僕の隣は
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「あ、そうそう。それと後から出てきたあの女怪人なんだけど、あれがお兄ちゃんの前カノなの?」
「あ、ああ、うん……」
僕は気まずいながらも、小夜の質問に首肯した。
「何ていうか……色々ぶっ壊れてたよねー。お兄ちゃん、よくあんな女と付き合ってたよね」
「…………………………」
返す言葉もない。
実際、付き合ってた時の行動も、別れたことだって、まさかアリスが僕の心を壊すためだったなんて、思ってもいなかった。
しかも、怪人になった今はそんなアリスの異常性に拍車が掛かって、挙句僕の両腕両脚を切り落としてペットにするとまで言い放ったんだから。
「それで? お兄ちゃん、三日後にあのアリスって怪人と会う約束しちゃったけど、どうするの?」
小夜は真剣な表情で、僕をジッと見つめる。
その瞳は、まるで僕を試してるかのような、そんな瞳だった。
正直な気持ちとしては、僕はアリスに会いたくなかった。
普通に考えて、僕が無事でいられる保証はないし、今さら会ったところで、アリスと話すことなんて、話したいことなんて……。
だけど……アリスが僕に放った言葉。
『ええ……今でも好きよ?』
何だよそれ……何なんだよ……!
僕は、怒りで、悔しさで、そして、そんなアリスの想いに気づけなかった情けなさで、つい拳を握り締める。
「耕太くん……」
その時、こよみさんが僕の拳の上にそっと手を置き、そして、にこり、と微笑んだ。
だけどその瞳は、不安と悲しみに満ちていることが僕には分かった。
ああ……本当に僕はバカだ。
闘いから帰って来た時のこよみさんの表情が全てを語ってたじゃないか。
もちろん、小夜に反対されるっていう不安もあっただろうけど、それ以上に、僕とアリスの関係について、こよみさんが気にならないわけがないじゃないか。
なのに僕は、自分のことばかり考えて……。
僕には、こよみさんがいるのに。
こよみさんしか、いないのに。
だから。
「うん……僕は約束通り、三日後にアリスと会うよ」
「っ! 耕太くんっ!」
僕の答えに、こよみさんが僕の名前を叫んだ。
それは、僕を絶対に行かせまいと、会わせまいと、そんな決意と懇願のこもった、そんな声。
「なんで? 会うメリットなんて何一つないし、むしろデメリットでしかないよね。でも、お兄ちゃんが会うって決めた、その理由を教えてよ。もちろん、納得できない答えだったら、私は絶対にお兄ちゃんを行かせない」
そして小夜は、ただ静かにそう言い放つ。
だけどこちらも、こよみさんと同じく決意のこもった声だった。
だから僕は答える。
「理由なんて決まっているよ。僕がこよみさんとこれから先、ずっと一緒に暮らしていくために、僕とこよみさんが幸せに過ごしていくために……織部アリスっていう過去と完全に決別するために、僕は行くんだ」
そして、僕はこよみさんの手を握る。
「……耕太、くん……?」
「もちろん行くのは僕一人じゃない。こよみさんと一緒に行く。僕の隣にはこよみさんしかいないことを示すために、僕はこよみさんの隣にしかいられないことを伝えるために」
僕はこよみさんを見つめる。
「だから……だからこよみさん、一緒に行ってくれますか?」
「っ! う、うん! もちろん、ウチも一緒に行く! 耕太くんの隣にはウチがおることを、耕太くんの隣はウチだけのもんやって伝えるために……!」
「はい……ありがとうございます……」
そう言って、一滴の涙を零したこよみさんを僕は抱き寄せた。
そして。
「小夜……これが、僕の答えだよ」
僕は小夜に答えを……決意を示した。
「……はあ、で、私は一体を何を見せられてるのかなあ?」
すると、小夜から返ってきた反応は僕の予想に反し、半分呆れが混じったような、そんな溜息とともに小夜は肩を竦め、苦笑された。
「な、何をって、そりゃあ…………………………あ」
……本当に、僕は自分の妹に何を見せてるんだろうか。
よく考えたら僕がしたのって、ただこよみさんとイチャイチャしてる姿を小夜に見せつけてるだけじゃないか!?
で、でも、だからといってこよみさんとも離れたくないし……こ、困ったぞ……。
すると、こよみさんがギュ、と僕の身体を強く抱き締めた。
「ウ、ウチは絶対、離れへんから、ね……?」
はい、もうずっとこのままでお願いします。
「あーハイハイ、分かりましたよ。とにかくお兄ちゃんはこよみお姉ちゃん一筋で、元カノにそのイチャイチャした姿を見せつけて、『ざまぁ』と言ってやりに行くわけね。うわー、ヒドイ」
小夜は棒読みの台詞でそんなことを言った。
だけど、当たってるだけに何も言い返せない。
「そ、そういうわけだから、三日後にアリスに会うよ」
「ハイハイ、好きにしたらいいんじゃない? ……だけど二人とも、ちゃんと無事に戻って来てね?」
「「うん」」
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次話は明日の夜投稿予定です!
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