでご了承下さい。
私の作品を読んでいただいて、本当にありがとうございます。




