第2話 小さな村にて
あれから、ひと月の月日が流れた。
ここに来てからクロウは色々な事を知った。
ここはアルカナ大陸のジシャンマ国領内にあるルーフ村という小さな村であり、クロウはその近くにある森の中で倒れていたという。
自分を介抱してくれた少女、フィーネが薬草を取りに森に入った時に見つけたという。
最初は身動きできずにいたクロウだが、フィーネの治癒魔術に自身の霊力による肉体の回復力を底上げしたお陰か、今では痛みはまだあるものの戦闘に支障が出ない程度までには落ち着いていた。
「ふん!」
クロウは今フィーネの家の庭で薪を斧で割っている。世話になってからようやく恩を返せると張り切り、朝から始めてすでに割った薪は200を軽く超える。
「ご苦労様。そろそろ休憩しない?」
そこに水の入ったコップを持ってフィーネが声をかけてきた。
汗を拭いながらクロウはそのコップを受け取り、グイっと飲み干す。
「あぁ、うまい」
「朝からこんなにも働いてもらって申し訳ないわね。病み上がりだというのに」
「そんなことない。フィーネにはここまで治療してもらった。まだまだこれで返したなどと思わないでほしい」
「それにしても、驚きよ。あの大怪我がこんなにもはやく治るなんて。普通はあと2か月は寝ていないといけないのよ」
「フィーネの腕がよかったのだ」
そう言葉を返し、クロウは薪を集めて薪置き場に置く。それが終わると、クロウは村のほうに目をやる。
「そろそろ村のほうに挨拶に行こうと思うのだが、いいか?」
「……」
スッとフィーネの顔が曇る。
まただ。
フィーネは村の話になると表情が暗く沈む。そしていつもはぐらかしいつものように明るく振る舞う。
フィーネの家は村の中でも外れの方にあり、村の人間との交流が少ないというのがクロウが感じた違和感だった。
時折、フィーネの家に住人が訪れてくることもあるが、皆が皆、まるで割れ物に接するかのような態度であった。
哀れみ。憐憫を向けるかのような。
(村八分……というわけでもないのに、何故こうも避けられているのだ?)
クロウから見てもフィーネは美しい女性だ。《えるふ》とやらの種族の違いからか?とも疑ったこともあるが、村の人間の大半は耳が尖った《えるふ》であることもすでに理解している。
「フィーネ、もしよかったらそろそろ話してくれないか? 村と何かあったのか」
「あー、うん。やっぱ気づくよね」
そりゃそうか。と、寂しげに笑うフィーネ。
「正直、傷が早く治ってくれてよかったよ。もし治りが悪かったら他の村の人に頼むつもりだったから」
「そんな、どうしてだ?」
「えっとね、私さ」
一呼吸置き、フィーネは口を開く。
「もうすぐ、生贄として死ぬんだ」