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文章が稚拙なのでちょいちょい改稿します。

 かつて英雄ともてはやされたその老人は、あてもなく歩いていた。愛する妻を亡くし、生きる意味を失い、老いさらばえた体を引きずり死に場所を探していた。


 すると、目の前に女が現れた。もうなんの欲もないと思っていたが、気づけば老人はその女にとても魅入られていた。


 老人が吸い寄せられるようにその女の前に行くと、その女は言った。


「あなたには死なれては困るの、まだ役目があるのだから。次こそ成功させるのよ……」


 そう言ってその老人に魔法をかけると顔を歪めて苦しみだし、血反吐を吐きながら息絶えた。


 魔法をかけられた老人は、かつて英雄と呼ばれていたあの頃のように力が湧くような感覚がした。







 カルノーサ魔法学園の卒業を祝う舞踏会でのことだった。シャウラ・ド・ブロン子爵令嬢はアドリエンヌ・デュ・ゲクラン公爵令嬢を指差してこう言った。


「アドリエンヌは魔法が使えないのですわ!」


 その言葉に辺りは騒然となった。シャウラの横に立っていたアトラス・モレ公爵令息が不思議そうな顔でシャウラに訊く。


「だが、今までアドリエンヌ嬢はみんなの前で問題なく魔法を使っていたが?」


 その質問にシャウラは憐憫の眼差しでアドリエンヌを一瞥すると小さく溜め息をついて答える。


「それはアドリエンヌの力ではありませんの。アドリエンヌのそばにいつもいる護衛のドミニクが魔法を使っていたのですわ」


 アドリエンヌはなにも言い返せなかった。なぜならそれらはすべて真実だったからだ。顔色をなくし立ち尽くすアドリエンヌに続けてシャウラは言った。


「それにあなた、(わたくし)に嫌がらせをしましたわよね?」


 身に覚えのないことを言われ、驚いてシャウラを見つめる。


「嫌がらせ?」


 シャウラは子供に言い聞かせるように優しくアドリエンヌに言った。


「魔法を使えないことが私にばれてしまったからあんな嫌がらせをしたのですわね? しかも(わたくし)が受けた嫌がらせは、魔法によるものではなくとても直接的なものばかりでしたわ」


 流石に嫌がらせは濡れ衣だった。アドリエンヌは顔を上げシャウラを正面から見つめる。


「嫌がらせなんてしてませんわ!」


 シャウラはゆっくりと首を振る。


「あら、でも嫌がらせを受けていたのは事実ですわ。それに、そんな嫌がらせをするなんて魔法を使えないアドリエンヌ以外は考えられませんわ」


 その時、それまで無表情でことのなり行きを見守っていたアレクシ・コル・レオニス・カルノーサ王太子殿下が口を開いた。


「嫌がらせの件はさておきアドリエンヌ。君が魔法を使えないというのは本当のことか?」


 言い逃れできない。そう思ったアドリエンヌは俯くと答える。


「はい、そうです」


「ならば、いままで課題やテストで魔法を使ったのは、護衛のドミニクだったと言うことか?」


「はい」


 アレクシは少し考えた様子を見せたあと口を開く。


「試験で不正をするなど許されてはならないことだ。君とは婚約を破棄せざるを得ないだろう。とにかく、屋敷に戻って沙汰を待て」


「わかりました」


 そう言うと、アレクシはシャウラに向きなおった。


「それと、アドリエンヌが君に嫌がらせをした証拠があるのなら提出しろ。詳しい話は他の者に聴取させる」


 それだけ言うとアレクシは王宮へもどっていった。去っていくアレクシの背中にアドリエンヌが一礼し顔を上げると、シャウラがこちらを見てニヤリと笑っていた。






 アドリエンヌは屋敷に戻る馬車の中で昔を思い出していた。


 五つのころ突然王宮に呼ばれた。それは、古くから行われている占い師による王太子殿下の婚約者の選定のためだった。


 そして、見事アレクシの婚約者に選ばれたのだ。あの時は飛び上がるほど嬉しく誇らしく思ったものだった。


 これで自分はきっと幸せになれるはず。そう思って疑っていなかった。


 屋敷へ戻るとアドリエンヌの父であるエルネスト・デュ・ゲクラン公爵が優しく出迎えてくれた。


「アドリエンヌ、お前が魔法を使えないことを最初から正直に学校に報告していればこんなことにはならなかっただろう。だが、私も隠すことに荷担していたのだから責められたものではない」


「お父様、迷惑をかけてしまってごめんなさい」


 するとエルネストは優しくアドリエンヌの頭を撫でる。


「お前は魔法が使えないことで、婚約を破棄されることを恐れていたのだろう?」


 アドリエンヌは涙をこらえながら頷く。エルネストはそんなアドリエンヌを抱きしめた。


「いつかは魔法が使えるようになるだろうと楽観視していた私も悪かった。とにかく今は城下を離れて領地に戻りなさい」


「わかりました」


 そう答えると屋敷を離れる準備をした。


 通常、誰でも大なり小なり魔力を持って生まれてくる。だが、生まれて直ぐに魔法を使えるものではなく成長し、体の中でうまく魔力をコントロールできるようになってやっと魔法が使えるようになる。


 そのため十五歳になったら魔法学校へ通わなければならなかった。


 アドリエンヌも魔力は持っているが、なぜかそれをコントロールすることができず魔法を使うことができなかった。


 しかも公爵家の令嬢が魔法を使うことができないなど、本来あり得ないことであり一家の恥となることだった。


 ましてアドリエンヌは王太子殿下の婚約者である。立場上許されることではなく、テストで不正をすることは苦肉の策だった。

 

 屋敷を出る馬車に乗り込み、誰にも見られていないことを確認するとアドリエンヌは涙を流した。


 しばらくして、森へ入ったところで急に馬車が止まった。不思議に思い窓の外を見てアドリエンヌは息を飲んだ。


 山賊たちに囲まれていたからだ。


 本来ならば、この森は国の管理下にあってとても安全な道であり、この様に山賊に囲まれることはないはずだった。


 直ちにアドリエンヌの護衛が馬車を守るように前に立ちはだかると、まずは穏便に済ませようと金品を渡す代わりにここを通してほしいと交渉し始めた。


 山賊たちの目的は、貴族の持っている金品を奪うことである。なので、金品さえ渡せばすんなり通してくれることが多かった。


 ところが、ドミニクが懐から金貨を取り出そうとした瞬間、山賊たちが一気に護衛たちに切りかかった。


 アドリエンヌは悲鳴を上げ、馬車の中で屈むと頭を抱えた。恐怖で震え、歯がガチガチと音をたてた。


 その間にも馬車の外からは護衛たちの悲鳴が上がり、ついに馬車のドアに剣が何度も突き立てられ始めた。


 やがてその剣先はドアを貫通する。


 アドリエンヌはまた悲鳴を上げたが、あまりの恐怖にその悲鳴は声にならなかった。


 剣によって開けられた穴は徐々に広げられ大きくなっていき、その穴から手が差し込まれた。その手はしばらくドアの内側をまさぐり、ついに鍵のある場所を探りあてると鍵を開けた。


 そうしてドアがゆっくり開けられると、山賊はアドリエンヌを見つめ冷徹に笑った。そして持っていた剣を振り上げる。


 まだ、死にたくない! こんな人生はいや! 昔に戻ってやり直したい!!


 強くそう思ったところで突然静寂に包まれた。そしてなにも聞こえず、なにも感じなくなった。

誤字脱字報告ありがとうございます。


※この作品フィクションであり、架空の世界のお話です。実在の人物や団体などとは関係ありません。また、階級などの詳細な点について、実際の歴史とは異なることがありますのでご了承下さい。


私の作品を読んでいただいて、本当にありがとうございます。


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