16、『れーくん』俺のこと、覚えてるの?
――うんうん、だって?
16、『れーくん』俺のこと、覚えてるの?
(覚えてるのかな……? 誤魔化してるのかな……)
スタンプに首を傾げていると、メッセージが入力中という表示が出る。
何かチャットを入力しているようだ――ドキドキと見守っていると、画面にメッセージが出た。
『配信終わろう』
あっ、それ。お、おーけー?
拍子抜けしつつ、『おけまる』のスタンプを返して配信を締めると、メッセージが追加される。
『明日デートしよう』
「でっ……」
文字の破壊力がヤバい!
俺はまじまじとその一言を見て、肩をそわそわさせて口元を片手で押さえた。
(デート! デートだって! 配信外でのチャットでそんなこと書くんだ!)
配信中なら、ビジネスてぇてぇだなと思うものだけど――「あっ」ふと可能性に思い至る。
『これ、SNSに?』
前の嫉妬の応酬みたいにアップする用?
確認すると、スタンプが返される。
ゆるキャラがふるふる首を振って『NO』だって。
(プライベート発言だー!!)
俺の情緒が乱れてぐしゃぐしゃっとなっている! テンションが凄い上がってしまう!
(デートだー!!)
そして、また相手からのスタンプが押されて表示される。
ゆるキャラが唇に人差し指を立てて当ててるポーズ。
『秘密』だって――、
さらにスタンプで『好き』っ!?
「ふあぁぁぁぁあ!」
――なにそれ、なんか照れるやつじゃんっ!
情緒を乱されて思わずひとりで悶えていると、チャットアプリに待ち合わせ場所と時間が送信されてくる。
「おーけー、と」
スタンプを返せば、『ちょっとだけ通話いい?』なんてチャットが送られてきて、こっちから通話をかけてやると即座に通話がつながった。
(声がきけるぞー!! うわー!!)
正直、今のやりとりの後で通話って結構モジモジしちゃうんだけど!
な、なにを話してくれるのかな!?
俺が胸のうちで騒ぐ鼓動を持て余していると、零さんは少し照れたみたいな声でそっと声を届けてくれた。
「今日はありがとう。楽しかった。めちゃめちゃ嬉しかった……」
ああ、配信に乗らないのが惜しいくらいの、このイケメンな声と言葉ーっ!
俺は真っ赤になりながら、返事した。
「俺も、『れーくん』と遊べていつも嬉しいし、楽しいよ! おやすみ」
ちょっと息を呑む気配がして、そおっと声が返される。
優しくて、懐かしむようでいて、前とは違って声変わりした『れーくん』の声が。
「楓、おやすみ」
(……あああああああああっ!! 『かえで』だってえええええ!!)
通話を終えた後、俺はもうSNSをチェックする気も起きなくて、寝支度をして、ベッドに転がって、寝てるんだか起きてるんだかわからない頭の中でふわふわホワホワしていた。
(零くん……、零くん――れーくんっ……っ!!)
今日のできごと、れーくんとのやり取りを頭の中で再生して、なんだかとっても幸せだった。




