妹、襲来①
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「あー! お兄ちゃん、久しぶり!」
妹の小夜が突然、この部屋を訪ねてきた!?
「さ、小夜!? 一体どうしたんだ!?」
「もー! 『どうしたんだ!?』じゃないよ! いつの間に住所変わってるし、最近家にも連絡なかったし、心配したんだからね!」
「や、いや……」
「言い訳無用! とにかく上がらせてもらうよ!」
「あ!? ちょ!?」
僕の制止を聞かず、小夜はズカズカと部屋の中に入っていく。
そして。
「…………………………」
「…………………………」
クルリ、と踵を返し、また僕のところへ戻ってきた。
「……………………お兄ちゃん」
「え、ええと、その……」
ああ、そういえばこよみさんのこと、まだ実家に行ってなかったな。
「……ねえお兄ちゃん、私も一緒について行く。だから……」
小夜がなぜか泣きそうな顔で、僕の服をつまむ。
「だから、警察……行こ?」
「なんで!?」
いきなり何言い出すの!?
「な、なあ……耕太くん、その……」
リビングからこよみさんが悲しそうな表情で出てきた!?
……これ、ひょっとして二人とも誤解してるぞ!?
「えー……まず小夜、こちらは桃原こよみさん。僕の世界一愛している女性で、今、僕はこよみさんと一緒に暮らしてるんだ」
「お兄ちゃん何考えてるの!?」
アレ? ちゃんと紹介したのに、なんでこんなに驚いて……あ。
「……ちなみにこよみさんは二十三歳で、僕の三つ上だから」
「ええええええええええ!?」
小夜はこよみさんに指差しながらアワアワしている。
「だ、だって! どう見たって中学生……」
「小夜」
小夜が放った一言に、僕はとてつもなく怒りを覚えた。
たとえ可愛い妹の小夜でも、言っちゃいけないことがある。
「小夜……こよみさんに謝れ」
「え、お兄……………………はい」
僕が怒っているのを感じ取ったのか、小夜はこよみさんへと向き直り。
「すいませんでしたあああああああああ!」
「はわわわわ!?」
小夜はすかさずこよみさんに土下座した。
「その、こよみさん……妹が失礼なことを言ってすいませんでした……」
「あ、いや、そんなん……って、妹さん!?」
あ、小夜の紹介がまだだったな。
「はい、コイツは小夜といって、僕の二つ下の妹なんですが……」
僕はジロリ、と小夜を睨むと、それに気づいた小夜はおでこを床にこすりつけた。
「そ、そうなん!? ちょ、ちょっとお願いやからもう土下座ヤメテ!?」
そう言って、こよみさんは小夜を抱き起こした。
「あ、ウ、ウチ、も、桃原こよみ言います……そ、その、よよ、よろしゅうお願いします!」
こよみさんはすごく緊張した様子で、小夜に深々とお辞儀をした。
「は、はい、私はお兄ちゃんの妹の小夜です……」
反対に小夜はなぜかお辞儀しているこよみさんの背中を冷たい視線で見つめる。
どうしたんだろう、小夜がこんな態度を取るなんて珍しいな……。
「ま、まあ、玄関でなんだし、とりあえずリビングに行こうよ」
「「う、うん……」」
二人は顔を見合わせると、おずおずと僕の後についてリビングへと入った。
「さて……ところで小夜、急にどうしたんだ?」
「あ、そうだった! 実は私、お兄ちゃんの大学を受験しようと思って!」
「はあ?」
え? 小夜ってうちの大学受けるの?
「なんでまた……」
「え、ええと、な、なんとなくっていうか、その……」
そう言いながら、小夜がチラリ、と僕の顔を覗き見る。
ん? 何かあるのかな?
「ま、まあそれはいいじゃん! それでホラ、早速明日にでも大学見学したいからお兄ちゃんに案内してほしいんだけど」
「ハア!?」
ええ!? かなり急なんだけど!?
「それなら前もって連絡してこいよ! いきなり言われてもコッチだって予定があるんだぞ!」
「えー、別にいいじゃん! カワイイ妹がこうやってお願いしてるんだからさあ!」
コイツ……どの口が言ってるんだ?
明日もこよみさんと一緒に過ごさなきゃいけないから、僕は忙しいんだよ。
「な、なあ耕太くん、その、せっかく妹さんが来はったんやさかい、案内くらいしたっても……」
む、むう……こよみさんに言われてしまうと……。
「いえ、桃原さん。これは私とお兄ちゃんの問題ですから心配してくれなくて結構です」
「あ……」
こよみさんが助け船を出したのに、小夜は迷惑とばかりにプイ、とそっぽを向いた。
「小夜、その態度……」
「それよりお兄ちゃん! 明日! 大学案内! よ・ろ・し・く!」
僕が小夜を叱ろうとしたところを、小夜は話を被せるように強引に詰め寄ってきた。
はあ……仕方ないなあ、もう……。
「分かったよ……全く」
「やったー!」
目の前で小夜が小躍りするけど、僕としては頭を抱えたい気分だ。
嗚呼……せっかくのこよみさんとの時間が……。
「ワーイワーイ! ……って、そういえばこの部屋に入ってからずっと気になってたんだけど、ひょっとしてお兄ちゃん、シフォンケーキ作った?」
「ん? よく分かったな」
「ニシシ、そりゃだって、子どもの頃からよく作ってもらってたからねー」
って、まだ高校生だろうに。
まあいいか。
「そ、そや……その、妹さんも一緒にシフォンケーキ食べへん? ちょうど出来上がったところやねん」
「もちろん言われなくても食べますよ」
こよみさんがそう言うと、やっぱり小夜は視線を逸らす。
はあ……僕としては仲良くしてほしいんだけど……小夜の奴、なんだっていうんだ……。
「……じゃあ準備するから、小夜は座ってて。こよみさん、手伝ってもらってもいいですか?」
「あ……うん」
僕とこよみさんはキッチンに移動すると、そっとこよみさんに耳打ちする。
「(こよみさんすいません……うちの妹が…)」
「(そ、そんなん気にせんかてええよ? そ、それより、ウチ、妹さんに悪い印象与えてしもたんやろか……)」
そう言うこよみさんは、少し悲しそうな、落ち込んだような、そんな表情をしていた。
「(大丈夫です。こよみさんに限ってそんな印象を与えることなんてあり得ません)」
「(せ、せやけど、耕太くんはそう思てくれても、妹さんはそうとは限らへんし……)」
「こよみさん」
僕は小声を止め、ハッキリとその名を告げる。
「あなたは、僕が自分の人生を賭けるほど好きになった女性です。ですから、あなたは誰が見ても、素敵な女性ですよ?」
「耕太くん……」
そうとも。
だから小夜だって、きっとこよみさんのことを気に入ってくれるはず。
僕は、そう確信している。
「……ええと、丸聞こえなんだけど」
「うわ!?」
「はわわわわ!?」
見ると、小夜が呆れ顔でキッチンを覗いていた。
しまった! つい声が大きくなってしまった!?
「……ま、いいけど」
そう言うと、小夜はプイ、とリビングに戻っていった。
だけど、何だか不機嫌そうだな……。
「あ……ウ、ウチ……ウチ、ちょっとコンビニに行ってくる」
「え!? こよみさん!?」
そう言い残し、こよみさんは部屋を出て行ってしまった。
「こよみさん……」
「ねえお兄ちゃん、ちょっと色々と聞きたいんだけど」
こよみさんがいなくなるのを見計らったかのように、小夜が僕に話し掛けてきた。
「ん? なんだ?」
「その……お兄ちゃんはあの人……桃原さんのことが好き、なの……?」
小夜は上目遣いに、おずおずと尋ねる。
だから僕は、小夜に向かって即答した。
「うん、好きだよ。僕は、こよみさんが世界一好きだ」
「っ! ……そっか……」
すると小夜は、少し悲しそうな表情を浮かべる。
そして。
「お兄ちゃん。私、あの桃原さんとお兄ちゃんが付き合うの、反対だからね」
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次話は明日の朝投稿予定です!
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