5、『歌ってみた』きいてみて?
SNSでデートツイートをすると、ファンアートタグにイラストがまた増えた。
アバターの二人で写真とおんなじクリームソーダを楽しんでいるシチュエーションのイラストが可愛らしくて、和む!
俺はいそいそとファンアートにハートをつけて、リツイートした。
「ありがとう……ありがとう……」
――ひとりのイラストも嬉しいけど、相方と一緒にイラストの特別な嬉しさといったら、言葉にできない変なテンションになっちゃうくらい嬉しいんだ。
保存してスマートフォンに設定すると、ちょうどそろそろ配信の時間だった。
5、『歌ってみた』きいてみて?
配信用のアプリを起動して、サムネ画像を設定する。
アバターの動作を軽く確認して、SNSに知らせる用の配信ページURLを取得して。
「やるぞー」
プレイする予定のゲームをチェックして、ペットボトルをそばにスタンバイして。
オープニングトークのBGMには、ガクが最近投稿した『歌ってみた楽曲』を使わせてもらった。
あっちはあっちで俺の『歌ってみた楽曲』を流してくれるらしい――お互いにお互いを営業しあうのだ、この活動は楽しい。
あと、ガクのキャラは格好良いし、声はイイし、歌もうまーい!
相方が誇らしい……! 俺は自慢したい!
(相方っていいよなぁ! ひとりじゃないんだ……っ)
上機嫌で配信をスタートすれば、だいたいいつもコメントしてくれる視聴者の人が名前付きでコメント欄を賑わしてくれる。
「今日はガクとFPSするんだよっ」
『雪柳メイ』としてお話しすると、コメントが『楽しみ』と反応を返してくれる。
これが結構モチベを上げてくれる――「楽しみにしてくれると、ボクもやる気出る! 頑張るね」メイは割と素直に思ったことを言うキャラとして売ってるので、俺はニコニコとそう言った。
――もちろん、炎上しそうなことは言わないけど。
『デートもしたんだよね』
コメントが話を振ってくれる。
これも、助かるんだ。話のネタがもらえるから、困らない!
ひとりでただ喋るのよりも、視聴者とコミュニケーション取り合ったほうが、楽しい!
時間があっという間に過ぎるんだ。
「うん、そう! 写真見てくれたぁ!? 綺麗でしょ、ボク気に入っちゃった」
お店を特定したコメントがいくつか連なる。
ああ、やっぱバレるよね、と俺は笑った。
「そこ! ボク、また行くかも。もしボクっぽいと思うのがいてもスルーして!」
あっ、そうだ。忘れずに営業もしないと。
耳に心地よいガクの声がサビを歌うBGMの盛り上がりに、俺はコメントをさがした。
『これ、ガクの歌?』
おお、コメントあるある――ちゃんとわかるんだ。
「わかるんだね! そうそう、これガクの『歌ってみた』だよ。ボクずっと聴いてる」
『いいよね!』
『私もずっと再生してる』
コメントが流れて、俺は目を細めた。
「ボク、デートの時に『相方』って呼んでもらっちゃった。今度デュオする約束したよ」
ファンが一緒になって喜んでくれる。
居心地の良い雰囲気の中、チャットアプリで通話が持ちかけられる。
「はーい、ボク、ボク」
「俺俺詐欺みてえ」
通話が繋がると、ガクの声が親しい距離感で笑ってくれる。
BGMを低くして、止めた。
俺は通話をミュートしてから、秘密を共有するみたいに自分の配信視聴者へと囁いた。
「ね、ボクがガクの歌聴いてたの、秘密ね! 恥ずかしいから」
秘密の共有にファンが喜んだり、『教えてくるわ』なんて意地悪を書いたりしてる。
(ほんとは、打ち合わせしてお互いに歌を聞いているんだけどね……ビジネス感を感じさせないように! 自主的に聞いていて、相手に知られると恥ずかしいーってしよう)
画面を操作して、ゲームのスタート画面を配信に出して、その上に――端っこに自分のアバターを置く。
「ランク上げるぞ〜」
「いえーい」
ガクとメイがペアでFPSを始めると、対戦相手に時折視聴者が現れてちょっかいを出してきたり、コメントで教えてきたりする。