怪人アリス=ヒュブリス④
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怪人アリス=ヒュブリスの襲撃から三日後の昼前。
少し早いけど、僕は約束通り、大学の中庭のベンチに腰掛ける。
大好きな、こよみさんと一緒に。
「耕太くん……ウチが、ウチが耕太くんを護るからね?」
「はい……」
僕はこよみさんの手をギュ、と握る。
大丈夫……今日のために、僕もできる限りの準備をしてきたんだから。
ホント先輩、お願いしますよ?
その時、僕達の上空を影が覆い、翼の羽ばたく音が聞こえた。
……来た。
怪人アリス=ヒュブリスが、中庭の真ん中にゆっくりと降り立つと、僕達のほうへ歩み寄って来る。
「……ねえ耕太、その女はダレ?」
アリスが口を開き、最初に出てきた言葉はそれだった。
嫉妬でもしているんだろうか。
「彼女は桃原こよみさん……僕の、世界一大好きな女性だよ」
「っ! ……へえ、私はてっきり、例のヴレイピンクがアンタの彼女なのかと思ってたけど」
アリスは一瞬息を飲んだ後、ねめつけるような視線でこよみさんを見た。
「ウチは桃原こよみ……耕太くんの彼女で、そして……“ヴレイピンク=ヴァルキュリア”」
「……そういうこと」
こよみさんが自分の正体を告げると、アリスは静かに目を瞑った。
「アリス……もう僕の隣にはこよみさんがいる。そして、僕の隣はこよみさん以外、受け入れることはないし、受け入れるつもりはないんだ。だから……」
僕はこよみさんの手を強く握る。
「……ふうん、それで?」
「それで……って?」
「だって、その女……ヴレイピンクがいなくなれば、耕太の隣に空きができるじゃない!」
そう言うや否や、アリスはこよみさん目がけて突進する。
けど。
「変身!」
「っ!?」
素早くヴレイウォッチのダイヤルを回して変身したこよみさんは、“アイギスシールド”でアリスを受け止めた。
「チッ! 相変わらず邪魔な盾ね!」
そしてこよみさんは、そのままアリスを押し込んでいく。
「ウチはヴレイピンク=ヴァルキュリア! 世界一大好きな耕太くんを護る盾、そして!」
「なっ!?」
「耕太くんを傷つけようとする者を屠る、最強の槍やああああ!」
こよみさんは地面を思いきり強く蹴ると、銃口から飛び出す弾丸のように、アリスとともに校舎の壁に激突した。
「ぐうう……!」
壁にめりこむアリス。
そしてそれを、こよみさんは仁王立ちしたまま見下ろしていた。
すると。
「アハ……ハハ……」
「?」
「アハハハハハハハ! バカじゃない! アンタみたいなチビが、この私よりも上なワケ、あるはずないじゃない! 容姿も、力も、何もかも! そして、耕太の想いも! 耕太への想いも!」
アリスの背中に生える三対の漆黒の翼が、まるで拳を握り締めるかのように変化し、こよみさんへとすさまじい勢いで殴りつける。
「ぐ……く……!」
こよみさんは“アイギスシールド”を展開し、弾幕のような重い連撃を受け止めるけど、少しずつ押し込まれている。
「ホラホラどうしたの! アンタの耕太への想いってヤツも、大したことないわねえ!」
そんな……こよみさん……!
「こよみさ―――――ん!」
僕はたまらずこよみさんの名を叫ぶ。
「……耕太くん、大丈夫や……耕太くんがウチの名を呼んでくれたさかい……ウチのことを想い続けてくれるさかい、ウチは……ウチは、誰にも負けへんのやああああ!」
こよみさんが叫ぶとともに、押し込まれていた体勢が持ち直す……いや、むしろ押し返してる!?
「ナ……ナニヨナニヨナニヨ!? これだけ殴り続けてるのに、どうして押し返せるのよ!?」
「そんなもん決まっとる! これが……これがウチの耕太くんへの想い! 耕太くんのウチへの想いや!」
完全に形勢が逆転し、こよみさんとアリスの間に隙間ができると、こよみさんは“アイギスシールド”の影で“ブリューナク”を構える。
そして。
「耕太くんは絶対に渡さへん! 耕太くんはウチの……ウチだけの耕太くんやっ! くらえ!“ブリューナク”!」
――ドオオオオオオオンンッ!!!
こよみさんが“ブリューナク”を一閃させると、凄まじい音とともにアリスの左胸を貫通し、その威力のあまり背中とその後ろの翼のうち左半分が爆散した。
「グ……ガハアッ……!?」
アリスは口から血を吐き出しすと、“ブリューナク”を滑りながら、右肩から地面へと落下した。
「……しまいや」
こよみさんは非常にも、そんなアリスにとどめとばかりに“ブリューナク”の先端を突き付ける。
「……ア、ハハ……アンタ、それ、で私に勝ったと思ってる、の……?」
「…………………………」
「ア、ンタは所詮、耕太、がいないと……何にもできない、くせ、に……!」
地面に横たわり、今にも息絶える寸前といったアリスだが、それでも視線だけでこよみさんを射殺すかのような力強さを感じた。
「……そうや、ウチは耕太くんがおらな何にもできひんし、何の価値もあれへん……せやけど、それがどうした。ウチには耕太くんがいる、耕太くんがいてくれる。それだけで、ウチはどこまでも強くなれる!」
「アハ、アハハハハ……だったら……だったらカンタン、よ、ねえっ……!」
「っ!? 耕太くんっ!」
「あ……」
アリスの残る右側の翼から、僕目がけて無数の羽根が襲い掛かってきた。
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次話は明日の夜投稿予定です!
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