1、俺らはビジネスてぇてぇをしている
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珈琲の香りをお供に、配信をする。
生配信の画面で、二人のvtuberがてぇてぇ営業をしている。
「メイくん、今日この後、ヒマ? 俺さ、この後MMORPGのフロンティアランドするんだけど」
イケメンアバターの『黒山羊 ガク』がショタアバターの『雪柳 メイ』に誘いをかけると、コメントが流れていく。
それぞれのチャンネル、それぞれの配信画面で、それぞれのファンが応援するーーコラボ配信。
『ガクがメイくんを誘ってる! 頑張って!』
『見てる側が緊張する……!』
「ボクもこのあと、もう少し配信するつもりだった」
メイくん、と呼ばれたアバターがニコニコと言葉を返す。
「あっ、ほんと? 何するつもり?」
ガクがゆるゆると問いかける声に、演技による緊張感があった。
メイは天真爛漫に調子を合わせて演技する。
「ボクもねー、フロンティアランドするつもりだった」
「マジ? じゃあ一緒にする?」
コメントが大いに盛り上がっていた。
『おおおおお!』
『きた!!』
「ボクはね、実は~、ガクさんのキャラをストーカーするつもりだった……♪」
いたずらっ子な顔をして、メイが笑った。
1、俺らはビジネスてぇてぇをしている
「ふーっ」
配信を一度やめて、休憩中。
パソコンのモニターでの中で、もう1人の自分が体を揺らして、瞬きをしている。
もう一人の自分は――雪柳メイ。
白猫の耳と尻尾を揺らす、全体的に白っぽいショタのアバターは、俺がVtuberとして活動するための専用アバターだ。
リアルの俺は、佐伯 楓。
平凡な大学生――趣味としてVtuberをしているゲーマーだ。
「メイくん、今通話いい?」
チャットと通話ができるアプリにメッセージが届いている。
同じ活動をする人同士が集まるコミュニティで知り合った、別のVtuberさんからだ。
アバターは俺の『メイ』と同じ全体的に白っぽい猫耳と尻尾が生えてる少年アバターで、名前は黒山羊ガクさん。
背信で『仲良し貴い』――『てぇてぇ』してた相手だ。
黒山羊なのにカラーリングが全体的に白っぽいのは、流行りを気にした結果なのだとか。
「ガクさん、通話オーケーです、どうぞ」
少し緊張しながらオーケーすると、アプリで通話がかかってくる。
配信の外では、二人とも、アバターとは違う『素の自分』『中の人』だ。
「さっきのだけどさ、ストーカーはその、……イメージ悪くない? メイくんはもっとピュアでさ、ストーカーとかしない感じというか……される側っていうか……? 『はわわ〜、ストーカーってなに~?』みたいななショタキャラでよくないかな……?」
ガクさんが穏やかながらもはっきりとした指摘をしてくれる。
「あっ……、すみません。俺もそのキャラが良いと思うんですけど、はわわショタ難しくって……」
「い、いやいやっ、その、心配してさ。悪いように受け取るひとっているじゃん。ごめんね……次の配信はピュアな感じで頑張ってみよっか? 俺も頑張るから」
「はい!」
と、こんな感じで打ち合わせをする俺らは、つまり互いのキャラを相談しながら仲良しペアを演じる『ビジネスてぇてぇ』Vtubers、なのである……。
お互いのリアルもあまり知らない。
チャットコミュニティで、あまり人気がない新人同士話していて、「やってみよっか」という気楽〜なノリでペアを始めた。
初めは、本当にその程度の仲だった。