投げるというか、撃つ
時系列は本編Ⅱ期の後半。明確には分からない。
今日はどんな襲撃をかけようか、と考えながら歩いていた零火は、ふと、屋敷の玄関に二つの影があるのを見つけた。一方は細川のアシスタントとして付いている天使のラザム、もう一方は、細川の契約精霊であるライ。この両者が外に出ているなど珍しい。細川がそばにいるならともかく、そうでないときは、どちらも屋敷にいることが多いのだ。不思議に思っていると、この二人に──というより一人と一匹に──、零火は止められた。先に口を開いたのはラザムである。
「今は中に入らないでください。危険ですので」
「キミの妹は、魔法店の方に避難しているよ」
この屋敷は、魔法の実験などで幾度となく爆破された過去がある。零火の襲撃で破壊されたことも一再ではないが、そのときでも、被害はせいぜい部屋一個吹き飛ぶ程度で済んでいたのだ。屋敷から避難するような危険な実験は、これまでなかったはずである。
「それなのに、先輩は一体何をしているの?」
「ええっと、それは……」
ラザムが答えようとしたときだ。腹部に重く響くような轟音とともに、屋敷の壁が膨らみ、破れるように飛び散ってた。爆発、とは違うらしいが、規模は間違いなくこれまでの爆発を上回るだろう。そして、一瞬で穴になった壁から、無造作に投げ出された人形のように宙を舞った人影が、危なげなく地面に着地した。
言わずもがな、実験を行っていた細川裕その人である。
零火が呆れて見つめる中、離れた場所から別の爆発音が聞こえてきた。
一体、この危険な実験はなんだったのか。とはいえ、言ってしまえば大したことではなく、くだらないことですらある。
細川が作っていたものは二つ──呪榴弾と、倍加速魔法陣式加速砲。厨二病を拗らせた男が、才能と技術力を無駄遣いした、ただの危険な武器である。いずれも細川の造語で、説明を聞いた零火は、「なんて物作ってるんですか!?」と叫んだほどだ。今回の実験が失敗するであろうことは、細川も分かっていたらしい。
「っていうか、呪榴弾ってなんですか、手榴弾って言おうとして鼻が詰まってたみたいな……」
大破した屋敷の壁を修理しながら、自分の造語を鼻詰まり呼ばわりされた男はぺらぺらと説明した。
「呪いを使った手榴弾で呪榴弾だ。別に鼻が詰まっているわけじゃない。まあ、暴発したら死んでいたな」
呪榴弾は、紙で砂を包み、その中に呪術魔法を仕込んだもの。外部からの衝撃を発動条件として、放り投げて何かに衝突すると、巨大な爆発を引き起こす。少なくとも細川の腕力では自分まで巻き込まれるので、彼はこれを、遠くに飛ばすための道具を作っていた。それが、倍加速魔法陣式加速砲である。こちらは中心を通過する物体の速度を倍加する魔法陣をいくつも配置した魔法式のレールキャノンで、細川に言わせると「こいつがあればトマト一個で要塞が潰れる」代物だ。魔法陣の数は三十で、たとえゆっくりと押し込んでも、嫌になるような数字の速度で物体が射出される。しかしそれは、速度だけを考えた場合の話だ。当然、射出する際の衝撃波は馬鹿にならないので、射手の方もただでは済まない。細川も、結界を張っていた精霊たちに散々文句を言われたようだ。
反省の弁はあった。
「三十はやりすぎだな。まずは十個くらいで様子を見てから……」
なぜこんなものを作ったのか、と零火に問われると、
「なんでって、そりゃお前、男の浪漫だよ」
さすがにレールキャノンは危険だということで、今後こちらは封印されることになる。決して、「使い捨てにしても、コスパが悪い」からという理由ではない。
ちなみに、仕方なさそうに瓦礫の撤去を手伝っていた零火が、細川にだけ聞こえる声で呟いた言葉がある。
「先輩って、ほんとうに物騒なもの好きっすよね」
「言い方」
特に否定の言葉はなかった。
体育祭のときに暇すぎて書いてたやつだったかな。