12、『歌ってみた』デュオしようぜ!
さて、今日はリアルでガク――零さんと会っている。
――以前約束をした、『歌ってみた』コラボデュオの収録をするために。
別々に収録してミックスしても良いのだけれど、一緒にやりたいねと零さんが言ってくれて、俺も暇だったので一緒にやることにしたんだ。
12、『歌ってみた』デュオしようぜ!
「直接会うのは久しぶり〜」
今日も零さんはイケメンだ。
あと、ちょっといい匂いがする……香水? なんか、モテそう。
「この前以来!」
「だね。……楓くんは今日も可愛いなあ」
冗談めかしてそんなことを言われたので、俺はびっくりした。
「かっ……? かわ、」
頬がふぁーっと熱くなる。
目の前のイケメンさんはきっと容姿を誉められ慣れてるに違いない。
でも、俺はあまり、リアルで容姿を誉められたことはないのだ。
「あ……えっと、変なこと言ってごめん?」
零さんはつられたみたいに赤くなってもじもじした。
イケメンが恥じるような照れるような顔をすると、ちょっとびっくりするくらい心が揺れる。
俺のハートに照れ顔が刺さるぅっ!
「い、い、いや。慣れてなくて……っ、こっちもごめんね」
あたふたと取り繕えば、零さんはふるふると首を振ってニコッと笑った。
「でも、揶揄ったりとかで言ったわけじゃないから」
「……っ!!」
(うわー!!)
心拍数が跳ね上がる。
(本心で可愛いって言ってくれたってことだよね? う、うわー、うわーあ)
「零さんは、さては……タラシだなぁ?」
「あっ、ち、ちがうよ。誰にでも言ってるわけじゃないよ」
全力で照れながら言えば、零さんはちょっと慌てていた。
そうだ、誉めて貰ったからにはこっちも誉め返そう。
「零さんはイケメンで、可愛いところもあって、口も上手い――タラシだなーっ? 俺もドキドキしちゃったね……」
「えっ、えっ、」
目を白黒させているのが、やっぱ可愛い。
ともかく、収録だ。
今回の収録は有料のレコーディングスタジオを使っていた。曲数単位でお金を払っているので、時間は大丈夫なのだけれど、早く終わればその分他のこともできるのでダラダラしちゃいけない。
二人で歌う曲は、同性二人の歌い手に人気な曲だ。百合とか薔薇とかの花が咲くノリである。
自分サイドの相手への気持ちを語る歌詞を切なく歌い上げるソロパートを互いに展開して、サビで合わせて別々の歌詞を同時に歌って、動画の画面では二人の歌詞がばーっと並ぶわけだ。
そして、最終的にその歌詞がひとつの想いに重なって、同じ告白の歌詞を合わせて歌って結ばれる!
これをムービーでドラマチックに仕上げる贅沢なことを仲良しの二人組でするのが流行っていて、ファンもすごく喜ぶのだ。
収録はスムーズに進み、終えて帰る時には零さんがキャンディをくれた。
喉を使ったからね――しかし、気が利くなぁ。やっぱり、モテるんだろな……。




