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文章が稚拙なのでちょいちょい改稿します。
「ひぃ! に、苦手なんですの! 特にムカデ系はダメなんですの!!」
アドリエンヌはそう叫んで目を固くつぶった。
そんなアドリエンヌにつかまれてろくに動くこともできないアレクシは、防御魔法で向かってくるモンスターに対応しながら叫ぶ。
「は?! 苦手? とにかく背中をつかまれていては私も応戦できない。少しでいいから手を一度離せないか?」
そう言われ、アドリエンヌは目をつぶったままそのモンスターに手をかざすと一瞬で浄化した。
「モンスターが浄化されるところを初めて見た」
そう感動しているアレクシの背中にすがりついたまま、アドリエンヌは質問する。
「今の一体だけですの? 他にはもういませんわよね?」
アレクシは周囲を見渡す。
「今のところはいない。だが、ここら辺はジャイアントセンチピードの生息地だから、また出てくるだろうな」
それを聞いてアドリエンヌは半べそになった。そんなアドリエンヌにアレクシは優しく話しかける。
「以前、苦手なモンスターはいないと言っていたと記憶しているが?」
「そ、それはその、王太子殿下の手前そう答えただけで」
アドリエンヌがしどろもどろでそう答えると、アレクシは少し照れたあとアドリエンヌの頭を優しくなでた。
「そうか私のためについた嘘、か」
そう言うと、アドリエンヌから少し体を離し、肘を差しだす。
「ほら、腕につかまればいい」
アドリエンヌは慌てて腕にしがみつく。恥ずかしいことだとわかっていたが、それよりも昆虫系モンスターの方が恐くて仕方がなかったのだ。
遡る前は、シャウラに弱みを見せたくなくて昆虫系モンスターが出ても平気なふりをして気丈にふるまっていた。
だが、今はそんな必要もない。正直に恐いものは恐いと言う。別にそれでアレクシに嫌われたとしても一向にかまわないのだ。
「端ないところをお見せしてすみません」
アドリエンヌがそう謝ると、アレクシは微笑んだ。
「誰しも苦手なものはある。それは決して恥ずかしいことではないだろう? だから、これからは私には隠し事をする必要はない。それに、どんな君だって私は受け入れられるのだからなにも隠す必要はない」
アドリエンヌがその意味を問いかけるようにアレクシの顔を見上げると、アレクシは視線を逸らしていった。
「じゃあゆっくり行こう」
その後アドリエンヌは、少しでも音がすると即座にアレクシの背後に隠れながら、そこにいるモンスターを片っ端から一瞬で浄化して歩いた。
「凄いな、相手を見なくとも浄化できるのか?」
「だって、恐いんですもの……」
こうして二人は噛み合ってるか噛み合ってないのかわからない会話をしながら、やっとのことで目的の瘴気結晶のところまでたどり着いた。
それは、大きな木の根元に置いてあり、結界が張られてはいるものの少し瘴気が漏れでていた。そして、その瘴気に当たった周囲の植物が少しモンスター化し始めていた。
「これは、思っていたよりも凄いな。この結晶の周囲に結界が張られていなければ大変なことになっていただろう。それにしても、先日の西の渓谷の物はもっと大きかったのだろう? よく一人で対処したものだ」
「そうなんですのね? 私あまり結晶を見たことがありませんもの。そんなものかと。それより、すぐにでも浄化はできますけれど、少し周辺を調べてから浄化しますか?」
「そうだな、少し見て回ろう。この結界がどうやって張られているのかも気になる」
そうして二人で結晶の周辺を歩いて、結界が展開されている元をたどって行くと、そこには結界石が置かれていた。
「この前の課題のあと、デビルドラゴンの騒ぎでこの森は徹底的に調査されたはずだ。その後にこの結晶と結界石を持ち込んだのだろう。それに、この大きさの結界石なら効力は長くて二か月しか続かない」
「それって、もしかして」
「そうだ、次の課題が始まる頃に結界の効力が切れることになっただろう」
それを聞いてアドリエンヌはぞっとした。これで何者かが確実に悪意をもってこんなことをしているのだと確定したからだ。
前回、モンスターが大量発生した原因はこれだったのだろう。アドリエンヌは当たり前の疑問を口にする。
「一体誰がこんなことを」
「まだわからない。だが、こんなところにこれを置くことができるのだから国内の者の犯行だろうな」
ここに立ち入れる者の犯行ということだけでも犯人を絞ることができるだろう。なんにせよ、これをこのままにしておくわけにはいかない。そう思いながら尋ねる。
「この結晶を浄化してもよろしいかしら?」
「そうだな、頼む」
二人は立ち上がり、アドリエンヌは結晶に近づくと一瞬で結晶を浄化した。するとその瞬間、七色の光がほとばしる。
間近で見ていたアレクシは呟く。
「何度見てもこの瞬間は美しい。しかもこれだけ大きな結晶を一瞬で、か。私は今とんでもないものを目の当たりにしているのだろうな」
「なにか言いまして?」
不思議そうにアレクシを見つめるアドリエンヌを見て、アレクシは苦笑する。
「いや、なんでもない。さて、戻るとしよう」
「も、戻るということはまたあの道を通りますのね?!」
その反応を見てアレクシは無言で手を差し出した。アドリエンヌはその手を素早く取り、アレクシの腕にしがみついた。
そんなアドリエンヌを優しく見つめ、アレクシはゆっくり出口の方向へ歩きだした。
門を出ると、アドリエンヌはパッとアレクシの手を離した。
「端ないことをしてしまって、申し訳ありませんでした」
素直に謝ると、アレクシはアドリエンヌを見つめて微笑む。
「いや、私に助けを求めてもらえて嬉しかった。私を頼りにしてくれているということだからね。それに本当は君なら一瞬であの場所に行くことができたのだろう? それなのに私に付き合わせてしまってすまなかった」
そう言われて、アドリエンヌは最初から二人であの場へ瞬間移動すればよかったと今ごろになって気づいた。
「いいえ、私は二人とも瞬間移動させることができますのに、すっかりそれを失念していましたわ」
アレクシは驚いてアドリエンヌを見つめる。
「君は自分以外も一緒にに瞬間移動させることができるのか?! そんなことができるなんて……」
「た、大したことじゃありませんわ。それにもっと早く気づいていれば、殿下を煩わせるようなことにはなりませんでしたのに。申し訳ありません」
「煩わせるなんて、そんなことはない。私にとってとても貴重な時間だった。できればこれからはこうしてもっと二人の時間を増やしたい。だが、出かけるとしても森以外にしよう」
それを聞いてアドリエンヌは笑いながら答える。
「王太子殿下のご迷惑になりますもの、そんな必要はありませんわ。でも、お気遣いありがとうございます」
アレクシはがっかりしたような顔をしたが、それは浄化の能力を持つアドリエンヌの気を引くための芝居だとわかっていたので、無視することにした。
そして、そんな芝居は無駄であることをこの機会に言っておかねばと考えた。
「殿下、もしも婚約の解消をしたとしても、私はこの国に仕えるつもりでおります。ですからご自身の気持ちを抑えて私の気を引く必要はありませんわ」
誤字脱字報告ありがとうございます。
※この作品フィクションであり、架空の世界のお話です。実在の人物や団体などとは関係ありません。また、階級などの詳細な点について、実際の歴史とは異なることがありますのでご了承下さい。
私の作品を読んでいただいて、本当にありがとうございます。
 




