セカンドキスとおうち焼肉
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「はわあ! 今日はやっきにく♪ やっきにく♪」
今日の晩ご飯は焼肉にしたから、こよみさんのテンションがすこぶる高い。
……あんな話をした後だから、少しでも元気になれるようにってこのメニューにしたけど、正解だったな。
「さて、それじゃ野菜を切りましょうか」
「うん!」
焼き野菜として買ってきたのは、キャベツ、ピーマン、玉ねぎ、にんじん、そして、とうもろこし。
それぞれ食べやすい大きさに切って、皿に盛る。
次に、ボウルにしょうゆ、酒、みりん、すりごま、ごま油、ニンニクのすりおろし、コチュジャン、そして。
「はわあ、リンゴジュースなんか入れるんや」
「はい、甘味も加わって美味しくなるんです」
そこへ買ってきた牛肉のカルビとロースを入れて軽く混ぜ合わせたら、ラップをして冷蔵庫で冷やしておく。
おっと、焼肉に合うつまみを作らないと。
まずきゅうりを細切りにしたら、それをお皿に敷いておく。
次に、冷蔵庫からマグロの刺身を取り出し、包丁で細切りにしていく。
「なあなあ耕太くん、スーパーでも思てたんやけど、今日は焼肉やのにマグロの刺身なんか何するん?」
「それはですねえ……出来上がってからのお楽しみということで」
小さめのボウルにしょうゆ、砂糖少々、コチュジャン、ニンニクのすりおろし、すりごま、ごま油を混ぜ合わせ、そこに細切りにしたマグロを投入し、さらに混ぜる。
そしてそれを先程のきゅうりの細切りを敷いた皿の上に綺麗に盛り付け、中央にくぼみを作っておく。
で、くし切りにしたレモンを添えて、と。
「あ、分かった! これユッケや!」
「正解です。あとは食べる直前に卵の黄身をくぼみに乗せたら完成ですよ」
「はわあああ……美味しそう!」
こよみさんはユッケから目が離せないのか、僕がラップをして冷蔵庫にしまうまで、お皿の動きに合わせてずっと見つめていた。
「さあ、これで晩ご飯の準備はできました。一旦休憩しましょうか」
「うん」
僕達は手早く後片づけをしたら、麦茶を入れたグラスを持ってリビングに行った。
「うーん、何か面白いテレビやってへんかな……」
テレビのスイッチを入れると、こよみさんはポチポチとチャンネルを回す。
そんなこよみさんの横顔を眺めていたら、どうしようもなくこよみさんが愛おしくなって、ついつい僕はこんなことをしてしまった。
「はわ……耕太くん、その、どうしたん? 急にウチに抱きついたりして……」
「すいません……その、どうしてもこよみさんとくっついていたくなりました……」
「あ……うん、ウチも耕太くんとこうやってくっつくの、大好き……」
そう言うと、こよみさんは僕の胸に顔をうずめる。
「えへへ……耕太くんの匂いがする……」
その時、僕はどうしてもこよみさんの顔が見たくなって、その顔に触れたくなって、そして。
「こよみさん……」
「あ……耕太くん……」
僕がそっとこよみさんの頬に触れると、こよみさんが顔を上げ、僕の顔を上目遣いに覗き見る。
その顔は赤く上気し、瞳は潤んでいた。
僕はこよみさんに顔を近づけ、そして。
「ん……ちゅ……」
こよみさんのその小さくて可愛い唇に、優しくキスをした。
「……ん……ふあ……」
しばらくキスを続けた後、そっと唇を離す。
こよみさんは、蕩けるような、だけど、少し名残惜しいような、そんな表情をしていた。
「こよみさん……これでキスは二回目、ですね……」
「う、うん……」
僕がそう言うと、こよみさんは恥ずかしそうに俯き、隠すようにその顔を僕の胸に再度うずめた。
◇
「さて、焼きますよー!」
「うん! はようはよう!」
テーブルに用意したホットプレートのスイッチを入れ、鉄板部分が熱くなるまでジッと見つめる。
しばらくして掌を鉄板の上にかざしてみて……うん、もういいかな。
僕はお肉、野菜、ウインナーをバランスよく鉄板の上に並べていくと、お肉からジュワー、と食欲をそそる音がした。
「はわああ……ええ匂いがしてきたー!」
「あはは、すぐに焼けますから……」
——ピンポーン。
「……まさか」
「……ですね」
——ピンポンピンポンピンポン。
「あああああ! やっぱりアイツや! 何やねんもう! 絶対この前のカレーで味しめよったわ!」
「ど、どうしましょうか……?」
「……今回も居留守……」
——ドンドン!
「二人とも! こんないい匂いさせて! いるのは分かってるのよ!」
……はい、やっぱり先輩でした。
「はわあ……まさか焼肉が仇になるやなんて……」
「……玄関、行ってきます」
渋々僕は玄関に行き、ドアを開けた。
「先輩、またですか……」
「ほらあ! やっぱり焼肉じゃない!」
「す、すまない……紫村がどうしても言うことを聞かなくて……」
そこにいたのは、やはりというか先輩と、まさかというか飯綱先生だった。
「せ、先生までどうしたんですか!?」
「そんなことはどうでもいいから、とにかく上がるわよ!」
「わ!? ちょっ!?」
僕が何か言う前に、先輩は素早く部屋の中へと上がっていき、そして。
「もおおおお! 何やねんオマエは! 食事時狙ってはた迷惑な!」
「なによ! 私だって上代くんの晩ご飯を食べたいのよ!」
早速こよみさんと先輩が言い争いを始めた。
「先生……それで、これは……」
「本当にすまない……あの後、やっと落ち着いた紫村がヤケ酒だと言って、私も無理やり連れてこられて……そうしたら、君達の部屋から、その、美味しそうな匂いがしたものだから、紫村が……」
「ああ……」
どうやら先生も被害者だったようだ。
「本当に先輩は仕方ないですね……ということで、狭いですが先生もどうぞ」
「え? ……いや、しかし……」
「お肉は多めに用意してありますし大丈夫ですよ。それに、こんな時くらい、みんなで騒いでもいいんじゃないでしょうか」
「フフ……そうだな。ではお言葉に甘えるとしよう」
僕は先生を中へと招き入れ、リビングに行くと。
「えー! もうお肉焼けたから食べてもいいでしょ!」
「アカン! ちゃんとみんなで『いただきます』してから食べるんがうちのルールや!」
うん、こよみさんも諦めて、一緒に食べることを選択したようだ。
まあ本当は、先輩を元気づけようっていうこよみさんの気遣いだってことは、もちろん分かってますけどね。
「じゃあ先生もお座りください」
「ああ、では失礼して……」
僕はキッチンへ行って二人のお箸とお皿、缶ビールを持ち、リビングへと戻る。
「上代くん! 早く早く!」
「はいはい」
二人にお箸とお皿、缶ビールを渡し、僕もこよみさんの隣に座る。
「さて、それじゃ……せーの!」
「「「「いただきます!」」」」
お読みいただき、ありがとうございました!
第4章は今回で終了!
数話を挟んで第5章に突入します!
第5章では、こよみさんにとって避けられない闘い(?)が待っています!
こうご期待!
次話は明日の朝投稿予定です!
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