技術部①
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「はあ……夏休みも終わってしまった……」
僕はモモに跨りながらガックリとうなだれる。
『ソウ言ウナ。マタ冬休ミガアルサ』
「大分先じゃないか……」
モモは励ましてくれるが、励ましになってない。
「耕太くん! ほな行こか!」
「はい! ですが、わざわざすいません」
「何言うてるんよ、ウチも司令本部に行くついでやし、それに、ウチも一緒に行けるんは嬉しいし……」
そう、夏休みが明け、僕は後期の最初の授業を受けに大学に行くのだが、こよみさんが大学まで送ってくれることになったのだ。
もちろんそのことに関してはすごく嬉しいんだけど、司令本部のある市ヶ谷とは逆方向だから、こよみさんに申し訳ないなあ……。
「うーん、それでもやっぱり遠回りになりますし……」
「あ、せやったら、また美味しいモン作って? それでチャラいうことで」
「分かりました。こよみさんは何か食べたいものはありますか?」
「ウーン……耕太くんの料理は何食べても美味しいさかいなあ……」
こよみさんは人差し指を顎に当て、少し上を見ながら思案している。
こよみさんが喜びそうな食べ物、かあ……………………あ、そうだ!
「でしたら、お菓子なんてどうですか?」
「お菓子! 耕太くんお菓子も作れるん?」
「はい、よく妹に作ってやりましたから」
そうだなあ、小夜の奴、いつも僕が作るシフォンケーキを美味しそうに食べてくれたよなあ……。
「はわあああ……耕太くんが作るお菓子……美味しいんやろなあ……」
こよみさんがウットリとした表情で手を組み、瞳をキラキラさせている。
「あはは、それじゃお返しはお菓子……シフォンケーキでいいですか?」
「シフォンケーキ! もちろん! そんなん毎日でも送り迎えするよ!」
うん、だったら毎日お菓子を……ダメだ、授業が……。
「と、とりあえず、今日の授業は初日ですから午前中の講義しか入ってませんので、お昼からシフォンケーキ作りしましょうか」
「うん! ウチもお昼までに帰ってくるさかい!」
「はい」
こよみさんとお菓子作りの約束をし、僕は大学へと送り届けてもらった。
◇
■こよみ視点
「はわあああ……耕太くんのシフォンケーキ、楽しみやなあ……」
耕太くんを送り届けた後、ウチの頭の中はシフォンケーキ一色やった。
「シフォンケーキ言うたら紅茶かなあ……いや、シンプルなプレーンもええし、チョコも……はわあ、迷うなあ……って、エレベーター着いてしもたがな」
ウチはエレベーターを降り、司令本部の中へと入ると、いつものようにブルーがスマホを弄っていた。
「ようピンク! 今日は耕太は……って、アイツは学校か」
「いやいや、いくらウチかて、耕太くんと四六時中いたりせえへんよ」
本音は四六時中耕太くんと一緒にいたいけど。
「へいへい、それよりバイオレットから伝言預かってるぜ。なんでも『技術部に来てくれ』って」
「バイオレットが?」
何やろ、またアイツのことやさかい、イヤな予感しかせえへんのやけど……。
ま、ええか。
「分かった、ホナ行ってみるわ」
「おう」
ウチはブルーと別れ、一つ下のフロアの技術部に向かう。
「ここやな」
『株式会社松永化学』と書かれたドアをまじまじと見る。
そういえばウチ、技術部の中に入ったこと、今まで一回もあれへんなあ。
などとくだらないことを考えながら、ドアを開けて中に入る。
すると。
「来たわね」
入口のソファーに腰掛けていたバイオレットがウチに気づき、立ち上がって傍に寄ってくると、そっと耳打ちした。
「(とりあえず、あなたの“ヴレイヴハート”について調べるから協力して)」
「(それはええけど……大丈夫なんか?)」
「(任せて)」
そう言うと、バイオレットは無言で手招きしながら、技術部のフロアの奥へと進んでいく。
一抹の不安を覚えながらも、とりあえずバイオレットの指示に従うことにし、彼女の後をついて行った。
「ちょっと! 技術部にどうしても言いたいことがあるんだけど!」
「っ!?」
バイオレットは技術部の職員をつかまえるなり、いきなりケンカ腰で絡んだ。
コイツは一体何を考えてるんや!?
目で訴えるけど、バイオレットはウインクで返すだけので、仕方なく大人しく見守ることにした。
「あ、あの、何でしょうか……?」
「コッチのピンクには新装備渡して、私達ほかの隊員にはもらえないってどういうことなの?」
声は穏やかやけど、バイオレットのその言葉の端々に技術部への不満が多分に含まれていた。
「あ、そ、それはその……」
「なあに?」
「い、いえ……あ、そ、そうだ! しゅ、主任なら詳しいことをご存じのはずですので!」
そう言うと、職員は逃げ出すようにその場を去った。
「……ねえピンク、今のどう思う?」
「どうて……あんなん、絶対何か隠しとるに決まってるやん」
ウチにだけ“ヴレイヴハート”を渡さなアカン理由……一体何やろか……。
「まあ、考えてても仕方ないわね。とにかく、その主任とやらをとっ捕まえにいきましょ?」
「その必要はない」
すると、奥のパーテーションから一人の男が見計らったかのようにスッ、と現れた。
「私が技術部主任、“岐佐十色”だ」
お読みいただき、ありがとうございました!
さあ、今回から第5章、スタートです!
また、物語も後半に入り、サブタイトルも併せて変更しました!
次話は明日の朝投稿予定!
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