怪人アリス=ヒュブリス⑤
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「あ……」
アリスの残る右側の翼から、僕目がけて無数の羽根が襲い掛かってきた。
だけど。
「アハ、アハハハ……ハ……………………え?」
僕の身体が元あった場所を羽根はすり抜け、後ろの樹木へと次々と突き刺さる。
そしてアリスは、僕の姿が突然消えたことに驚きを隠せないのか、呆けた表情を浮かべていた。
「いつつ……先輩、も、もう少し優しく……」
『バカのこと言わないでよ! あとちょっとでも遅れてたら、全身羽根まみれよ!』
僕の愚痴に、先輩からお叱りの通信が入った。
「ど……どういうこと……?」
「簡単や。オマエが耕太くんに何かすることを見越して、あらかじめ準備しとった、それだけのことや」
そう。
僕はアリスと会うに当たり、先輩に頼んで予め準備していた。
◇
『ということで先輩、落とし穴を作ってください』
『ハア!? 何が『ということで』よ! いきなり何言ってるのか分からないんだけど!?』
先輩は僕の提案の意味が分からず、困惑した表情を浮かべる。
『ええと、ほら、飯綱先生……怪人イタチソードと初めて闘った時にやったじゃないですか』
『というと?』
『イタチソードの隙を作るために、中野駅のロータリーで……』
『ああ……ヴレイウィップで地面掘り進めて落とし穴作った、アレのこと?』
『はい』
先輩の言葉に、僕は強く頷く。
『それで……あの怪人アリス=ヒュブリスも罠にかけるってことかしら?』
『いえ。アリスには翼がありますから、落とし穴の意味ないですから』
そう、アリスに落とし穴なんか仕掛けたところで、空を飛ばれて終わりだからね。
『だったら何のために!?』
『もちろん、僕が落ちるためですよ』
『ハア!? 上代くんが落ちるってどういうこと!?』
先輩は僕の言っている意味が分からず、またもや困惑の表情を浮かべた。
『つまり、僕の身の危険が生じたら、先輩が作った落とし穴から避難する、ってことです』
◇
『ホントに、よくこんなこと思いつくわね……』
「ですが、そのおかげで僕はこうやって危機を脱しましたし、こよみさんの足手まといにならずに済みました。本当に先輩のおかげです、ありがとうございます」
『え、あ、そ、その……ま、まあ、任せてよ』
僕が珍しく先輩を褒めたものだから、戸惑いながらも嬉しそうな先輩の声が通信越しに聞こえた。
さあ……あと、僕のすべきことは、アリスの最後をこの目で見届けること。
……それが、アリスの元彼氏として、かつてアリスを好きだった者としての義務だ。
僕はアリスに気づかれないように、校舎の陰からこよみさんとアリスの様子を覗き見る。
「……何か言い残すことはないか?」
「……ハ……アハハ……そんなもの……あるワケ、ない……でしょ……? そ……れ、より……耕太……ちゃん、と、迎えに行く、から……待っ……てて……ね……?」
正直、これ以上見ていられない。
だけど、僕は最後まで見届けなきゃ。
僕は自分の胸倉をギュ、と強く握りしめ、その最後の瞬間を目に焼き付けようとして……。
「残念ですが、それは許容いたしかねます」
「っ!? な、なんや!?」
突然つむじ風のようなものが上空から吹く。
こよみさんも、そして僕も空を見上げると、茶色の大きな翼を羽ばたかせた、全身縞模様の鳥のような女怪人が、僕達を見下ろしていた。
「ヴレイピンク=ヴァルキュリア……怪人アリス=ヒュブリスは回収させていただきます」
「ハア!? 何を言うてんのや! そんなん、できるわけあらへんやろ!」
鳥型の女怪人の宣言に、こよみさんは大声で叫ぶ。
「いいえ、あなたは受け入れるしかない。だって」
女怪人はチラリ、と僕のほうを見た。
「っ!? 耕太くん!」
「おっと、動かないでよね。動いちゃったらボクもうっかり殺しちゃうかもしれないからね?」
背中越しに、少年のような声が聞こえる。
まさか。
「やあ」
どうやら、四騎将の一人、怪人カネショウが僕の背後にいるみたいだ……。
「オ、オマエ等あああああああ!」
「安心してください。アリス=ヒュブリスさえ回収できれば、あなた達に危害は加えませんよ」
「ま、ボクはひょっとしたら、うっかり殺しちゃうかも?」
叫ぶこよみさんに、女怪人は冷静さを崩さず、ただ条件を提示する。
ただし、僕の後ろにいるカネショウは、そんなつもりはなさそうだけど。
「カネショウ」
「……チッ、分かったよ……」
女怪人が窘めると、渋々と言った様子でカネショウが引き下がる。
「さて……それでは、アリス=ヒュブリスを回収いたします。ごきげんよう」
「っ!? ま、待たんかい!」
女怪人が羽ばたき、先程よりも大きなつむじ風が巻き起こり、僕は思わず目を瞑る。
風が治まり、僕が目を開けた時には、女怪人とカネショウ、そして……アリスの姿はなかった。
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次話は明日の夜投稿予定です!
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