怪人アリス=ヒュブリス②
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「ごめんごめん、なかなか生クリームが泡立たなくて……」
そう言って僕は頭を掻きながら、シフォンケーキに生クリームをたっぷり乗せてリビングに運んだ。
というか、二人とも話し込んでたから、わざとゆっくりしてたっていうのもあるんだけど。
僕も、二人には仲良くして欲しいから。
「お兄ちゃんおそーい!」
「ホンマや! 小夜ちゃんもウチもすごい待ってたよ!」
おっと、運んでくるなり二人からダメ出しを受けてしまった。
「こよみお姉ちゃん! お兄ちゃんのシフォンケーキ、本当に美味しいんだよ!」
「うんうん、ていうか、耕太くんの料理は全部美味しい!」
「そうそう! ホントお兄ちゃんはムダに女子力高いから!」
「あはは! せやね!」
うん、二人とも本当に仲良くなったみたいでよかった。
でも、仲良くなりすぎて、逆に僕の立場が……ま、まあいいか……。
僕は二人の前に二種類のシフォンケーキとたっぷりの生クリームを乗せた皿を置く。
「はわあああ……ホンマ、美味しそう……!」
「ニシシ、こよみお姉ちゃん、ホントに嬉しそうだね」
「そらもう! 耕太くんも耕太くんの料理も大好き!」
「うわあ、こよみお姉ちゃんすごく可愛いんだけど!」
うん、僕も小夜に同意見だ。
「ねえねえこよみお姉ちゃん、お兄ちゃんなんかやめて、私と付き合わない?」
「は、はわわわわ!?」
「ダメに決まってるだろ! こよみさんは僕だけのこよみさんなんだからな!」
そんなことをのたまう小夜から、僕はパニクるこよみさんを無理やり引き離した。
小夜の奴、言うに事欠いて何を言い出すんだ全く!
「……まあいい、それより早く食べよう」
僕は努めて冷静にそう切り出すと、小夜も食い気が勝ったようで、素早くフォークを持った。
「じゃあ……」
その時。
——ピピピ。
今回も予定調和とばかりに、こよみさんのスマホと僕のタブレットが同時に鳴った。
「さて……今回ばかりはしゃあない、無視しよ」
「そうですね」
「え? え? 二人とも、スマホもタブレットも鳴ってるよ? 出なくていいの?」
「「出なくていい(ええ)の」」
そうとも、さすがに小夜も来てるのに、怪人の相手をしてる暇なんて……。
——ピンポーン。
そんな……あの人は司令本部に行ってたんじゃ……!?
「……耕太くん、居留守やで」
「……もちろんです」
「え!? え!? ホントに二人ともどうしたの!?」
——ピンポンピンポンピンポン。
「あああああ! もおおおお! この鳴らし方、絶対にアイツやんか!」
「ど、どうします!? 先輩のことだから絶対……」
——ドンドン!
「二人とも! 部屋にいるのは分かってるのよ!」
……やっぱり先輩だった。
「……しゃあない、このままやったら被害が増えるだけや……とりあえずウチは行ってくるさかい、耕太くんは小夜ちゃんと待ってて」
「……はい」
こよみさんは渋々立ち上がると、トボトボと玄関へと向かう。
「ね、ねえ、こよみお姉ちゃん!? 一体どこに!?」
「あ、そ、その、仕事に……」
「仕事って?」
「え、ええと……警備関係のOLさんや!」
こよみさん、誰にでも最初はそう説明するんですね……。
「で、でも、それだったらなんでお兄ちゃんにも……」
「あああああ! 耕太くんは同じ会社のバイトなんや!」
「そうなの? お兄ちゃん」
「え!? あ、ああ、うん、そう……」
僕はたった今、警備会社のバイトになった。
「ほ、ほなウチは行ってくるさかい!」
「こよみさん!」
僕は慌てて部屋を出ようとするこよみさんを呼び止め。
「必ず帰ってきて……くださいね」
「うん……絶対帰る」
そして、部屋を出て行った。
◇
——ピコン。
「モグモグ……お兄ちゃん、スマホに通知来たみたいだよ」
「ん……ああ、いつものアレだよ」
「へえー、ホントにそうやって来るんだー」
小夜が僕のスマホ画面をまじまじと見つめる。
画面には、『怪人、渋谷駅のスクランブル交差点に出現』と表示されていた。
「ホラ、静岡にはそんな通知来たことないし」
怪人は常に首都圏でしか出現しないから、僕達の実家のある静岡では、怪人出現の速報が来ないからなあ。
「ねえねえお兄ちゃん、“ヴレイファイブ”ってどんなの?」
「ん? ニュースでも怪人との戦闘の場面が放送されてるし、政府広報のホームページでも見れるから知ってるだろ?」
「そうじゃなくって、お兄ちゃんは実物見たことあるの?」
「それは……」
うん、いつも傍で見てて、しかも一緒に暮らしてるだなんて言えない。
「ま、まあ……」
とりあえず、適当にお茶を濁すことにしよう。
「ウーン、私も一度くらい見てみたいなあ……」
いや小夜、お前もガッツリ見てるからな。
「じゃあせめて、リアルタイムでヴレイファイブが怪人と闘ってるとこ見たいんだけど」
コノヤロウ。
とはいえ、僕もこよみさんがどうなったか気になる。
「分かったよ、ちょっと待ってて」
僕は政府広報のホームページにアクセスし、動画コンテンツを開いた。
『キュキュキュ! 俺様ハダークスフィアノ怪人、“ヤリイルカ”ダアアア! コノ渋谷の街ヲ蹂躙シテヤルヨオオオオオ!』
三叉槍を持ったイルカの怪人がスクランブル交差点のど真ん中で高らかに宣言し、戦闘員が人々に襲い掛かる映像が流れる。
「チョ、チョットお兄ちゃん! これヤバイじゃん!」
「あ、ああ、そうだね」
小夜が僕の肩をつかみながら、ガクガクと揺らす。
といっても、今回は普通の怪人みたいだから、これだったら安心かな。
「ま、まあ大丈夫。ヴレイファイブが華麗に倒すと思うから……って、ちょうど到着したみたいだよ」
僕は画面の右端を指差す。
そこには、現場に駆けつけた青乃さん……ヴレイブルーの姿があった。
『待て! 怪人ヤリイルカ! 貴様はこの勇者戦隊ヴレイファイブが倒す!』
『出タナ! ヴレイファイブ! オ前達、アイツヲ叩キノメセエエエエエ!』
『『『『『ギー!』』』』』
怪人ヤリイルカの号令に、戦闘員達は次々と襲いかかる。
『来い! 貴様達は全員この俺、ヴレイブルーが倒す!』
そう叫ぶと、青乃さんは次々と戦闘員を倒していき、そして、いよいよ怪人ヤリイルカのみとなった。
「わ! わ! ヴレイブルーすごい! カッコイイ!」
「ちょ、ちょっと小夜!? 落ち着いて!?」
青乃さんの活躍に、興奮した小夜が僕の首を絞めながらブンブン振り回す。
く、苦しい……。
『さあ! 残すはキサマだけだ!』
青乃さんはヴレイブーメランを怪人ヤリイルカに突きつけ、高らかに宣言した。
『キュキュ……! オ、オノレエ……!』
おお……これ、青乃さんの一人舞台だ。
青乃さんは面倒見の良さが災いしてチャラいのに裏方が多いから、こうやって活躍してくれると素直に嬉しい。
それに、どうやらこよみさんの出番もなさそうだし、このまま無事に……。
『邪魔よ』
『キュ!? ………………………キュキュ? キ、ュ……』
突然、怪人ヤリイルカの全身に無数の白い羽根が突き刺さり、ヤリイルカはそのまま大の字になって後ろに倒れた。
『だ、誰……ガア!?』
慌てて青乃さんも振り返るが、それより早く青乃さんの背中にも羽根が突き刺さった。
『フン』
そんな鼻で笑う声とともに映し出されたのは、不機嫌そうに青乃さんを見下ろす、怪人アリス=ヒュブリスだった。
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次話は明日の朝投稿予定です!
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