妹、襲来②
ご覧いただき、ありがとうございます!
「お兄ちゃん。私、あの桃原さんとお兄ちゃんが付き合うの、反対だからね」
突然の小夜の宣言に、僕の頭の中が真っ白になる。
「ちょ!? ちょっと待てよ!? 一体こよみさんの何が反対なんだよ!」
「分からないの?」
すると小夜は、キッ、と僕を睨んだ。
「確かにあの人の第一印象は悪くないよ。だけど、お兄ちゃんがつらそうに、苦しそうにしてたの、知ってるんだよ?」
僕が……つらそう? 苦しそう?
? 本当に意味が分からないぞ?
「な、何言ってるんだよ! 僕がこよみさんと付き合って、いつつらそうにしたんだよ! そもそもお前、こよみさんのこと何一つ知ら……」
「知ってるよ!」
いや、おかしいだろ!?
僕は一度たりとも、小夜にこよみさんのことを話したことなんかないんだぞ!?
「お兄ちゃんは彼女作ってからおかしくなった! お正月に実家に帰ってきた時も疲れてる様子だったし! 目が虚ろだったし! 乾いた笑いしかしたことなかった!」
小夜は顔を真っ赤にしながら大声で叫ぶ。
「私……私……そんなお兄ちゃん見てるの、すごくつらかったんだからね……!」
そう言うと、小夜はとうとうこらえきれず、身体を震わせて涙をこぼした。
……だけど、僕は小夜に伝えなきゃいけない。
「小夜……よく聞いてほしい」
「う……ぐす……ふぐう……!」
僕は泣きじゃくる小夜の肩にポン、と手を置くと、小夜の身体がビクッとなる。
「小夜……お前が言うその彼女は……こよみさんじゃないぞ?」
「…………………………へ?」
小夜は僕の言っている意味が分からないのか、泣くことを忘れてボカン、とした表情を浮かべた。
「ええと、正月の時に付き合ってたのはこよみさんとは別の、織部アリスっていう大学の同級生だったんだけど……」
「嘘だ! お兄ちゃんは私を騙そうとして……!」
別人だと説明するけど、困ったことに小夜は全然信用してくれない。
あれえ? 正月に帰った時にアリスのこと話したと思うんだけどなあ……。
「いや、本当だって。正月の頃に付き合ってたアリスとは春に別れて、それで今はこよみさんと付き合ってるんだけど?」
「信じられない!」
うーん……小夜に全然信じてもらえない……。
アリスと付き合ってた頃の写真なんかがあれば、時系列を追って説明できただろうけど、アリスと撮ったスマホの写真とか動画、全部削除しちゃったんだよなあ……。
……まてよ?
僕はスマホを取り出し、写真や動画を投稿するSNSを立ち上げると、ログイン画面からIDとパスワードを入力する。
うん……やっぱりまだ残ってたか……。
「小夜……ほら、これ見てよ」
僕は小夜にスマホの画面を見せる。
「……これ、誰?」
スマホ画面に映し出されている僕とアリスのツーショット写真を指差しながら、小夜の視線が僕の顔とスマホ画面を行ったり来たりしている。
「……これが、こよみさんの前に付き合ってた前カノのアリス……」
そう言って、僕はガックリとうなだれた。
ハア……このSNSもアカウントごと消去しないとなあ……。
なにせ、今の僕にとっては汚点でしかない……。
「で、でも! まだお兄ちゃんの言ってることが正しいなんて……!」
「小夜……写真をアップした日付、見てみろ……」
「日付…………………………あ」
画面には、“二〇××二月十二日”と、はっきりと表示されていた。
「……これで、こよみさんじゃないって、分かっただろ?」
「…………………………ゴメン」
ふう……とりあえず、誤解が解けて良かった。
「まあ、そういうことだから、僕はこよみさんとこのまま付き合うからね?」
「…………………………ハイ」
小夜は拍子抜けしたのか、肩を落として力なく頷いた。
「まあ、理解してもらえたのはなによりだけど、こよみさん、帰ってくるの遅いなあ……」
近所のコンビニだったら、普通に考えて往復十五分もあれば帰ってこれるんだけど……って、まさか……!?
「悪い! こよみさんを迎えに行ってくるから、ちょっと待っててくれ!」
僕は小夜に一言そう告げ、慌てて靴を履いて部屋を出ようとして。
「うん……その、桃原さん……怒ってたりしないかな……」
小夜が少し落ち込んだ表情で、そんなことを呟いた。
だから。
「まさか。こよみさんは小夜のこと怒ってたりしないよ。それより、こよみさんが帰ってきたら、二人には仲良くしてほしいな。こよみさんも小夜と仲良くしたいはずだから」
そう言って、小夜の頭をポンポンと撫でてやる。
「うん……私も桃原さんと仲良くしたいし、もちろんだよ」
「そっか。じゃ、行ってくる」
「うん」
僕は部屋を出ると、近所のコンビニのルートに沿って走る。
僕は、こよみさんはコンビニには行っていないと考えている。
じゃあ、どこにこよみさんがいるかってことなんだけど、多分……。
いた。
「こよみさん……」
お読みいただき、ありがとうございました!
次話は本日夜投稿予定です!
少しでも面白い! 続きが気になる! と思っていただけたら、ブクマ、評価、感想をよろしくお願いします!




