技術部②
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■こよみ視点
「私が技術部主任、“岐佐十色”だ」
パーテーションの裏から現れたんは、技術部主任を名乗る、異様に背が高い不気味な男やった。
その見た目は、天井にも届きそうな身長のほかにも、肩まで無駄に伸びた金髪の髪の毛、目の下にクマのできたたれ目、汚い無精ひげ、来てる白衣がずり落ちそうなほどのなで肩と猫背、極めつけは、袖から覗く毛むくじゃらな毛やった。
……もし耕太くんやのうてこの男が、耕太くんと同じ台詞吐かれたら……うん、ウチには絶対ムリや。
ウチは心の底からそう思た。
「それで、この私に一体何の用だ」
「決まってるわ! どうしてヴレイピンクだけ新装備を渡して、私達他の隊員にはないのよ! 全員が同じように新装備を持っていたら、先日の怪人イタチソードとの戦闘も楽に勝てたし、怪人カネショウと怪人アリス=ヒュブリスの二人も逃がさずに済んだはずよ!」
バイオレットはまくしたてるように技術部主任を糾弾する。
だが、技術部主任はそんなバイオレットの言葉を全く意に介さず、頭をポリポリと掻くと。
「それは仕方ないだろう。なにせ、あの“ヴレイヴハート”はヴレイピンク専用装備なんだから」
「だったら私達にもその専用装備を用意すればいいでしょ!」
「ん? そりゃあムリだ」
ウーン……さっきから全然二人の会話が噛み合ってへんように聞こえるんは気のせいやろか……。
「なんで私達の分を用意するのがムリなのよ!」
「決まってる。“ヴレイヴハート”はヴレイピンクのためだけに開発されたものだからだ」
アカン、話が堂々巡りや。
見てみい……バイオレットのイライラが限界に達して、額に青筋が浮いてピクピクしとるがな。
「ああもう! だったら私達の新装備も私達のためだけに開発したらいいでしょうが!」
「だからそりゃ無理だ。他の隊員専用の装備を開発したところで、我々の技術力じゃ今持ってる武器に毛の生えた程度のパワーアップしかできんよ」
「「はあ?」」
コイツ、ホンマに何を言うてるんや!?
ウチは“ヴレイヴハート”のおかげで、あのパワーアップしたイタチソードを倒すことができたんやで!?
「ちょ、ちょっと待ちいや。“ヴレイヴハート”はアンタ等が作ったもんやろ? せやったら同じモン、簡単に作れるやんか」
「……それは無理だ」
すると技術部主任は、苦虫を噛み潰したような表情で視線を落とした。
いや、ムリってなんなん!?
自分達で作っときながら、同じモン作れへんってどないなってるんや!?
「……ねえ、詳しく理由を説明して欲しいんだけど」
バイオレットの様子が先程までの演技じみたものから打って変わり、ドスの効いた低い声で技術部主任に詰問する。
せやけど。
「私はこれ以上二人に話すことはない。さあ、私は忙しいんだ、そろそろ仕事に戻るとするよ。二人もこんなところで油を売ってないで、さっさと司令本部に戻ったらどうだ?」
「はあ!? ちゃんと説明してもらうまで、ここから動くわけないでしょ!」
バイオレットはものすごい剣幕で技術部主任に詰め寄った。
すると。
「なら勝手にそこで居座っていろ。私は仕事に戻る」
「なっ!」
そう言って技術部主任は踵を返し、追いすがるバイオレットを無視するかのように中へと入って……。
「あ、そうそう、すっかり忘れていたが、“ヴレイヴハート”の機能やその能力に関する資料を渡しておこう。何であるかが分からないと、十全に使うことができないからな」
技術部主任は突然振り返ると掌をポン、と叩き、そんなことを言い出した。
いや、それは“ヴレイヴハート”くれる時にちゃんと渡してえな……って、あの時は技術部主任やのうて、司令と秘書の松永さんやったな……。
「ではすぐに資料を取ってくるから、少々ここで待っていたまえ」
そう言い残し、技術部主任はパタパタと中へと入って行った。
「……なあ、技術部主任の話、どう思う……?」
「どうって決まってるでしょ。おかしいにも程があるわよ……もっと問い詰めてやろうかしら……」
「いや、あの様子やと多分なんも言わへんで。それより、一回耕太くんと飯綱先生と合流して、ちょっと整理したほうがええんとちゃうか?」
「そうね……それじゃ、資料を受け取ったらとりあえず大学の研究室に行きましょ」
ウチとバイオレットはお互い頷き合うと、技術部主任が戻ってくるのを待つ。
すると。
「すまんな。これが“ヴレイヴハート”の資料だ」
そう言って手渡されたのは、辞書くらい分厚い一冊のファイルやった。
「ここに“ヴレイヴハート”に関する機能や能力について詳細に書いてある。次の怪人襲撃までに、ちゃんと読んでおくんだな」
技術部主任から無造作にファイルを手渡されたけど……。
「なあ……これ、なんで最初に“ヴレイヴハート”をウチに渡す時にくれへんかったんや?」
「ん? それについては私は知らない。ただ、私は松永秘書にはこのファイルと同じものを渡しておいたはずだがな」
「松永さんに?」
「そうだ。使い方も分からないようでは、ただのガラクタに成り下がってしまうからな。このファイルを渡されなかったにしろ、松永秘書から使用方法などは聞いていただろう?」
「そら、簡単な使い方と武器なんかについては聞いたけど……」
それでも、そんな詳細には聞いてない。
発動条件も、『使用者の心の強さを具現化』とか抽象的なモンやったし。
「まあいい。とにかくそれをちゃんと読み込んでおくんだな。それと、それは大事な機密資料だからな。決して汚したり水をこぼしたりして、ダメにするなよ」
そう言い残し、今度こそ技術部主任は中へと去っていった。
「ああもう! 何なのアイツ!」
バイオレットは技術部主任の態度が気に入らへんみたいで、怒り狂ってる。
ウチもあの態度はどうかとは思うけど、そうは言うても、なあ……。
「まあ、とにかく一回研究室に戻ろやないか」
「はあ……まあ、そうね……」
ウチは手渡された資料を眺めながら、これからどないしようかと、思わずこめかみを押さえた。
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次話は本日夜投稿予定です!
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