怪人アリス=ヒュブリス①
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「……殺せ」
イタチソードがポツリ、と呟く。
確かにこよみさんとイタチソードの闘いは決着を迎えた。
だけど。
「……なあアンタ、ウチ達の仲間になる気はあらへんか?」
こよみさんがイタチソードにそう語りかける。
「っ! ふざけるな! この私がそんな真似、できる訳なかろう! これ以上恥をかかせるつもりか!」
こよみさんの提案に、イタチソードは激昂した。
先輩は仲間になってくれたから、イタチソード……飯綱先生ももしかしたら、って思ったけど……。
「アンタの恥とか、そんなんウチの知ったこっちゃない。そもそも、アンタを生かすも殺すも、アンタに勝ったウチ次第や」
「クッ……!」
飯綱先生は悔しいのだろう。
その鉄仮面越しにでも、歯噛みしていることが分かる。
「……それにな、アンタが死んだら、悲しむ人もおるんやで?」
そう言うと、こよみさんがチラリ、と僕のほうを見た。
こよみさん……。
「……上代くん、か……」
「せや。耕太くんはホンマに優しいさかい、アンタのこともすごく心配してる……もしアンタも、先生として耕太くんのことが可愛い思てるんやったら、教え子の気持ち、汲んではもらえへんやろか……?」
「……だが、私は……」
「いやあ、なんだい。せっかく三回も怪人化して、しかも新兵器まで投入したのにこんな結果になるなんて、“あの御方”が見たらなんて言うかなあ?」
突然聞こえたあどけない声に、僕達全員が振り返る。
そこには、以前にアリスと闘った時に現れた、怪人の男の子の姿があった。
「カネショウ……」
飯綱先生が怪人の男の子を見て呟く。
おそらく、それがあの怪人の名前なんだろう。
「しっかし、まさか新兵器の“ダークパワードスーツ”と“ヴレイブレイカー”まで通用しないだなんて、思いもしなかったよ。わざわざあの赤いヤツからヴレイファイブの情報と一緒に仕入れたのになあ、チェッ!」
怪人カネショウは足元の小石を蹴りながら子どもみたいな舌打ちをした。
だけどちょっと待て!?
今、カネショウはなんて言った!?
「お、おい! お前今、“赤いヤツ”って……!?」
飯綱先生の攻撃を受け、壁を背にして座り込んでいた青乃さんがたまらず聞き返す。
「ん? だから言ったじゃん。オマエ達の仲間の赤いヤツから仕入れたって」
「おい! レッドはお前達に捕らわれているのか!?」
「捕らわれてるって人聞きが悪いなあ。彼は僕達の仲間になってくれたんだよ」
「なんだと!?」
レッドがダークスフィアの仲間に!?
そんな……いくらあのレッドだからって、あれほど正義のヒーローにこだわっていたあの男が悪に魂を売ってしまうだなんて……!
「嘘だ! アイツは……アイツはそんなことするような奴じゃねえ!」
「そんなこといわれてもなあ……そうだ! だったら直接会ってみればいいじゃん! ボクって頭良いなあ!」
カネショウはそう言うと、ポンと掌を叩いた。
そして。
「オーイ! そこの君、ちょっとコッチに来て!」
「ギー!」
戦闘員の一人がカネショウに呼ばれ、彼の元へやって来る。
すると、カネショウは戦闘員のマスクに手をかけ、そして……。
「っ!?」
「な!?」
カネショウが剥ぎ取ったマスクの下から現れたのは、ヴレイレッド、その人だった。
だが、彼の顔はツギハギだらけで、その眼球はグルグルと左右別々に動いていた。
「そんな……」
僕達はレッドの凄惨な姿に思わず絶句する。
「いやあ、彼から色々と情報を聞き出すときにチョット、ね? オマケに怪人化にも失敗しちゃったものだから、こうやって戦闘員としてのセカンドライフを送ってもらってるんだ」
カネショウは、テヘ、といいながら舌を出した。
「テメエ……テメエエエエエエッ!」
「ブ、ブルーさん!?」
怒り狂った青乃さんが、カネショウに向かって渾身のヴレイブーメランを投げつける。
「アハハ! そんなへなちょこな攻撃がボクに当たる訳……ナニイッ!?」
「やあっ!」
ヴレイブーメランに気を取られた隙を突いて、こよみさんがランスでカネショウを攻撃した。
「クッ!?」
カネショウは間一髪その攻撃を躱した……かに見えた。
「ウワアアアアアッ! ボクの……ボクの指がああああ!」
僅かにカネショウの右手にランスが触れていたようで、見ると彼の薬指と小指が欠損していた。
「ググ……このおおおおお! もう怒った! 絶対に許さないからな!」
そう言うと、カネショウから尻尾のようなものが生えてきた。
「死んじゃえ!」
そう叫ぶと同時に、尻尾の先端がこよみさんへと襲いかかる……が。
——ガキン!
その攻撃は、こよみさんの盾によって防がれ、こよみさんには届かなかった。
その時。
「アハハハハハハハ!」
「なっ!?」
突然背後から、耳障りな笑い声とともにこよみさんに向かって無数の羽根のようなものが飛んできた。
「くっ!? アイギスシールド!」
こよみさんが盾を展開すると、その羽根は全て防がれ、ボトボトと地面に落下した。
「もう! 何よなによナニヨ! 全部止められちゃったじゃないの!」
金切り声で悔しがる女怪人は、その場でガシガシと地面を蹴る。
その女怪人の姿は、背中に三対六本の漆黒の翼を生やし、同じく黒のビキニアーマー、踵の高いピンヒールを履いていた。
——そして、その顔を僕達は知っていた。
「アリス……!」
「ん? アハハハハハハ! 耕太じゃない! 相変わらずマヌケな顔をしているわね!」
「やかましい! お前なんかが耕太くんを語るな!」
こよみさんが僕とアリスとの間に立ち、アリスを睨みつける。
「うるさいわねえ! オマエこそ邪魔なのよ!」
「それより……アリス、その恰好は……?」
「コレ? イイデショ? また怪人化をしたの。だから、今の私はアリスじゃない。“怪人アリス=ヒュブリス”よ!」
アリスはさも尊大に、傲慢に、自身の新たな名を高らかに宣言した。
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