年度末文集
時系列的には本編Ⅱ期第一話のあとくらいかな。
#1
──エッセイを書け、という。
いきなりなんのことかと言うと、年度末に文集を作るから、全員文章を作れ、という、なんともいきなりすぎる課題を出されたのだ。
文章量は、最低六百字。原稿用紙に換算して、一枚半。少ない。あまりにも少ない。小学校の卒業文集だろうか?
最大字数は千六百字。原稿用紙に換算して四枚。だから少ないってんだよ、読書感想文か?
可変範囲は六百から千六百字の間。俺は文章を書くこと自体、別に苦ではない。書けと言うならいくらでも書いてやる。だからこそ思うが、これで何を書けと言うのか?
そもそもなぜエッセイを書かねばならないのか。
それは時をやや遡り、実に八ヶ月以上前の授業を回想することで説明ができる。
一言で言えば、「授業でやった随筆を、みんなも書いてみましょう!」という訳だ。発想が小学生だ。うちにいる小学生に聞かれたら、同列に並べるなと怒られそうだ。
……なんか普通に喋ったら先生にも怒られる気しかしないが、思ったことをそのまま書くのがエッセイだと言われているので無視しておく。
さて、制限字数が半端なので、特に書くことのない、エッセイについて思うところを述べてみよう。
国語総合で学習する羽目になった随筆を、現代風に言い換えるとエッセイになるという。個人的にはエッセイよりも随筆の方が発音しやすいし字数も取らないから、こっちの呼び方の方が好きだ。
しかし、随筆とエッセイでは、意味がやや異なるそうで、言わばルートの二を一・四一四二……と言い換えているようなものらしい。
そんな適当な解釈でいいのかって? 大体合ってるしエッセイだからどうでもいい。
ところで随筆は何を習わされたのかと言うと、徒然草の「猫また」と言うやつだ。
そう、「奥山に猫またといふものありて──」の猫まただ。
文章中にはしっぽの先が二つに分かれるとか人を喰うとかしか書いてなかったが、俺が聞いたところによると人語を話すともいう。
知り合いに(現代版の)雪女がいるが、現代版の猫またってのは可愛いだろうか?
猫はだいたい可愛いはずだが、なぜか猫またとなると、途端にふてぶてしい奴しか想像できなくなるから不思議だ。俺は前世、妙ちくりんな猫またと親交でもあったのだろうか。
他に猫系妖怪というと、化け猫というものを一度は聞いたことがあるはずだ。
涎をダラダラ垂らして行灯の菜種油を舐め、シャーッと威嚇してくる(とは聞いたり聞かなかったりする)が、こいつは最近の学説かなんかによると、狂犬病にかかった猫なんだろうとのこと。症状を調べたところ確かにそんな感じがするので、じゃあ多分そうなんだと思う。
他に知ってる動物系妖怪……そうだ、すねこすりは絶対に可愛い。
古今のアニメ、漫画、小説にしょっちゅう出てくるこいつだが、物語によって生態は様々だ。
共通してるのは、小動物的なサイズと見た目をしていて、ちょこちょこっと脛の間を擦るようにくぐり抜けていくこと。
話によっては生気を吸われて早死するとか言うのもあるが、俺はボケるほど長生きするつもりはないので、この際全く問題ない。
以前ふと思い立って、屋敷で飼ってみようと言ったことがあるのだが、うちの大天使に拒絶されてしまった。狸の契約精霊もいるのに、一匹増えたところで変わるもんでもないと思うんだけどなあ。残念だったので、そこにいたおとぼけ狸をわしゃわしゃと撫でたら、ぺしっと手をはたかれてしまった。
そして一言、
「ボクの毛並みが崩れちゃうよ」
それは失礼つかまつった。こいつの毛並みは一級品だ。触ったら一瞬で虜になる。そういえば契約して最初に撫でたときも、同じことを言われた気がするな。
そんなわけでもうしばらくこいつを撫でていたいので、怒られないように今度はペンを置いてから撫でることにしよう。
#2
「って感じでどうだろう?」
「字数的には大丈夫そうですね。ただ、もう少しあなたらしい内容を書いてみてもいいかもしれませんよ?」
下書きを横で見ていたラザムが、そんなことを言ってきた。俺らしいこと、とは、なかなか難しいことを注文してくる。
「そうですね、魔法使いの日々を、こう、つらつらっと」
「それができたら苦労してない」
俺にとって、魔法のある生活はもはや当たり前のものだ。
人間、歩ける走れる考えられることを、何も特別なことと思っていないだろう。俺にとって、魔法とはそんなものだ。でなければ、暇つぶしに屋敷など建ててはいない。
「うーん、結構いい考えだと思ったんですが……」
そうやって目の前で落ち込むのはやめてくれ、こっちが悲しくなる。
しかし、これは本当にどうしたものか。
「まあ、一度その線で書いてみるか」
ラザムが、にこりと微笑んだ。
#3
思えば、始まりはかなり慌ただしかったと思う。
読んでいる小説がアニメ化され、オンライン配信されたそれを見ていたところ、俺はいきなり、なんかよくわからない空間に飛ばされた。
ふわふわとした無重力感。プールの中で水圧を消すことができたなら、きっとあんな感覚を得られるのだと思う。
単色の色調定まらないもやが、どこまでも続く空間。
直後現れたちっちゃい天使たちの手によって、俺はまた別の空間に放り込まれた。
そこにいたのは、ぽよんぽよんとした腹の、尊大な顔の風船魔人。
魔王様とか言われていたが、俺にとってそいつは魔人だ。風船みたいに丸っこい体をしているので、風船魔人である。間違っても、魔神という顔ではなかった。
どうやらあれは、人間ではないらしい。神になり損ねたなにか、というのが、正直な印象だった。
喋り方は、それはそれは顔に負けない尊大なやつだ。
名前を確かめられたときは、正気を疑ってやったさ。だって、知ってて呼びつけたんだろ?あいつ多分、首はね飛ばしても死なないぜ。魔法使いの直感。
なんだかんだ、結局魔力使用者の立場にあずかって、本来の形とは少々異なるようだが、魔術魔法を行使するようになった。
触手だか蔓だか分からないが手を増やすことができるようになり、火と電気を手の上で発生させる。これが、最初に覚えた魔術だった。今でこそそれがなんだと思うんだが、できたときは結構楽しかった──と思う。その後は高所恐怖症のくせに飛行魔術を覚えるだとか、原子の構造を書き換える魔術だとかを習得し、結果、暇つぶしが高じて仮想空間に屋敷が建った。最初は天使の休息場として建てたはずなんだけどね。
ちなみにこの屋敷、三十二部屋をあるのだが、うち十部屋は魔法実験の影響で爆破され、現在使用不可能になっている。春休みに修繕しようか。
秋には異世界に出かけて精霊と契約を結んだ。このとき契約を交わした精霊の一匹が、今俺の隣に寝転がっている狸の見た目をした大精霊。とてもそうは見えないが、これで集落一の実力を持つのだそうだ。人間でなくとも、見かけによらないということらしい。
その後はこたつを壊して魔法的に修理改造したり、雨の中傘もささずに買い物に出たり、多分平均とは微妙にずれた生活を続けている。
そしてそう、忘がたいのが、幽霊と雪女の姉妹だ。雨のなか傘もささずに買い物に、と書いたが、年末のある日、夕方に出かけたところ、一人の幽霊少女に出会った。あれやこれや、いろいろと未練を残して死んでしまったということだが、変なお坊さん方に狙われているというので、助けてやることにした。今は仮想空間の屋敷に匿って、ときどき一緒に散歩をしたり勉強を教えたりしている。
姉の雪女とはその日のうちに出会った。屋敷に向かう途中で誘拐犯に間違われたので訂正しつつ、なんだかんだと言ううちに契約を結び、こちらは毎日襲撃を繰り返される日々だ。彼女が俺に勝てたことは、まだ一度もない。
#4
「これは没だな」
ペンを置き、俺は即座に呟いた。
「文章が頭悪い。何だこの気持ちの悪い……」
「うーん、そうでしょうか。細かいところを割愛したからかと思いますが、それを含めると、確かにちょっと字数オーバーしちゃいますね」
難しいものだ。これ、何を書いたらいいんだ?
「なにか実体験を元に、脚色を加えて創作してみるとか」
「やったことあるが、ネットに出したら評価は散々だったぞ。もう二度とやらないからな」
「難しいものなんですねー、文章を書くのって」
「長編小説がいかに苦労の末に書かれたものなのか、よく分かった」
やっぱり無理かもしれない。クラスメイトたちが喚くのも、道理というものだ。
実は以前にも細川目線の一人称を書いたんですが、#2以上の頭悪い文が出来上がったので、没です。ちなみに最初は、それを文集に出そうとしてました。字数オーバー。
#1は実際に書こうと思ってた文です。私が実際に提出したのは番外編一話なんですが、結局創作やってたのは私だけでしたね。