条件①
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「はあ……」
僕は、今日の待ち合わせ場所、新宿にある公園の噴水前のベンチでうなだれる。
ああ……僕はどうなってしまうんだろうか……。
さすがに国の機関なんだから、そんなにひどい扱いは受けないとは思うんだけど……。
でもなあ……ひょっとして、拘束されて刑務所に入れられて、一生出られなくなったりとか……!?
い、いやいやいや! 法治国家の日本で、そんな馬鹿な……ねえ?
それより、心配なのはこよみさんだ。
言っても所詮僕は一民間人だけど、彼女は向こう側の人間で、ヴレイファイヴの一員で、そして、その責任は僕なんかの比じゃないはずで……。
僕のせいで……。
罪悪感と不安で押しつぶされそうになり、思わず僕は胸襟をギュ、と握る。
「君、どうしたんだい?」
胸元を押さえていたからなのか、四十代のサラリーマンらしき男性が心配そうな表情で声を掛けてきた。
「あ、ああいえ、大丈夫です」
僕は何でもないと、少し大げさに手を振りアピールする。
「そうかい? それならいいけど」
そう言って、男性は僕の隣に腰掛けた。
「あ、あの?」
「ん? ああ、私も用事があってね。隣に座らせてもらっても?」
「ああ、どうぞ……」
僕はそれ以上は特に気にすることもなく、こよみさんのことを考える。
すると。
「いやー、実は私もちょっと困ったことがあってね。それで悩んでいるんだけど……」
そう言うと、男性はチラチラとこちらの様子を窺っている。
これはアレかな、僕に話を聞いてほしいのかな……。
「そ、そうですか」
僕は話を打ち切るため相槌だけ打って、視線をそらした。
「それがね? 部下の女の子が仕事のミスしちゃって落ち込んでるんだけど、どうやって慰めたらいいかと思ってね」
アレ? お構いなしに喋り出したぞ!?
「その子はすごく仕事もできて頑張り屋なんだけど、ちょっと引きずっててね……自分のせいだって、ふさぎ込んじゃってるんだ」
「はあ……そうですか……」
この口ぶりから、この人はその部下のこと、本当に心配してるんだって分かる。
無視しようと思ったけど……うん。
「その、部下の方はどんなミスをされたんですか?」
僕は男性に、その原因を尋ねる。
聞くくらいしかできないけど、気休めくらいにはなるかもしれない。
この人にとっても……僕にとっても。
「いや、上司の私からしたら本当に大したミスじゃないんだ。だけど、その子の馬鹿な同僚が余計なことを言ったせいでね……特に、その子の大切な人を巻き込んでしまったことを気に病んで……」
僕と同じだ。
僕の不用意な行動のせいで、僕のつまらない好奇心のせいで、こよみさんに迷惑をかけて……。
思えば、最初からそうだ。
僕がアリスにフラれて馬鹿みたいに落ち込んで、それをこよみさんが心配してくれて、励ましてくれて、優しくしてくれて……。
だから。
「その……僕も同じように迷惑をかけてしまった女性がいて、後悔して、悩んでたんです……」
僕は一拍おいて、男性へと向き直る。
「だけど、僕は少しでも……その人に少しでも何かを返したくて。意味ないかもしれませんし、その女性は優しいから断られるかもしれませんけど……でも、それでも……!」
気づけば、僕はこの人に自分が抱えている悩みを打ち明けていた。
僕が聞き役だったはずなのに。
だけど、これはただ打ち明けたわけじゃない。
これは僕の決意。
少しでもこよみさんのためにっていう決意。
すると、そんな僕の決意を静かに聞いていた男性は、柔らかい表情を浮かべていた。
「うん、君は本当に優しいんだね。うんうん。彼女が気に入るはずだ」
「はい?」
僕は男性の言っている意味が分からず、キョトンとしてしまった。
「桃原くん。だ、そうだよ?」
「へ?」
男性は後ろへと振り向く。
すると、少し離れた木陰から、こよみさんが顔を真っ赤にし、俯きながら現れた。
「え? え?」
「ああ、自己紹介がまだだったね。私は国家安全対策部ダークスフィア対策推進室長兼勇者戦隊ヴレイファイヴ総司令、“高田光機”だ」
そう言うと、男性——高田司令はニコリ、と微笑んで右手を差し出した。
「あ、あの! 上代耕太です!」
俺は慌てて右手をつかみ、握手を交わす。
そして。
「こ、耕太くん!?」
「そ、その! こ、こよみさんは悪くないんです! 悪いのは僕で! 僕が勝手にこよみさんの後をつけて……だ、だからこよみさんは……!」
僕は勢いよく土下座をした。
「ち、ちゃうんです司令! ウチがあんなとこで変身なんか解いてしもたから! せやから耕太くんは無関係なんです!」
「な!? ち、違うよこよみさん! こよみさんは悪くないじゃないか! 僕が勝手に野次馬で現れて、戦闘員に襲われそうになったところを助けてくれて、しかも後までつけて……」
「ち、ちゃう! 耕太くんは女の子が襲われてたんを、身体張って助けようとしてたんやんか! そ、それにその後かて、ウチが……!」
「あー……とりあえず分かったから。そろそろイチャイチャするのはやめてくれるかな?」
高田司令は頬を掻きながら苦笑いをしていた。
「わ、わああ!?」
「は、はわわ!?」
僕とこよみさんはハッ、となって、思わず顔を見合わせる。
「ハハハ、まあ、二人が仲良しなのは分かったよ。それで、そろそろ本題に入ろうか。上代くん、君は国家最重要機密であるヴレイファイヴの一人、ヴレイピンクの正体を知ってしまった。当然、我々もそのことを看過することはできない」
「は、はい」
「し、司令! それは!」
「あー、桃原くん、とりあえず黙っててくれるか」
高田司令の言葉にこよみさんが反応し、食って掛かろうとすると、それを有無を言わせない態度で高田司令が制止した。
「それで、このまま君を拘束することも可能だ。だが、私は君に一つ提案をしたい」
「提案……ですか?」
「ああ。君がヴレイピンクの正体について他言しないこと、常に我々の監視下に置かれること、我々の求めに応じ、必要によってはダークスフィアとの戦闘において協力すること。この三つを約束してくれるなら、今回の件は不問としたい」
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次話は本日夜投稿予定です!
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