怪人アリス=ヒュブリス③
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『フン』
怪人アリス=ヒュブリスは、ただ尊大に、そして傲慢に青乃さんを見下ろす。
『ねえアンタ、ヴレイピンクはどこにいるの? 言いなさいよ』
『グウッ!?』
羽根を刺され、地面に倒れる青乃さんの腹に容赦ない蹴りを入れた。
「ね、ねえお兄ちゃん、コレ……大丈夫なの……?」
さっきまで興奮して動画を見ていた小夜が、今は不安そうな表情で僕に尋ねる。
「……くっ! 青乃さん……!」
「お兄ちゃん!?」
僕はたまらずタブレットをタップし、ヴレイファイブ全員と通信をつないだ。
「ブラックさん! イエローさん! 今どこですか!?」
「ちょ!? お兄ちゃん!?」
急な行動に、隣にいる小夜が驚きの声を上げた。
だけど、僕は小夜を無視し、二人からの応答を待つ。
『……こちらブラック、もう現場には着いた、だが……アレは俺には無理だ……』
『ヒイイイイ! もう、もうイヤだあああああ! 別に好きでヒーローになったわけじゃないんだ! 俺は辞める! もうヴレイイエローなんて辞めるぞ!』
ブラックさんの震える声と、恐慌状態のイエローさんの叫び声がタブレットから聞こえる。
「ちょ、ちょっと二人とも何言ってるんですか!? 青乃さんが……青乃さんが危険なんですよ!」
『だったら……だったらオマエが助けに行けよ! いつもタブレット越しに偉そうに指示しやがって! オマエなんかに何が……!』
『やかましいわ!』
イエローさんが僕を非難しようとした時、こよみさんが叫んだ。
『ウチやブルーがピンチになった時、少なくともアンタ等より一般人の耕太くんのほうが助けに来てくれとるわ! それをなんや! アンタ等はヴレイファイブの一員とちゃうんか!』
『そうよ! ウダウダ文句言ってる暇があるんだったら、せめてあと五分、時間稼ぎしてみなさいよ!』
こよみさんと先輩が、二人に発破をかける。
だけど。
『……ピンク、勘弁してくれ……俺にはもう無理だ……』
ブラックさんが弱々しい声で、そう呟いた。
クソッ! こうなったら!
「青乃さん! 聞こえますか! 聞こえたら右手の人差し指を動かしてください!」
僕は通信をつなぎ、アリスに蹴られて身体をくの字に曲げる青乃さんに叫ぶ。
すると青乃さんは、身体はピクリとも動かないけど、人差し指だけ僕の言う通り動かしてくれた。
よし! まだ意識はある!
「青乃さん、そうしたらこの通信音声をスピーカーに切り替えてください!」
さあ……あとは僕が上手くやれるかどうか……。
「アリス……聞こえるか?」
『その声……耕太ね』
良かった、無事スピーカーはオンになっているようだ。
「ああ、そうだよ。何だい? 今回もヴレイピンク=ヴァルキュリアにやられに来たのかい?」
『アハハハハ! 耕太のくせに言うじゃない! やられるのは私じゃなくてヴレイピンクのほうよ! そしてその次は、アンタの番!』
「僕の? まさか怪人アリス=ヒュブリスとあろう者が、一般人のなんの力もない僕に闘えと?」
『いいえ? そもそもアンタが闘えるわけないじゃない。ホントバカね』
アリスはヤレヤレといわんばかりに、肩を竦めてかぶりを振った。
『アンタは、これから一生私のペットになるの! もちろん、私に口答えしないように舌を引っこ抜いて、逃げたり抵抗したりしないように、両腕両脚は切り落とすけどね! どう? 嬉しいでしょ?』
そう言うと、アリスはニタア、口の端を吊り上げる。
それは、気持ち悪く、吐き気がしそうなほど醜悪な笑顔だった。
「はあ……大体お前が僕のことを振ったんじゃないのか? なのに、なんでそうまでして僕に固執するんだ?」
「お兄ちゃん……それって……」
隣で小夜がポツリ、と呟いたが、今は無視だ。
『そんなの決まってるじゃない、アンタは私のモノなの。私だけがアンタを好きにしていいの。私だけがアンタを壊していいの』
「ふざけるなよ! 僕はお前のモノじゃない!」
『いいえ? 最初からアンタは私のモノよ? だからこそこの私が、アンタと付き合ってあげたんじゃない』
「なっ!? だったら……だったらなんで僕と別れたんだ!」
『決まってるでしょ? そのほうがアンタを壊せると思ったからよ。アンタが完全に壊れてしまえば、もう一生アンタは私のモノになれるから』
「そ、そんな……」
く、狂ってる……!
アリスは最初からそんなつもりで僕と付き合ってたなんて……。
『それよりヴレイピンクはどこなのよ? 何なら、アンタを引きずり出してメチャクチャにしてやったら出てくるのカシラ?』
そう言うと、青乃さんを背中の羽が巨大な手のように変化し、青乃さんの頭を鷲づかみにする。
「や、やめろ!」
『だったらコソコソしてないで、サッサと出てきなさいよ』
くそっ! 出ようにも、僕は今は自宅だ……。
何とか……何とかこよみさん達が到着するまで……………………そうだ!
「……だったら、こんなことしなくても、僕はお前に会ってやるよ」
『……どういうこと?』
よし! 食いついてきたぞ!
「三日後の昼十二時、大学の中庭にあるベンチの前に来いよ。場所は覚えてるだろ?」
『ええ、覚えてるわ。アンタがクソダサイ告白した場所でしょ?』
意外だった。
あのアリスが、僕が告白した時のことを覚えてただなんて。
「フン……何だ、あの時のこと、まだ覚えてたんだ。ひょっとして、まだ僕のことが好きなんじゃないのか?」
『ええ……今でも好きよ?』
僕はアリスの言葉に動揺する。
まさか……まさかまさかまさか!
アリスがまだ僕のこと好きだったなんて……!
「今さら……今さらそんなことっ!」
『なによ! そんなの、しょうがないじゃない! 私はこんなに歪んだ性格なの! 壊れてるの! そして……そして、好きな人を壊したくなるの!』
アリスが悲痛な声で叫ぶ。
そんなの……そんなのっ!
その時。
『やあああああああ!』
こよみさんが、アリス目がけて“ブリューナク”を突き出した。
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次話は本日夜投稿予定です!
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