第三話② 嵐の前の静けさ
彼女の現状を聞き、クロウはまず村の長の元に向かうことにした。
村の人間は遠巻きに見ていた男がフィーネの家から遂に出てきたことに戸惑い、どうするべきかをヒソヒソと話している。
クロウはそれを気にせず、フィーネに教えてもらった村長の家に向かって歩く。
「失礼」
後ろから呼び止めるような声がした。
クロウが振り向くと黒いローブを纏った集団がいた。数は5人ほど。しかし全員敵意をこちらに向けている。
「…何かようか」
「あぁ、とても大切な話があるのだ。私はこの村でヌマカミ様の御使いをさせていただいているタイダという」
よろしく。と軽く一礼をした後、タイダはギロリとクロウを睨みつける。
「さて、贄に拾われたよそ者よ。君はいつまでこの村にいるのかね? 贄の願いで君を追い出しはしなかったが、こうまで元気になったのだ、いい加減この村から出て行ってくれないか?」
「……」
「迷惑なんだよ」
周りの取り巻きの一人が口を開く。他の取り巻き達も口々に「そうだ!」「いい加減にしろ!」と怒声を上げる。
「なにが迷惑なんだ」
「当然、あの贄にちょっかいをかけて彼女の心を揺さぶっているだろう? 我々は常に贄の状況を監視している。隠し立ては無理だよ」
彼女には贄としての迷いを持ってほしくないのだよ。と、ため息を吐くタイダにクロウは眉をしかめる。
「さっきから聞いてて思ったのだが、何故ふぃいねの名を呼んでやらない」
「贄になる者に名など不要でしょう」
「そうか、失せろ」
言葉を切り、クロウは本来の目的である村長の家に向かうため踵を返す。
「おっと、村長にあってどうするのかね? まさか彼に贄の命を助けるように直談判にでも行くのかな? 無駄だよ、彼もヌマカミ様を恐れている。この村では御使いたる我らに逆らえない」
「なら殺す」
「…なんだって?」
サラリと言ったクロウの言葉に思わずタイダが聞き返す。
「そのお前たちを縛り付けているヌマオロチとかいうアヤカシは俺が殺す。そうすればこんなバカげた行事が終わるだろ?」
その前に村長にはそのアヤカシを殺すという事を伝えにきた。と言うクロウにタイダは先ほどまでの落ち着きを失ったように身体を震わせて怒りの表情を向けた。
「ふざけるな! なっ何という罰当たりな事をいうのだこの浮浪者が!」
「罰当たり? アヤカシに媚びうるお前たちと一緒じゃないのなら万々歳だ」
それにと言葉をつづける。
「俺は浮浪者じゃない。アヤカシを殺すことを生業とする退魔士だ」