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文章が稚拙なのでちょいちょい改稿します。
その時、無表情でことのなり行きを見守っていたアレクシが口を開いた。
「シャウラ、これで満足したか?」
呆然と立ち尽くすシャウラにそう言うと、シャウラはアドリエンヌを睨みながら指を差す。
「アドリエンヌは嘘をついてるんですわ。こんな訳ありませんもの。だって、私アドリエンヌ本人が魔法を使えないって言ったのを聞いたんですのよ?」
アドリエンヌは半ば呆れたように言った。
「だから私何度も誤解だって言いましたわよね? どうして理解できないのかしら。本当に困ってしまいますわ」
すると、シャウラはニヤリと笑った。
「みなさん、見ました? アドリエンヌはこういう態度でいつも私を見下すんですの」
そこでニヒェルが大きく手を叩き注目を集めた。
「シャウラ君、いい加減にしないか。君はこの喜ばしい日を台無しにしていることに気づいていないのか? それにどちらかと言うと君の方がアドリエンヌ君につきまとい、嫌味を言っていたではないか。それは誰が見ても明らかであろう?」
それを聞いていた周囲の生徒たちは大きく頷いている。
シャウラは自分が不利だと悟ったのか、その場にしゃがみこむ。そこでアドリエンヌはシャウラを見下ろすと優しく諭すように言った。
「今日は私たちの大切な卒業式ですもの。あなたの無礼な振る舞いも式が終わるまでは目をつぶりますわ。こんなこともう終わりにしましょう?」
するとシャウラはアドリエンヌを睨み付け、目に涙を溜めてニヒェルに訴える。
「そんな! 本当にアドリエンヌは酷い方ですのに! どうしてわかってくれませんの? この前のモンスターを退けたのも、治療をしたのも私ですのに自分の手柄にして……」
そこでシャウラはなにかに気づいたかのように言った。
「もしかして、帰還祭でモンスターを呼び寄せたのはアドリエンヌ、あなたでしたのね?」
アドリエンヌはそれを聞いてシャウラが錯乱したとしか思えなかった。
「あなた、自分でなにを仰ってるかわかってますの?」
「もちろんわかってますわ。証拠を出せと仰いましたわよね? だったらアドリエンヌの屋敷を調べてくださればわかることですわ!」
突然そんなことを言い出すシャウラに呆気に取られながら言い返す。
「そんなこと、許すわけがありませんわ」
その時ずっと黙っていたブロン子爵が前に出るとしゃがみこむシャウラを庇うようにして言った。
「私は少し娘を甘やかしすぎたかもしれませんな。ですがそれでも可愛い娘です。私は娘を信じたい。どうでしょうかみなさん。白黒つけるためにもゲクラン公爵家を調べてみるのは」
なにを言っているのかと呆気に取られていると、ブロン子爵を支援していると思われる数人の貴族たちが叫びだす。
「そうだそうだ」
「賛成!」
「なにもしていないなら、調べられて困ることなどないだろう!」
その時だった。ドアが勢い良く開くとモレ公爵が誰かを引き連れて入ってきた。
「その話、少し待ってもらえるだろうか」
そう言うと、ブロン子爵を見下ろし尋ねる。
「ブロン子爵、ゲグラン公爵家を調べたいと言ったが、その前に明らかにしなければならないことがある」
そう言うと、連れてきた者たちをブロン子爵の前に突き出した。
「この者たちはお前の屋敷の者か?」
ブロン子爵はその者たちから視線を逸らし、モレ公爵に向かって興味無さそうに答える。
「どうでしょう、私の屋敷に使用人はたくさんいますから、いちいち一人ずつは覚えていられません」
それを聞いてモレ公爵は鼻で笑う。
「この者たちはお前の屋敷から出てきた。お前は主人が留守の屋敷への他人の出入りを許しているのか?」
「ならば私の屋敷の使用人でしょう。卿は一体なにが仰りたいのですか?」
「お前の使用人が物騒な物を屋敷の中から運んでいたから、私は部下につけさせた。そうしたら、どこへ運ぼうとしたと思う?」
ブロン子爵は黙り込む。モレ公爵は周囲を見渡し大きな声で言った。
「ゲグラン公爵家の屋敷に運び込もうとした。それでどういうことかと囚えたんだが、まさかこういうことだったとはね」
そう言ってアドリエンヌを見つめ微笑む。
「タイミングよく間に合ってよかった。危うく君はブロン子爵の罠にはめられるところだったのだから」
アドリエンヌは慌てて頭を下げた。
「あ、ありがとうございます」
すると突然ブロン子爵は無言で立ち上がり、シャウラをその場に立たせるとその前に跪いた。
「悪の行いを許してしまい申し訳ありません『フィリウスディ』」
その一言が合図だったかのように、ブロン子爵の支持者たちが前に出ると、次々にシャウラの前に跪いた。
それを見てシャウラは落ち着きを取り戻し、ニヤニヤしながらアドリエンヌを見つめた。
ニヒェルが驚いて質問する。
「まさかブロン子爵、君の娘が『フィリウスディ』だとでも言うのかね」
ブロン子爵は立ち上がりニヒェルの方へ向きなおった。
「そのとおりです。この子は学園内ではこれでも目立たぬよう力を抑えていました。だが、ここまで侮辱されて黙っているわけにはいきません。さぁ『フィリウスディ』存分に力を発揮してください」
先ほど私にまったく敵わなかったというのにと、アドリエンヌは小さくため息をつく。
全員が見守る中、シャウラはアドリエンヌに向かってオーバーに腕を振って見せた。だが、なにも起こらない。
焦ったシャウラは何度も腕を振るが、何度やってもなんの反応もない。
なぜなら、アドリエンヌがシャウラが使おうとする魔法をすべて打ち消していたからだ。
その場が静まり返り、アドリエンヌはシャウラに問いかける。
「もしかして、魔法が使えないんですの?」
するとシャウラはとても憎しみのこもった眼差しでアドリエンヌを睨んだ。
「あなたね? あなたがなにかしているんでしょう。あなたは『フィリウスディ』に害をなすものなのよ!」
シャウラがそう叫ぶと、それに調子を合わせてブロン子爵もアドリエンヌを責める。
「なんて恐ろしい娘だ。こんな娘を野放しにしていたらこの国はいずれ滅びるだろう」
その瞬間だった、リオンがアドリエンヌの頭の上に飛び乗ると叫んだ。
「やかましい!! さっきから人が寝ているのに訳のわからんことをピーチクパーチクと叫びおって。それに誰が『フィリウスディ』だって?! 笑わせるな、そんな邪悪な娘が神の子であるはずがないだろう! いいか良く訊けこの馬鹿ども。本物の神の子は……」
アドリエンヌは慌ててリオンの口を塞ぐ。
「言ったらダメですわ!」
だが、リオンはすぐにアドリエンヌの手をすり抜ける。
「お前がいつまでも言わないからこんな偽物にでしゃばられるんだ。腹を決めろ!」
そうアドリエンヌに言うと、シャウラを睨む。
「いいかこの馬鹿娘、よく聞け。神の子はアドリエンヌだ。でなければお前の魔法を指一つ動かさずにすべて打ち消すなどできるわけがないだろが!」
ついにばらされてしまった。そう思っていると、シャウラは笑い出した。
「やだ、なにこの子猫。面白いですわ。アドリエンヌよかったですわね、子猫ちゃんが味方になってくれて」
その台詞で、リオンはアドリエンヌの頭から飛び降りた。
「アドリエンヌ、許せん。もとの姿にもどせ!」
アドリエンヌは一瞬躊躇ったが、『フィリウスディ』であると公にばらされてしまった今、リオンの姿を隠している意味はもうないだろう。
そう思い言われるがままリオンをもとの姿にもどしてあげた。そうしてリオンが本来の姿になると、教師や貴族たちがざわめき始めた。
「見ろ、白い獅子だ!」
「まさか、本当にいるとは……」
「神の使いだ……」
リオンはもとの姿に戻るとシャウラを見据えて言った。
「私は神の眷属、リオン・ブランカ。使命は神の子アドリエンヌの監視者だ」
そう名乗るリオンはとても誇らしげにしていた。
誤字脱字報告ありがとうございます。
※この作品フィクションであり、架空の世界のお話です。実在の人物や団体などとは関係ありません。また、階級などの詳細な点について、実際の歴史とは異なることがありますのでご了承下さい。
私の作品を読んでいただいて、本当にありがとうございます。




