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【短編】無自覚にデレ強めで張り合っているツンデレ幼馴染とクーデレ生徒会長が修羅場すぎる件について

作者: 月並瑠花

「べ、別に叶のことは好きじゃないわ! この位置が気に入ってたからいるだけ、そうよ! ここが気に入ったの!」

「ふーん、そうですか。でも、叶くんが好きじゃないならいいでしょう? さっさと『私たち』の前から消えてくれません?」


 目の前で二人の美少女が口喧嘩をしている。今となっては朝の恒例行事だ。

 この喧嘩の原因である男――静月叶はクラスメイトからの嫉妬と羨望、そして殺意に満ちた視線を一斉に受ける。今となっては慣れた視線だ。痛くも痒くもない。

 さておき。叶は眠たい目を擦りながら、もう少しで始まる授業の準備を始める。


 そんな叶を横目に、二人の美少女の言い合いはさらにヒートアップする。


「す、好きじゃないけど会長よりは叶のことを好きな自信あるよ! 小春の方が叶といた時間は長いんだから」


 そう本心を漏らすのは右側に立つ茶髪のショートヘアをした美少女。叶とは幼稚園から一緒にいる幼馴染――茜屋小春だ。

 天真爛漫の四文字が似合う元気な性格で、男子とも引けを取らない運動神経の良さ。その上、駅前を歩けば芸能界の人間からスカウトされ、学校中の男子生徒からはアイドルのような扱いを受ける美少女っぷり。どんな人間に対しても社交的に話すその性格は、叶とは真逆と言えよう。

 そんな小春の言葉に――


「会長よりは、ですか。私の何を知ってそう言ってるのかは分かりませんが、私もあなたに負けている気は一切しませんよ?」


 もう一方の美少女。銀髪のロングヘアを揺らしながら、一年生にして生徒会長――久我一華が眉を顰めて反論した。ヒートアップしているせいか、無自覚にこちらも小春と同じように秘めていた本心が少しだけ漏れてしまっている。

 一華の母親はロシア人だ。そのため髪は銀色。毒舌な性格とも相まって、最初は近寄りがたいオーラを漂わせていたが、生徒会長になった今では小春と並んで学内屈指の人気を誇っている。小春がアイドルなら、一華はマドンナ。そんな感じのイメージだ。


「――なぁ二人とも、もしかして俺のことが好きなのか?」


「なわけないでしょ!!」

「誰があなたみたいな凡人を」


「ですよねー……」


 あー、軽くショック。

 ここまで見事な否定を即答でされると、現実主義者の叶でもかなりのダメージを受ける。


(あはは……やたら俺に絡んでくるけど、別に美少女二人が自分のために争っているわけではないよな。どこのラノベ主人公だよ……)


 二人の少女が無自覚にデレを見せても、叶には届かない。それよりも、そんなわけないよな、とさらに現実を見る。

 これは、そんな不器用な二人の恋する少女と、理想を夢見ない現実主義者の物語。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 Side:久我一華


 放課後。

 生徒会役員ではないが、叶は一華の仕事を手伝いに生徒会室に来ていた。

 仕事が一段落終わったらしく、一華の提案により二人は休憩に入った。



「叶くん、お茶はいるかしら」

「あぁ、ほしい。できれば冷たいやつ」

「わがままな人ね。仕方ないわ。あくまで仕方なく、あなたみたいな凡人にこの私がお茶を用意してあげるの。わかった?」

「おい待て、お前がお茶をいるのか訊いてきたんだよな?」


 溜まった疲れで天を仰いでいた叶だったが、その酷い言われように、思わず一華の方へ振り返ってツッコミを入れた。

 一華はふふ、と小さく笑ったあと、お茶の用意を始めた。


 叶が生徒会の手伝いをするようになったのは今からおおよそ三ヶ月くらい前からだ。

 普段は通らない廊下を歩いていると、床に広がった書類を焦りながら拾い集める久我一華に出会った。拾うのを手伝い、終わると一華は少し恥ずかしそうに礼を言ってすぐに立ち去った。だが、その日を境に一華からの頼まれ事も増え、話す機会も増えた。気付けば一華は生徒会長にまで上り詰め、今では学校のマドンナとして人気者となった。おかげで叶は男子生徒から嫉妬と羨望で溢れた注目を浴びている。


「はい、冷たいお茶よ。手伝ってくれたお礼に、昨晩作ったマカロンもあげる。別にあなたのために作ったわけじゃないから誤解ないよう」

「あぁ、考えてすらなかったっての――って、このマカロンめっちゃうまいな。店で食べるやつより普通にうまい」

「ほ、ほんと!? う、嬉し……くないけどね、別に。あなたに褒められようが、そこらへんの雑草に触れられた程度ね」

「それはそれで傷つくんだが!? 俺は雑草以下ってことか……」


 思わず頬が緩み切ってしまう一華。そんな一華に気が付くことなく、軽く心に傷を負った叶は皿に乗った残りのマカロンを無言で食べ進める。


「そうだ。叶くん、ここで一つゲームをしましょう」

「俺は別にいいけど。生徒会の仕事は大丈夫なのか? 今日中に終わらせろって長谷が言ってただろ?」

「今日の仕事は全部終わっ――大丈夫です。今日はあなたもいるのですぐに終わりますよ。それよりゲームを」


(え、今終わったって言いかけなかったかこの子?)


「愛してるゲームって知っていますか?」

「あー、なんか聞いたことあるな。愛してるって言い合うやつだろ?」

「へー、あなたみたいな彼女いない歴=年齢、みたいな方も知っているんですね。それなら話は早いです」

「今のネット舐めんな!」


 なんて会話をしつつ、一華は叶の正面に座布団を置き、そこに膝を下ろした。

 そのあと、二人はまるでカップルのように見つめ合った。


「さ、さすがに恥ずかしいんだが」

「負けたら勝った方の好きなところを三つ言うってことにしましょうか。万が一にも、私が負けることはないですから」

「ふん、どうかな」


 ………………。


 …………。


 ……。



 見つめ合う。

 今にも緩みそうな頬を抑えながら、一華は平然を装う。自分で提案したというのに、負ければ大恥。だが、一華にとってこの戦いは最初から勝ちの決まった勝ち戦のようなもの。

 無条件に愛してるを言い合う、それだけで一華は勝負に勝ったも同然。


「―い……おーい、久我」

「は、はい。どうしましたか叶くん」

「どっちが先行するのかって話だよ。疲れてるならあとの仕事はやっておくから帰ってもいいぞ?」

「だ、大丈夫です。あなたに心配されるほど、私は落ちぶれていませんよ」

「さらっとヒドっ! 心配しただけなのに……」


 ふと垣間見えた叶の優しさに、またも一華の頬は緩みかける。

 見て分かる通り、優しくされるといつも以上に当たりが強くなる。これも無自覚なので仕方ない。


「では、か、叶くんからお願いします」

「お、おう。……あ、愛してる」

「名前も言ってください」

「愛してるぞ、く、久我……」

「私の名前は一華ですよ。早くしてくれないと今日中に私のターンが来ませんよ」


 一華の猛攻。如何に平然を装うかがこのゲームの勝敗を握る。

 だが、現状。ただ一華が攻めているように見えるが、一華もかなりの我慢をしていた。

 今にも震えそうな声に、心なしか釣り上がっている口角、相手が叶ではなかったらもうこの時点で負けになっていてもおかしくない。


「あ、愛してるぞ、一華」

「ふへへへ……こほん、セーフですね。次私のターンです」

「いや、今完全にふへへへって言ったよな」

「勘違いも甚だしい。私があなた相手に照れるとでも?」

「た、確かに……」


 完全に照れていた、それどころかデレていた一華。だが、現実主義者の叶はその無理のある一華の言葉に納得してしまう。


「では、私の番ですね。――愛してますよ、叶くん」


 一華は照れることなくはっきりと言い切った。それがずっと言いたかった本心だからか、それは本人すらも自覚していない。

 だが、一華のその言葉に叶の鼓動は一気に早くなった。これがゲームだということは叶自身が一番理解している。だが、体はそれを理解できていない。

 まるで妖精のような、神々しさすら纏う一華の容姿。文句の付けようがない端正な顔立ちに、日本人とはかけ離れた銀色の艶かな髪。

 そして宝石のような青い瞳が顔を赤く染めた叶を映した。


「私の勝ち、ですね、叶くん。べ、別に褒められたってどうも感じませんけど、とりあえず私の好きなところを三つ、言ってください」


 叶が罰ゲームで言った三つの褒め言葉に、一華が撃沈したのは言わずもがな。

 このゲームを終えてもまだ、現実主義者の叶は一華の恋心に気付く様子はない。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 Side:茜屋小春


 とある休日。

 叶は先程までクーラー全開だった自部屋でミステリー小説を読んでいた。だが、小春からの唐突なメールによる呼び出しによって、日差しの照りつける外へと連れられていた。


「今日はどこに行くんだ、小春。俺結構忙しかったりするんだが」

「ショッピングモールに行くの。というか、どうせミステリー小説読んでただけでしょ」

「ぎく……なんでそれを」

「叶が休日に家でミステリー小説を読む以外の何をするっての。不名誉ではあるけど、叶のことはなんでも知ってるんだからね、小春」


 茜屋小春。幼稚園からずっと叶の隣にいる幼馴染だ。

 どこに行くにしても一緒。学校へ行くときも、放課後遊びに行くときも。そしてそれは今も変わらない。そんな相変わらずな小春の背中を、叶は呆れながらも黙ってついて行く。


「そ、それと言っておくけど! これはデートじゃないからね! くれぐれも誤解しないでよ」

「おう、来る前からそれは心得てるぞ。てか今更だしな、いきなりどした?」

「ふん、わかってるならいいわ」


 少し怒り口調の小春に、叶は首を傾げたがそれ以上詮索はしなかった。

 気温は優に三十度を超えている。ざっと三十度後半はいっているだろうその暑さに、引きこもり気質の叶は唸る。

 休日に、しかもこんな暑い日に。何が悲しくて外へ出なくちゃいけないんだ。なんて本心を心に留めつつ、叶は小春の後ろをのそのそと歩く。


 太陽から降り注ぐ光に手を重ね、目元に影を作る叶。

 一方の小春は自身の体より少し大きめの日傘を広げて、涼しげな顔で歩いている。


「か、叶。暑いなら特別にこの日傘の中に入ることを許可してあげる」

「え? まじ?」

「仕方なくだから! わ、私の体に触れちゃダメだからね!」

「触れねぇよ……。――これ、持つぞ」


 叶は日傘の中へと入ると、小春の小さな手から傘を受け取った。

 その躊躇ない叶の行動に、小春は赤く染まった顔を隠した。


「にゃ、にゃんでためりゃいもなきゅはいりゅの!」

「日本語か?」

「もうバカ! 叶のバカ!」

「ばか暴れんな! ただでさえ狭いんだから!」


 傍から見れば日傘の中でいちゃつくカップルだ。

 だが、そんな第三者の目を知る由もなく、二人はショッピングモールへと向けて歩を進める。


 ………………。


 …………。


 ……。



 ついたのは駅前の大きなショッピングモール。中には様々な店が立ち並んでおり、街で一番大きい商業施設ということもあり、叶や小春の通う高校の制服を来た生徒もちらほら見受けられる。

 叶の家は駅から比較的に近い場所にあるため、日用品や食材などの買い物はここで済ませている。そのため、最近で叶がここ来たのは先週だ。


「欲しいものはあるのか?」

「み、水着。去年のサイズ合わなくなったから」

「ふーん、成長したのか」

「悪い!? てか今やらしいこと考えたでしょ! ばか叶!」

「今更誰がお前の体でやらしいこと考えるんだよ、お前こそバカじゃないのかー」


 涙目の小春は無言で、呆れ顔の叶の肩を持って大きく揺らした。

 何かを訴えようとする目に、叶はそれを読み取ったのか、ため息を吐いたあと


「帰りに、チョコレートケーキを買ってやるよ……」

「ん! しゃーなし許す!」

「チョロいな……」


 大好物を買ってもらう約束をした小春は上機嫌で歩き始めた。

 鼻歌を刻みながら歩くその姿は、まるで小学生だ。



 水着売り場へやってきた二人。

 叶は相変わらず疲れたような表情をしているが、施設内は外とは比べ物にならないほど涼しいため、先程よりは心なしか顔色がいい。

 どれにしようかな、と頭を悩ませる小春の横で、家で読んでいたミステリー小説をふと思い出し、内容思い出しつつ頭の中で推理を広げていく叶。

 そんな叶に、


「ね、これ似合うと思わない?」


 フリルのついた赤色の水着を持って叶の前に来た小春は、上目遣いでそんなことを訊いてきた。自分の体にその水着を重ねて、どうかな、と色んな角度のポージングをする。

 幼馴染のフィルターがかかっていても、その可愛さは折り紙付き。実際過去にアイドルのスカウトも受けたことがあるほどだ。なぜそれを断ったのかを小春は頑なに教えてくれないため、叶はその理由を知らない。


「うん、小春にピッタリだな。結構可愛いんじゃないか?」

「か、かわいい!? じゃ、じゃあこれに……あ、あくまで小春が気に入ったから買うだけ。叶に褒められたからとかそんなんじゃないからね!」


 お世辞抜きの褒め言葉を真顔で言われ、小春は焦って照れ隠しする。別にそんなことしなくても叶には最初から伝わっていない。

「はいはい分かったから早く買ってこーい」と、そんな小春の努力を知らない叶は催促する。そこで我に返った小春は、その恥ずかしさのあまり顔を真っ赤に染め、俯きながらゆっくりレジへと向かった。


 一着目に選んだ水着を買うと思ってなかった小春は、レジから帰ってくるなり小さく「買っちゃった」とどこか寂しそうに呟いた。

 だが、


「欲しいものは買えたしな。ゲームセンターでも寄るか」


 叶の提案に、小春はすぐに笑顔を取り戻し、


「叶がどうしてもって言うなら!」


 と答えるのだった。



 そのあと行ったゲームセンターのUFOキャッチャーで手に入れたぬいぐるみに『かなくん』と名付けるのは、また別のお話。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 今日もまた、二人の美少女が朝から言い争っていた。


「小春、先週叶とデートしたもん!」

「私も先週、叶くんに愛してると言われたが?」

「ふん、小春には可愛いって言ってくれた!」

「私の作ったマカロンを美味しいと頬を緩ませていたぞ!」


 そんな二人の言い合いを聞いて、クラスメイトがひそひそと何か言っている。


「静月があの二人と付き合ってるってこと?」

「いやいや、そんなわけないだろ」

「てかそれ二股じゃねぇの?」


 それらは全て、叶の耳にも届いていた。


「ねぇ二人とも、誤解されるからその言い方はやめてくれない?」


「あ、そうだったわ。私は別に叶のことそんなに好きじゃないけどね! でも可愛いって言われたら、仕方ないけど付き合ってあげるしかないよね」


「私もそれほど好きじゃないわ。でも愛してるって本気で言われたら、生徒会長として、いえ、女としてその気持ちに答えてあげるしかないでしょう?」



「――ねぇ、君たちが何か誤解してない!?」



 二人の少女が無自覚にデレを見せても、叶には届かない。それよりも、そんなわけないよな、とさらに現実を見る。

 これは、そんな不器用な二人の恋する少女と、理想を夢見ない現実主義者の物語。



          ~完~

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