第4話
「……え? クロウ、もう一度言ってくれる?」
「これからヌマオロチを討伐してくる。と言っただけだが、どうかしたか?」
「いやいやいや」
フィーネは驚きのあまり首を何度も横に振る。
クロウが村長のところに行くと飛び出してからしばらくした後、戻ってきたクロウからそう告げてきたのだ。
確かにクロウに自身の身の上を話した。そして助けてと言ってしまった。本当ならこんな事を話す気はなかったのに、まるで言葉が漏れだすように口から吐き出されていた。意味なんかないし、関係ない彼を巻き込むような行動をしてしまった事を後悔もした。
だが彼は真面目に自分の話を聞き、そしてヌマオロチを殺すと言ってくれた。それだけでも嬉しかったのに、まさか本当に行動に移してくれるとは思わなかった。
クロウは戻ってきて直ぐに準備を始めた。ヌマオロチの信者から奪い取った短刀数本に、薪割り用の斧を2本に狩猟用の弓と矢筒。腰に武器をぶら下げたクロウは「少し心もとないが、いいか」と頷き、フィーネに顔を向ける。
「それじゃあ、行くよ」
「クロウやめて。そんな無謀な事をする意味なんてないよ」
「無謀なんて思ってない。こういった仕事をこれまでもしてきたからな」
「ヌマオロチは本当に恐ろしい怪物なの。かつて冒険者が何度か来て討伐を試みたけど失敗で終わっている」
「俺は失敗しない」
「でも…!」
「くどい」
なおもクロウを止めようとするフィーネにクロウは強い口調で制止する。思わずは言葉を飲み込むフィーネ。
「フィーネ、お前はひとつ勘違いしている。俺は、アヤカシを殺す事が仕事だったんだ。これまでもそしてこれからもそれは変わらない。自分より強いアヤカシも何度も戦ったよ。そして勝ち続けてきた。どんな手を使ってでもな。俺にとって、アヤカシを殺す事に理由付けは必要ない。お前を助けたいからヌマオロチを殺しに行くんじゃない。俺は俺の為に殺しに行くのだ」
だから、お前が俺を心配するのはお門違いだ。クロウはそう言うと、フィーネに笑みを向ける。
「安心しろ。俺は負けない、絶対に」
「………」
フィーネは言葉が出てこなかった。
そして何か確信めいた予感を抱いた。彼は私を助けてくれる。それ以上に何かを成し遂げる存在に成り得るだろうと。