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退魔の鴉  作者: 西東高
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序章 地獄門

 

 燃え盛る城内で火花を散らし戦う影が二つ。

 刀を握る二つの影は互いを逃がすまいと炎上するその空間を走り、飛び、斬りあう。


 一つは、黒衣に身を纏い、その手にある刀の刀身までもの黒い男。瞳は紅く、その輝きは内に秘めた怒りが更に朱に染め上げる。


 一つは、白装束に身を包んだ仮面の男。その仮面は鬼を模したものであり、この世に対し怒りを向けているかのようだった。


 その二人が殺しあうソコは、辺りの人の亡骸にまぎれ、悍ましい異形の存在、〈アヤカシ〉の残骸も転がっている。


 まさに地獄絵図とはこのことを表す言葉であろう。


「何故、こんな事をした? 白夜!」


 鍔迫り合いの最中、男が問う。


「何故?」


 その問いに白夜と呼ばれた仮面の男が言葉を返す。


「何故と、私に問うのか九郎よ。答えなどすでに見えているはずだろう?」


 白夜は手に持った刀の先を城の外に向ける。城下町は城と同じように燃え盛り、いたるところから叫び声が聞こえてくる。


「この国は愚かだ。新たな時代の到来と戯言を吐き、異国の侵略に目を瞑って民を堕落させる道を選んだ。そこに攘夷だ倒幕だと宣い暴れることしか能のない芥がわらわらと沸いてくる始末。かつての国の誇りはもうどこにもない」


 白夜の仮面の下から怨嗟の言葉が止まることなく溢れ出る。


「我々が八咫烏としてこの国を守護してきて六百年の時間が無駄になってしまったのだ。アヤカシから愚民共を守り、戦った我らの歴史がだ!」


「……その倒すべきアヤカシを操り、護るべき民を殺す貴様は何だというのだ? それこそ、歴史の否定ではないのか⁉」


 九郎と呼ばれた男も語彙が強くなる。ここに至るまでに多くの人々が死んでいく様を見てきた彼にしてみれば、どのような答えも怒りに変わってしまうのだろう。


「時代の変化を止めることなど不可能なのだ。我ら八咫烏は影よりこの国を守護するのが使命。それを忘れたというのなら、俺が断罪する!」


「出来ると思うのか? お前如きに私を殺すなど」


 壱号は愚かな奴と笑う。そこで再びぎ斬り合う。互いの攻撃を躱し、反らしながらの攻防戦。

 その攻撃の一つ一つが必殺の一撃。互いに宿る霊力を纏わした武具は躱しても僅かに相手の躰に傷をつけている。

 その最中、ズン……!と、白全体が大きく揺れる。その揺れに対して白夜は喜びの声を上げる。


「遂に、この時が……!」


「これも貴様の仕業か、白夜!」


「ああ、そうとも。見るがいい」


 壱号が剣先を天に向ける。それに呼応するように、天井は吹き飛び、赤く染まった空が広がる。アヤカシによる百鬼夜行が影響し、血染めのように広がる空。しかしそれ以上に我が目を疑うような光景に九号は驚く。


 血染めの空に巨大で異質な門が浮かんでいた。

 その門の隙間からは瘴気が溢れ出ており、その周囲だけが他よりも黒く淀んでいた。


「な…んだ、あれは?」


 その理解しきれぬ風景に愕然とす九郎。そして空に浮かぶ門を見て満足そうに頷く白夜。



「これこそ、私が追い求めていた禁呪、《地獄門》……あの門の先には、我々の世界とは別の世界、異界に繋がっている。私はその世界とこの世界を繋ぎ、この世を破壊する!」


「そんな、そんな事をする意味が分からない! お前は国を異国から守護するために動いていたのではないのか!」


「その通り!だがこの国は腐敗しきっている。蛆がわき、最早やり直すことも不可能」

 

 もはや救う価値無し。見限ったのだ。


「私はこの世を糧に、新たな世界にて神と成る!」


 ガゴン……。


 重い音が響く。地獄門がゆっくりと開きだしている。


「やめろぉ!!」


 九郎が吠え、白夜に向かい飛び掛かる。白夜は静かに、印を結び、告げる。


「地獄門」

 開門―――。


 門が開く。


 そこから溢れ出た泥のような闇が辺りを飲み込み、沈めていく。


 それは一瞬の出来事だった。


 九郎は反応する暇もなく、その闇に飲み込まる。

 全身に張り付く闇に沈み、やがて意識を失った。


 意識を失うまでの一瞬視界に入った白夜は、仮面が外れており、その顔を見ることができた。


 その顔は、嬉しそうに歪んでいた。


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「…ねーちゃん、こっちだよ!」


 ………遠くから声が聞こえる。


 子供の声だろうか?慌てているようだ。


 体を動かそうにもピクリとも動かない。


 薄く目を開くと、自分を囲むように金色の髪をした子供と、女が心配そうにしている。


 異国人? それにしては日本語がしっかりとしている。


 血の味がする口を開き、血まみれの男、九郎はその異国人に尋ねた。


「ここは、何処だ?」



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