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第五魔王 リューキの思惑

「まさか。そんなことがありえるんですか?」


 少年魔王を見ながらリューキが呟く。


「ありえるんじゃ。魔王様はどんどん強くなるぞい」


 リューキの隣でシーワクが頷きながら少年魔王を見る。


「生み出した配下の能力を自分も得ることができるだなんて……私の能力も得たということですか……」


「左様。それにワシの能力も得ているから、モンスターの知識も手に入れておる。まさに魔王と呼ぶにふさわしいお力よ」


 シーワクの言葉を聞いたリューキは、生まれて初めて自分よりも強くなれる可能性があるモンスターに出会ったことを知り、不思議な感情が湧き上がってきていた。



「私のこの気持ちは何なのでしょうか……自分の全力を知りたいという気持ちと更なる高みに登りたいという気持ち、そして成長した魔王が見てみたいとも思っています」


「己の自己顕示欲と、母性のような感情が混ざっておるのじゃろうな」


 ボソリと言ったシーワクの言葉がリューキの耳に届いたのかどうかはわからなかった。


 リューキが反応する前に少年魔王が来たからだ。


「ねぇシーワク。みんなで話してたんだけど、この世界の歴史に詳しいモンスターっていないかな?」


 この言葉にリューキが反応した。


「魔王。貴方はまさか自分の能力の本質に気が付いていないのですか?」


「どうやらそのようじゃの。魔王様。あなた様の力の本質は生み出した配下の能力も得られることです」


 ペコリとシーワクがお辞儀をする。


「えと。どういうこと?」


「つまり、私の力や特性が貴方にも使えるということです。シーワクさんの特性は魔物の知識です。その特性を魔王も得ているので、呼び出す配下を自分で選べるはずです」


 やや早口でリューキが説明するが、少年魔王は戸惑った顔をするだけだった。


「でも僕、全然モンスターの知識得られてないけど?」


「どうやら魔王様は、リューキと戦った時に発揮したお力同様に、まだご自身のお力に無自覚なのかもしれませんのぅ。これからゆっくりと目覚めるのかもしれませぬ」


 シーワクがペコリとお辞儀をする。


「魔王。頼みがあるのですがよろしいですか?」


 リューキが一歩少年魔王に歩み寄る。


「ここの城を破壊したという人間は全部で10人と言っていましたよね?」


「え、うん。そうだけど?」


 自分の目で見たから間違いない。と少年魔王は付け足しながら頷く。


「男女10人組でしたよね? 今からその10人を倒してまいりますので、ガーランドさんをお借りしてもよろしいでしょうか?」


 そう言うなりリューキはスタスタとガーランドを探しに行こうとしていた。


「え、ちょちょちょっと待ってよ」


「なんですか?」


 なぜ止めるのか?


 とでも言わんばかりの不機嫌な顔でリューキが振り返る。


「僕は確かに人間と戦うって言ったけど、何もこちらから仕掛けるつもりはないよ?」


 この言葉にリューキは目を丸くした。


「何をおっしゃってるんですか? 我々に歯向かう者など全て敵でしょう。敵は抹殺するに限ります。残念ながら私には索敵能力がありません。そこだけが私の欠点とも言えるでしょう。私にも魔王のような眷属を呼び出せる力が欲しいものですよ」


 くるりと背を向けながら、やれやれと首を振りながらリューキは去っていった。


 ガーランドさーん。とガーランドを呼ぶ声だけが少年魔王の耳に残った。


 ●


 リューキは少年魔王の言うことを全く聞かなかった。


 ガーランドを無理やり連れ出して人間10人組を倒しに出ていった。


「放っておいて大丈夫ですよ。ガーランドもわざわざリューキの言うことを聞くとは思えませんし」


 アーミーが隣で微笑む。


「この世界の歴史に詳しい配下でしたな? それなら史獅がおります」


 シーワクに言われて、牙獣族獅人種の史獅を召喚した。


「俺が見聞きしたこの世界の歴史が知りたいのか?」


 他の牙獣族に比べて長い牙を剥きだしにして、吠えるように史獅が言う。


「僕が知りたいのは、野生のモンスターが人間に襲われているのかどうかだよ」


 さすがに全ての歴史を知っても何もできないと考えた少年魔王は、とりあえず今知りたいことを訊ねた。


「かつて魔王様と勇者と呼ばれた存在がこの世界の覇権をかけて争っていた。その戦いは熾烈を極め、世界の4分の3を滅ぼしたと言われている」


「さすがは大魔王様。星の形すら変えてしまうとは素晴らしいお力です」


 史獅の言葉を聞いてなぜかアーミーは誇らしげだった。


「当然、大魔王様が勝ったのですよね?」


 さも当たり前かのようにアーミーが史獅に詰め寄る。


 しかし史獅は首を横に振った。


「いや。決着はつかず、お互いに命を落としたと言い伝えられている」


「そんなバカな! 大魔王様と引き分ける者がいるなんて! しかも人間だと言うんですか?」


 史獅の言葉を聞いたアーミーが絶句する。


「勇者と呼ばれた存在は、仲間を強化できる力や見た魔法を習得する力を持っていたと聞く。世界の4分の3を滅ぼした魔王様と勇者と呼ばれた存在の戦いは終結したが、多くの人間は生き残った。魔王様が死んだと考えた人間は、残るモンスターの残党狩りを始めた」


「それじゃあ今も野生のモンスターは襲われているってこと?」


「残念ながら。残党狩りの名残で襲われている」


 少年魔王の問いに史獅がかなしそうに頷く。


「それならば僕は野生のモンスターを救出したい」


「さすがは大魔王様です。素晴らしいお考えです。それではまずこの城を更に強化して、ここを拠点にして世界各地へ大魔王様の領土を拡大するのがよろしいかと」


 アーミーはまるで神様か何かを見ているかのような、尊敬の眼差しで少年魔王を見た。


「ワシもそれがよろしいかと思いますじゃ。いくら魔王様とリューキが強いと言っても他の者は戦闘向きの配下ではないですし、人間に追われているモンスターを守ることもできないじゃろう」


 シーワクもアーミーの意見に賛成のようだ。


「わかった。今日はもう僕の力を3回使っちゃったから、明日罠関連のモンスターを呼び出そう。他にはどんなモンスターがいいかな?」


「ワシは地形を自在に変化させられる配下が必要だと思いますじゃ。そうすれば、この周辺の地形を変化させて攻めにくくさせられますじゃ」



「私は索敵能力に優れた配下が必要かと考えます。攻めてくる敵を見つけるだけでなく、こちらから人間の領土へ攻める時にも有利かと」


 こうして少年魔王は翌朝に、新たな3体のモンスターを呼びだした。


 ●


 鋼鉄族鉄人種のプラーは、罠製作係に任命した。


 虫人族蜘蛛人種の土蜘蛛は地変係に、牙獣族犬人種のジャージャーは追跡長に任命した。


 ジャージャーは、人間狩りから戻ってきてなんの成果もあげられなかったリューキに早速連れて行かれてしまった。


「おや。犬人ですか。これでやっと人間を狩れますね」


 などと言いながらジャージャーを無理やり引っ張って行った。


「リューキはとりあえず放っておくとして、この城を攻めにくくするには、周囲を山で囲むべきだと思うんだけど、できる?」


 土蜘蛛に訊ねると、こんなのは何でもないという具合に、城の西側と南北に巨大な山を作り出した。


 これで魔王城に攻め込むには東側の森から侵入するしかなくなった。


「考えてたんだけど、城の中も罠だらけにして、僕たちはその城の最上階で生活をするようにしたらどうだろう?」


「さすがは大魔王様です。生産拠点や畑を敵に攻撃されないように、これらも城の中にしちゃいましょう!」


 アーミーが目を輝かせる。


「城には、俺たちモンスターだけが使える移動方法を用いれば、人間が万が一攻めてきても突然最上階に来ることはなくなるな」


 話を聞いてガーランドもやる気を出していた。


 ガーランドによって魔王城は今や2階建て畳8畳の城が作られていた。


「まずは1階部分を罠だらけにしよう」


 プラーがどんな罠がいいかを訊ねる。


 今現在の2階部分を居住スペースとするため、今後はこの2階と1階の間、もしくは1階と地面の間に城を建設するようになる。


「はいはいは~い! キラリは迷路がいいで~す!」


 というキラリの発言で、1階部分は迷路になった。


「迷路の中に色んな罠を仕掛ければ一石二鳥ですね」


 アーミーもキラリの提案に賛成のようだ。


 そもそも、上に繋がる階段や正解の道を作る必要などないのだが、それではつまらない。という何の成果も未だあげられていないリューキによる発言で、仕方なく上階まで正解の道と階段を作ることにした。


 しかしガーランドがこっそりと、階段はいざとなれば破壊できると教えてくれた。


 ここで、人間狩りをしているのに成果があがっていないリューキが珍しく不満を口にした。


「人間は姑息ですね。私が近づくと隠れているようです」


 人間が見つからなくてよほどイライラしているようだ。


「なんでそんなに人間を倒したいの?」


 少年魔王は、攻めてくる人間に対して罠を張る方が性格にあっており、自分から人間を狩ろうとする気持ちがない。


「まず第1に、舐められたままのが許せません」


 人差し指を立ててリューキが少年魔王の質問に答える。


「次に暇つぶしです」


 中指を立てて更にリューキが言う。


「そして最大の理由が私の闘争本能を満たしたいからです」


 ギロリと少年魔王を睨む。


「またその目!」


 アーミーが即座に少年魔王とリューキの間に立ちはだかる。


 他の者もすかさず少年魔王を守るように動く。 


 その様子を見てリューキが笑う。


「安心してください。今はまだ戦うつもりはありませんよ」


「今はって、いずれは戦うみたいな言い方はおよしなさい!」


 いつになく激しい口調でアーミーが怒る。


「仕方がありませんね。私の力を少しお見せすれば貴女が敬愛する魔王の力がお分かりになりますか?」


 リューキが首を振りながら言うが、その意味がアーミーには理解できなかった。


「どうやら僕は、リューキの力を受け継いでいるらしいんだ。だけど今の僕はまだその力の全てを引き出せないらしい。たぶんリューキは、僕が全力で戦えるようになった時に僕と全力で戦いたいんじゃないかな」


「さすがは魔王。今の私の興味は、魔王の強さ、そして私自身がどれほど強いのか。それのみです。他のはただの暇つぶしです」


 まだ理解していない他の者にシーワクが少年魔王の力の説明をしている間、少年魔王がリューキに忠告をする。


「僕へ攻撃を仕掛けるのはまだ許せるとしても、僕の仲間に敵意を向けることは許さん」


 前回同様に有無を言わさない物言いに、さすがのリューキも片膝をつく。


「は。申し訳ありません」


『……? この私が素直に言うことを聞いただと?』


 この有無を言わさない物言いに、リューキは戦慄を覚えた。


 感情によって天候を操る力で、少年魔王は雷をも呼んでいた。


 その雷が、跪いたリューキの目の前に落ちて地面を抉った。


「次はないぞ」


 実際には少年魔王はそんな言葉は口にしていないが、そう言われているようにリューキは感じた。


『これほどの力を持っているというのに、それが全て無意識でしか出せないというのですか?』


 少年魔王の強さに尊敬の念を抱きながらも、その強さを自在に引き出せない弱さをリューキは残念がる。


 ここでリューキに一つの案が浮かぶ。


「では魔王。私が人間を狩るのを手伝ってくれませんか?」


 どうせ、城が完成するまでやることもなさそうですし。と強引にリューキは少年魔王とアーミーとキラリとジャージャーを連れて行ってしまった。


 ●


 リューキによって連れてこられた場所は、前回水を求めて向かった森だった。


「さぁジャージャーさん。貴方の力を魔王に見せつける時ですよ?」


 リューキに言われたジャージャーは困惑顔で少年魔王を見る。


 少年魔王は首を振りながらリューキのお遊びにつき合うことにした。


「仕方ないね。そのかわり僕たちの仲間であるモンスターを攻撃している人間だけだよ。無害の人間を襲ったら許さないから」


 と条件を加えて、モンスター狩りをしている人間を探すことにした。


 数分森を散策していると、ジャージャーが人間の匂いに反応した。


 同時に人間の声がする。


「待てー!」


 突如、少年魔王たちの目の前に現れたのは、1匹の狼人種だった。


 よく見ると、片足がとらばさみに引っかかり大けがをしている。


「キラリ!」


 すかさず少年魔王が声をかけて、キラリに治療を促す。


 キラリは、は。と短く返事をすると狼人種に近づいた。


「人間は私が相手をしましょう」


 モンスターを追ってやって来た人間は3人だった。


「おい、ラッキーだな」


 1人の男が隣の男に言うと、男も頷いた。


「あぁ。暇つぶしにモンスター狩りしてたら、まさか魔王に出くわすとはな」


 3人がそれぞれに、刀に剣、槍を構えてリューキと対峙した。


「私を前にそんな程度の低い武器でいいんですか?」


 リューキがにやりと笑い、少年魔王にこの3人は殺してしまっても構わないか、念のための確認をした。


「モンスターを倒すことを生きがいにしているような、どうしようもない連中だ。生きてる価値ないだろ」


 怒りでいつもの優しい口調ではなく、厳しい言い方で少年魔王が答える。


 少年魔王とリューキのやり取りを聞いていた3人の人間は、この言葉にカチンときたのかリューキに向かって一斉に襲い掛かった。


 しかし――


 所詮は雑魚の人間。リューキの相手にはならなかった。


 追われていた狼人種のタキの話しによると、この近くに狼人種の集落があるらしい。


「しかし集落が人間に発見されてから、何日も何日も人間たちに襲撃されているんです。魔王様が復活したなんて知らなかったですし……」


 タキが申し訳なさそうにしているのは、少年魔王が復活してすぐに駆け付けなかったからだろう。


「大丈夫ですよ。大魔王様はそんなことで咎めるお方ではありません。大魔王様、どうでしょうか? その集落を我々で助けませんか?」


 というアーミーの提案を受け入れて、狼人種の集落を人間の脅威から救出することにした。


 狼人種の集落は、想像以上に荒らされていた。


「変ですね。狼人種は決して弱い種族ではないはずですが?」


 集落の様子を見てリューキが首を傾げる。


「人民解放軍とかいう人間の集団がいるんですが、戦いのエキスパートみたいなやつらなんです」


 タキが体を振るえさせながら言う。


 よく見れば集落には目に見える限りでも、とらばさみなどの罠があり、家々は焼かれていた。


「これは……酷すぎますね……」


 集落の様子を見てアーミーが怒りを露にする。


「アーミー、キラリ、ジャージャー。けがしてる者を一か所に集めて治療をしろ。リューキ、この集落は今この時を持って魔王軍の領土とする。この地に攻めてくる人間どもは容赦なく殺せ。お前は暫くこの地に滞在しろ」


 怒りの口調で、有無を言わさず少年魔王がそれぞれに指示を出す。


 こうして少年魔王たちは暫くこの集落を復興させることにした。


 何度か人間たちが襲撃にきたが、全てリューキが返り討ちにした。


 少年魔王は魔王城に戻って土蜘蛛を呼び寄せ、集落から魔王城まで安全に行き来ができるように、街道の整備もさせた。


 魔王城は数日でそれなりの大きさになっていた。


 1階部分の迷宮は、魔王軍モンスターのみが壁をすり抜けられる仕様になっており、生産拠点はそれら壁に囲まれるように設置された。


 これによって、城建設に必要な鉄や石材、田畑などを人間に荒らされる心配はなくなっていた。


 1階部分の迷宮の広さは、畳24畳分にまで広がっていた。


 2階部分は畳4畳分の広さしかなく、その上の3階部分が全員の居住エリアとなっている。


 2階部分を何にするかは、まだ決めていないので、とりあえず1階の迷宮エリアを広めているようだ。


 こうして、魔王城の建設が進み、更に狼人種の集落を魔王軍の領土としたことはたちまち人間たちにも知られることとなった。


 そして、勇者チーム、人民解放軍チームそれぞれが、魔王を討伐すべく遠征チームを作り始めたのだった。

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